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体育館での説得

《九月 十四日 PM4:10》

 たくさんの生徒が見守る中、デュオとペンデは体育館の舞台の上にいた。

 デュオは緊張で汗ばんだ手を使いマイクを握る。

 放送器具を扱うのは捕虜にした放送委員に任せている。

「皆聞いて」

 デュオの声に会場全体がしんと静まり返る。

 静寂の中、デュオは声を張り上げる。

「私はこの戦争を起こしたチームのリーダー、デュオ!」

 辺りからどよめき声がし始める。

「静かに、今から状況を話すから静かにするように!」

 デュオは会場が鎮まるのを待ちマイクを握りなおした。

「私達はみんなの知っての通りこの学校に戦争を仕掛けた。だけど私達には人数が足りない。教師達のいる教室を占拠する戦力も、下手をすればここを守るだけの戦力も。だから皆に協力してほしい。罪はすべて私達が被る。だから皆に迷惑はかけない。だから手伝ってほしい。報酬はこの退屈な日常からの脱出!」

 退屈な日常からの脱出と聞き会場の空気が変わる。

 だが、

「協力したことがばれて成績下げられるのは嫌だしなぁ」

 そんな誰かの声で体育館に不安が波紋のように広がって行く。

「もしかしたらそれだけじゃなくて退学にさせられるかも」

「疲れるし面倒臭いからやりたくない」

「面白いことが起こるっていうから来たんだ。危険を冒してまで手伝う気はない」

 そう言った声が体育館のあちこちから聞こえてくる。

「お前ら、それで恥ずかしくないのかよ! 目の前で仲間が戦っているのにただ野次馬根性で見てるだけ! 何もしない! それでいいのかよ!」

 聞くに堪えなかったのかペンデが声を張り上げる。

「お前らが始めたことだろう。なんで俺達が協力しなくちゃいけない」

「お前らでやってお前らで終わらせればいいさ。俺達は見学しに来ただけだ」

 だが帰ってくるのは反論の言葉だけである。

 憤るペンデの肩に手が置かれる。

 振り返ってみると、デュオがあきれ顔で見ていた。

「なってないねー、説得っていうのはこうやるんだよ」

 デュオはペンデを押しのけ前へ出る。

「変わりましてデュオです」

 何も特別なことは何一つ言っていない。

 さっき話していたペンデから変わってこれから私が話す、ということを言ったにすぎない。

 なのに、体育館の空気が変わった。


 デュオのその雰囲気に。


 デュオのその威厳に。


 そして何より、デュオのその力強さに。


「あなたたちは何か変えてみたいことってある?」

 それはとても単純な言葉、だがデュオの発したその言葉は深く、そして広く人々の心に染み込んでいく。

「変えたい、変えてみたい。でも力がない。だからやらない。そう思ったことはない? そう思ったことがあるのなら今、これはチャンスだよ」

 ただの言葉、かけ値のない言葉。

 しかし、デュオの一挙手一投足が人の心を動かしていく。

「目の前で起きている波、それにちょっと乗るだけでいい。それだけで他ならぬあなたたち自身が歴史を変えられる。そういうチャンスだよ」

 体育館は完全に静まり返り、デュオの声だけが体育館を支配する。

「罰を与えられるのが怖い? そんなこと気にする必要はない。勝つのは私達。もし負けてもあなたたちは私達に捕まっていただけの人質、罰せられはしない」

 横でペンデが目を見張っている。

 そして同時に納得する。


 この人が俺たちにリーダーなんだな、と。

「立ちあがれ! そして変えろ! この学校を! この街を! この街を変えるのは――――」

 ここでデュオは一回言葉を区切る。

「――――あなたたちだ」

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、と雄叫びが上がり、体育館全体が震える。

 デュオは振り向きペンデを見る。

「説得っていうのはこうやってやるんだよ。戦いで兵士の心を奮い立たせるには誇りに訴えかければいい。ペンデがやったようなことで正しい」

 でもね、とデュオは言う。

「革命を起こす人民を動かすのは誇りじゃなくて立ちあがるための勇気だよー」



《九月 十四日 PM4:10》

「ふふ、順調だな」

 教員室では救出された教頭が悪役の香りを強烈に醸しながら笑っている。

 教員たちは先ほど避難訓練用の非常警報のスイッチを押したのだ。

 この学校では、そのスイッチが押されると防災扉が閉まり、ロックされる。

 一応、防火扉についている小さい扉は開くのだが、開かれたかどうかが教員室から確認でき、防災のためのものなので人が押さえていないと小さい扉は閉まってしまうのだ。

 つまり、校舎内の生徒達の動きは教師達に筒抜けになるのだ。

「ふん、やはり防火扉が閉まったときには居場所が割れないように動かないよう言われているな。グループA、三階の第三ブロックまで移動。グループB、二階の稲穂ブロックまで移動。そのとき見つけた生徒をとっ捕まえるように――――」

「教頭!」

 教頭が各教師に命令を下そうとしたところに防火扉の状態をモニターしていた教師が大声を上げる。

「何があった」

「一棟の一階、入り口の場所から防火扉が順々に開いていって、いまだに閉まりません」

「それはつまり――――」

「大量の生徒が一棟に押し寄せたということです」

 教頭はそこで絶句した。


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