反撃開始 その2
《九月 十四日 PM4:10》
教師たちは一棟三階の一室に集まってきていた。
先ほどまでロープや網で宙吊りにされていた者は血が頭に上り顔を真っ赤にし、粘着塗料に捕まった者はべたべたする不快感に眉をしかめていた。
「よし、床にそれらしき罠もない、入っていいぞ」
先頭の教師が告げ、そのあとを複数の教師が続いた。
しかし、教師は床を見るだけで気付いていなかった、天井がいつもよりも低いことに。
確かに入っても何も起こらなかった。
――――全員が入りきるまでは。
最後の一人が部屋に入ったとたん後ろで引き戸がバタンと閉まり天井が開き、そこから液体が降ってきた。
その液体は最初こそただの液体だったが、しばらく時間がたつと粘性を持ち始め、完全に固まった。
《九月 十四日 PM4:15》
「…………教師達が集まった部屋の隣の部屋に潜んでいた奴らから報告があった。一棟内の教師達を一網打尽するのに成功したようだ」
エクシの視線の先には教師達を完全に封殺する作戦を立てた者の姿があった。
「うまくいってよかったよ、あの偽天井を造るのは数日かけたからね」
そこに空気に反応して固まる液体を入れるのにはもっと苦労したけど、とエナは朗らかに笑った。
他の罠は後から用意したが最後の罠だけは時間がかかるので最初から用意しておいたのだ。
「…………どうして分かった」
「何が?」
「…………教師達が集まるであろう部屋を、なぜおまえは数日前にすでに知っていた」
「ああ、そんなこと」
そこには本当に何でもなさそうな顔をしたエナの姿があった。
「選択肢を潰していえばいいんだよ。下に行こうとすればどんな罠が待っているかわからない、二階も危険、となると三階に上がりたくなる。それなら三階の非常階段に一番近い教室に罠を仕掛けておけばいい」
「…………なるほど。上へ行く非常階段に何も罠を仕掛けなかったのはそういうわけか」
「そういうわけ」
エナは得意顔で腕を組んだ。
「…………これならデュオが生徒達を説得できなくても押しきれるのでは――――」
「それは無理」
エクシの言葉をさえぎるようにしてエナが言う。
「…………なぜだ」
「もうすぐ一棟前の戦線が破られるからだよ」
「…………元々一棟にいた生徒達も投入できるのにか?」
そしてエナの顔から笑顔が消える。
「教師たちはこれから防災扉を閉めてくるよ」
その瞬間、校舎から避難訓練用の非常ベルの音が響いた。