反撃開始
《九月 十四日 PM3:55》
一棟と二棟をつなぐ渡り廊下にいた教師達は奇妙に思っていた。
さっきまでバリケードを造り改造ガスガンで教師達の足を止めていた生徒達が、伝令の生徒一人が来て何事か告げると全員撤退してしまったのだ。
「妙だな……」
(罠か? それとも戦線を維持できなくなるとふんで早めに撤退したか)
だったら好都合だ、と教師はほくそ笑む。
生徒達はなぜか自分たちの中から捕まる者を出したくないらしいが教師側にすれば、どうせ全員捕まえなくてはならないので一か所に固まってくれるのなら都合がいい。
そう思って、教師達が一番大きな階段があるところへ行くと――――
――――防火扉が閉まっていた。
「なんだこりゃ」
この学校の防火扉は普段は階段側の壁にあるが、緊急時に扉を閉めるような形になっている。
「妨害のつもりなのか?」
教師は防火扉を押してみたが開かない。
何か障害物でも置いて扉があかないようにでもしたのだろうか、と思いながら教師は防火扉についている小さい扉の方へ行く。
防火扉自身は向こう側へ開くがそれについている小さい扉は手前側に開く。
だから障害物があってもこちらは開くはすだと思いながら小さい扉の取手に手をかけた。
その扉は確かに開くには開いた。
「ギャー」
――――ただし、開けた途端、教師の目の前に大量のボールが現れた。
野球ボール、テニスボール、バスケットボール、サッカーボール、ラグビーボール等々のさまざまなボールが。
驚くべきことにそのボールの中にはピンポン玉やボーリング玉まであった。
「何があった!」
扉を開けた教師が大量のボールに呑まれ辺りの教師が集まってきた。
「やられた、奴ら防火扉の向こうにボールを積んでやがった」
辺りから、なんで階下に転がって行かないんだろう、とか二階から一階へのところにバリケードでも造ってあるんだろう、とかこれを全部どけるのは骨だぞといった声が聞こえてくる。
「とりあえず、他の外へ出られる場所を探そう」
一階に降りることのできる階段は他にもある。
そういうことで非常階段に差し掛かった時、悲鳴が聞こえた。
そう、悲鳴。
何事かと他の教師が見に行くと、先頭を行っていたはずの教師達が網で捕まって宙吊りになっていた。
その様子を見に来た教師達も次の瞬間宙を舞っていた。
その足には縄が結ばれていてその先は一度、天井にねじで張り付けられた滑車を通じて窓の外に出ていた。
床を見ると環の形になった縄がいくつも置いてあった、ばれにくいように床の色に塗ってあるというおまけつきだ。
有効であった証拠に浮足立っていた教師たちは見事にこの罠に掛かった。
そして窓の近くにはさっき撤退したはずの生徒数名が。
おそらく教師が縄のエリアに足を入れた時に重りかなんかを付けた縄の一端を窓から投げ落としたのだろう。
「この餓鬼!」
生徒を追って数名の教師が教室の中に足を踏み入れた。
しかし、その教師たちはそこで無重力のような体感を得ることになった。
階段で先頭の教師達がかかったような網の罠に部屋の入り口で捕まったのだ。
生徒達はそれを見届けると窓から教師を吊っている縄を伝って下りていった。
まだ無事な教師達が部屋に入って行くと数名の教師がそこで転んだ。
床に粘着塗料が塗ってあり、そのせいでこけたのである。
なおも数名がそれを飛び越えて窓から顔を出すと下から生徒達のガスガンでの掃射を受けた。
たまらず後ろに下がるとそこには先ほどの粘着塗料が。
地獄絵図
まさに阿鼻叫喚の地獄絵図がそこに展開されていた。
その惨事を見た教師の一人がポツリと言った。
「とりあえず、一棟に残っていた先生と連絡を取って集まろう」






