スタートライン その2
《七月 十二日 PM8:50》
学校では勉強を教えられることはほとんどなく、教科書だけ配られしばらく経つとテストがあるだけだ。
したがって、生徒は自分で勉強しなくてはならないのである。
エナが家に帰り授業中(ほとんどが自習ではあるが)にやれなかった分の勉強をしていると携帯電話がバイブ音を響かせた。
ディスプレイに表示されたのはデュオの三文字。
エナは携帯電話を手に取り通話ボタンを押した。
「もしもし、デュオ、どうしたの」
『面白いこと思いついた!!』
スピーカが壊れるんじゃないかと思うほどの大音量がエナの耳に飛び込んでくる。
「…………、何?」
『ちょっと今から学校に来て』
一方的に用件だけ告げられ電話は切られ、後にはツーツーという音だけがエナの耳に響いた。
《七月 十二日 PM9:10》
デュオに呼ばれエナは、学校に着くと敷地の北にある山へ回った。
エナ達の通っている稲穂高等学校の敷地は東西に長い長方形をしており、高い塀で囲われている。
夜中に見るとまるで要塞がそびえているかにもみえる。
南に面している塀の一番東に正門、西に西門があるが、当然この時間は施錠されている。
しかし、学校に入れないかというと、そんなことはない。
塀の北側の中央にゴミ捨て場が塀にくっつく形で存在していて、その壁に人が一人くらい通れる穴があいているのである。
幸か不幸か、ゴミ捨て場の隣にあるボイラー室のせいでゴミ捨て場が隠れており、ゴミ捨てを生徒達に丸投げしてきた教師達はその存在に気付かず、問題になることはなかった。
そのおかげで生徒は忘れ物等をして教室に入らなければならない時、その穴を通り、校舎に入ることができるのである。
「どうしたの、デュオ。こんなところに呼び出して」
塀の穴をエナがくぐるとすでにデュオの姿があった。
そこにいたデュオはとてもうれしそうに笑っている。
まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔で。
「ねえ、エナ。この学校を舞台にした戦争を起こそうよ」
デュオのその言葉にはまるで幻想のように現実味がなかった。
「……本気?」
「うん、本気だよ。別にドンパチやろうって言ってるんじゃないけどね」
デュオは校舎のほうを向きまるで空を抱きかかえるかのように手を広げる。
「この学校にたてこもるんだ。ここの学校の体育館は周りを塀に囲まれているし立て籠もるにはちょうどいいでしょ」
「具体的には何をどうするの?」
「…………そういう難しいことは全部エナが考えてくれるでしょ♪」
「…………」
そんな満面の笑顔で答えられても、とエナが苦笑いを浮かべていると、デュオはわざとらしく咳払いをした。
「確かに、細かいところは全部エナに任せることになるから偉そうなことは言えないけどね…………ねえ、面白そうでしょ? やってみない?」
つまらなかった学校生活も楽しくなるんじゃない? とデュオが呑気に微笑む。
「むちゃくちゃだね」
だけど、
「だけど…………やってみたい」
そう答えてしまったのはなぜだろう、と今でも思うことがある。
退屈だった日々を変えられると思ったからだろうか?
いや、違う、たぶんそうじゃない。
これはデュオが私にくれた、自分の手で現在を変えるチャンス、それとともにデュオ自身の願い。
「そうだね。やろう」
そして私がそのデュオの願いをかなえたいと思ったから。
いつの間にかエナの顔にもデュオの微笑みがうつっていた。




