開戦 その2
《九月 十四日 PM2:00》
エナは三棟の屋上にいて空を見上げてじっとしていた。
学校側が降参するのを待つために。
(まぁ、校長が来るわけないんだけどね)
そう思っているとエナの耳が静かだがはっきりとした、獲物を狙う肉食獣のような足音が聞こえた。
(来た)
屋上に上がってきたのは校長の姿ではなく、身長が二mを超えているのではないかと思うほどの大男だった。
「お前があの放送を流した犯人グループの内の一人か?」
「校長ではなく、あなたが来たということは交渉は決裂ですね。鶴田先生」
その大男は、やり方が暴力的すぎるという理由で警察を依願退職に追い込まれ、腕っ節を見込まれて教職に就いた鶴田だった。
そしてエナの言葉は自分が犯人グループのうちの一人であるということでもあった。
「はっ、当然だ」
鶴田が鼻で笑う。
もちろん、エナも相手が降伏してくれるとは思っていなかった。
社交辞令のようなものだ。
「お前がなぁ……。お前はもっとまじめな生徒だと思っていたが」
鶴田は少しの間考え込んでいたがしばらくして自分の役目を思い出した。
「まあ、なんというか、俺は教頭に屋上にいる奴を捕まえて来いと言われている。このままおとなしく捕まるか?」
エナが首を横に振る。
「まあそうだろうな。そうなると俺はお前を暴力的な方法を使ってでも捕まえなくてはならないのだが、それでもいいか?」
「私は今、捕まるわけにはいかないのでごめんこうむります」
そう言ってエナは走り出し、鶴田はそれを追う。
二人の鬼ごっこが始まった。