開戦
《九月 十四日 PM1:40》
放送室、そこにはロープで縛られ床に転がされた放送委員達の姿と放送器具をいじっているエナ達の姿があった。
放送委員の代わりに機械をいじっているのはエナで、放送室のマイクを握っているのはデュオである。
「準備できたよ。5秒前、4」
残りの3、2、1と声を出さずにエナが指を折ってカウントする。
カウントがゼロになったときデュオは叫んだ。
「全校生徒のみんなとクソッタレの教師達、聞こえる? 私はデュオ。あるグループのリーダーを務めている。この学校の、退屈な日常と戦っている一生徒だ。学校でのトラブルの解消を旨とした新部活動の申請をしに行ったが認められなかった! 私達はこのとっくの昔に腐っている学校に、戦争を仕掛ける」
その放送が始まるのを2年A組で秋村は聞いていた。
「…………あいつら。本当に……」
その声はほかの生徒の騒がしさにかき消され、誰の耳に入ることもなかった。
ついに始まった、もう後戻りはできない。
横を向いて見るとテセラとペンデが緊張した面持ちになっている。
そして、同時にこの学校で普通に授業を受けているはずの秋村にもこの放送が届いているだろう。
「学校側が降伏する場合は三棟の屋上に校長が一人で来い。そうすれば私達はこの戦争を終わらせよう。降伏しない場合、私達は最後の一人になるまで戦い続ける!」
エナは放送器具の電源を落とすと小さく、それでいてチームの全員に聞こえるように囁いた。
「さあ、楽しいゲームの始まりだよ」
その言葉を合図に全員が動き出した。
《九月 十四日 PM2:00》
ペンデに与えられた任務は校内にいる生徒達を捕虜にすることだった。
「全く、面倒くさい役を押しつけてくれたもんだ」
そう言いながらペンデは一年A組の扉を開けた。
中にいた先生や生徒の視線が集中する。
いままで寝ていたであろう生徒までもが起き出したようだ。
正直、教師も寝ているってどうなんだ? とペンデは思った。
(なんともまぁ。暇な人間が多いなぁ)
ペンデは心の中でため息をつく。
「おう、長谷川か。どうした?」
教師がペンデに反応する。
「教頭先生からの伝言を伝えに来ました」
「ほう、なんだ」
この学校では校長先生は仕事を怠けて何もしないので、何かの命令は教頭から来る場合が多い。
「さっきの放送の件で臨時に職員会議を開くそうです。至急、会議室に集まれとのことです」
めったに仕事をしない教師は仕事の臭いを嗅ぎつけ少し嫌そうな顔をした。
「ちっ、面倒くさいな。しょうがない、今日は自習だ」
(生徒達の「元から自習だろ」という心の声がびんびん伝わってくるんだが)
教師が教室から出て行き、生徒達が騒ぎ出す。
ペンデが教師のいなくなった教卓に立つと教室中の生徒の視線が集まってきた。
「よしよし、生徒諸君聞いてくれ。さっきの放送を聴いてくれたか? 聴いてくれてたのなら話は早い。俺はその放送を流したグループの一人、ペンデだ」
辺りの生徒達がざわめき始める。
それをペンデは手で制した。
「今日の授業はこれにて終了だ。これからそれどころじゃなくなるからな。俺達は学校と戦争を起こす。もしその祭りが見たい奴は体育館まで来てくれ。それで協力してくれるとなお嬉しい」
生徒達がまたざわめき始める。
今度はペンデも騒ぎを鎮めようとはしなかった。
「俺が言いたいのはそれだけだ。じゃあもう家に帰っていいぞ」
ペンデはそれだけ言うと一年A組をあとにした。
一年A組の教室からは帰り支度をしている音が聞こえてきた。
(これで種はまいた、あとは芽が出るのを待つだけ……だよな?)
そう考えているとペンデの背後から三人の生徒が走って追ってきた。
「おい、長谷川! 俺はすぐにでも協力するぞ!」
「そうだ! こんなおもしろそうなことが起きているのに何もしないなんて名が廃るってもんさ!」
「いや、なんの名だよ」
そこで交わされるバカみたいな会話。それを聞いたペンデは思わず口元をほころばせた。
芽はちゃんと出始めた、そうペンデは思えたのだ。