新学期 その3
《九月 十四日 PM1:05》
「高村先生のサインもらってきたよ」
「「「よっしゃぁぁぁっ!!」」」
エナが体育館に戻るとデュオ、テセラ、ペンデの三人が踊り出さんばかりの勢いで喜んでいた。
「後はこれを校長先生に叩きつければ全てを始められるよ」
そう言ったエナはくるりとデュオのほうを振り返り申請書を手渡した。
「私にできるのはここまで。これを校長先生に叩きつけられるのは部長であるデュオだけだよ。やってくれるよね」
「当たり前ぇ!!」
聞かれてから間髪いれずにデュオが答える。
「大船に乗ったつもりで待っていてよねー」
ペンデが泥船の間違いじゃないのか? と茶々を入れたがエナとデュオの耳には入ってこなかった。
そしてエナは見るものを幸せにするような微笑みを浮かべた。
「うん。信じているよ」
《九月 十四日 PM1:10》
「何度も言っているけど、君、これは認められないよ」
「だからなぜなんですか!!」
校長室の中を校長の猫なで声とデュオの怒鳴り声が支配する。
「部の成立の条件は十分に満たしているはずです!!」
デュオは校長室の机を思いっきり叩いた。
少し太り頭が禿げあがった五十代の校長と、目を怒らせているデュオを並べてみると悪いことをして校長室に呼びだされた子供を校長がいなしているようにも見える。
「だから、ね、学校としてはこのような活動内容を認めるわけにはいかないんだよ」
「生徒のことを考えてこその学校でしょう! 生徒達の事を考えた活動の何が悪いんだ!!」
「もちろん生徒あっての学校です。しかし、私達はそれと同時に校内の風紀も守らねばならないのです」
デュオと校長はエナ達の部の活動内容である、
《学校でのトラブルの解消。学校が起こした問題で生徒が困っているとき、生徒の代わりに学校を懲らしめます》
という内容でもめているのである。
否、デュオがもめるように誘導しているのである。
「私達の部が風紀を乱すとでも言うのか!!」
「その通りです」
「もういい!」
デュオは悔しそうに下唇を噛み言い捨てた。
「覚えていろ。この禿校長!」
《九月 十四日 PM1:10》
「大丈夫なのかよ。デュオにこんなことさせて。失敗したらどうすんだよ」
「デュオは単純だけど頭は意外にいいんだよ。これくらいのことで失敗なんてしないよ」
ペンデはエナの言葉に一瞬、驚いた顔をしたがその次の瞬間には納得したとでもいうような顔をした。
「そっか、ついこの間知り合ったばかりのおれたちよりもエナのほうがずっとデュオのことを知っているよな」
その時体育館の扉が開き、デュオが帰ってきた。