夏休み その4
《七月 二十一日 PM1:20》
「おーい、デュオ」
「あ、エナ。やっときたね」
デュオとテセラはエナとペンデよりも早くついていた。
「大正解だよエナ。秋村がいた」
十五分前。
《七月 二十一日 PM1:05》
『どうもこうも、秋村が家にいないんだけど』
「旅行に行ってるとかはねえのか?」
「ないとは思うけどね」
エナは少し考えてから電話にこたえる。
「情報によると図書館に通うことが多々あるそうだから。そっちに行ってみよう」
『わかった。じゃあこちらも図書館に向かうから図書館前で待ち合わせよう』
《七月 二十一日 PM1:20》
そして図書館の中にはノートと参考書を広げている秋村の姿があった。
「うおっ。あいつ、夏休みなのに勉強してやがる!」
「いや、長谷川君。別になんら不思議なことじゃないよ」
「あ、お前。砂山か」
「二人とも、お互いのことは知ってるね。新しい名前の自己紹介だけしておいて」
「僕はテセラです」
「どうも、俺はペンデだそうだ」
二人の短い自己紹介が終わるとエナたちは図書館の中へ入っていった。
「こんにちは、秋村君」
「…………この前来たのは全員じゃなかったのか」
「増えたんだよ」
秋村は深くため息をつく。
「…………お前たち、まだそんなことをやっていたのか」
「やらなくちゃならないことがあるから」
再びため息。
「…………止めとけ。今の御時世何をやるにしても、どうせ――――」
「どうせうまくいかないのだから」
エナの言葉に秋村が固まる。
声こそ違っていたのに、秋村には一瞬自分がしゃべったのかと思ったからだ。
「そういう風に事件の時に親友に言ったんだよね。こんな風に」
エナがしゃべり始める。
エナの声なのにその場にいた人間にはなぜだかエナの声じゃないかのように聞こえてくるその声で。
「『俺さ、人を集めて一つのグループを作ろうと思ってるんだ』」
「『…………ほう、どんなグループを作ろうとしてるんだ』」
「『この国を変えるためのグループさ。自分たちの意見を通すために仲間を集めて、人を集めて発言権を増して、俺たちでこの国を動かしていけるようにするための。それでまずはお前に――――』」
そして、エナはここで一呼吸を置く。
「『…………つまらん』」
「『え?』」
この言葉はエナの口だけでなく秋村以外の全員の言葉でもあった。
「『…………そんなことをしても世の中は何も変わらない』」
「『そ、そんなのやってみなくちゃわからないだろ!』」
「『…………やらずともわかる。選挙権さえ持たない高校生が集まった程度ではいくら集まったところでたいしたことはできん』」
秋村が震えているかのような様子で聞いている姿がエナの言葉が本当にあった言葉であることを肯定しているかのようであった。
「『そ、そんなことは、そんな…………』」
「『…………それはただの夢物語にすぎん』」
エナの言葉からでも打ちひしげられている秋村の友人の様子がわかる。
「『…………お前なら。わかってくれると思ってたのに』」
「『…………ともかく――――』」
秋村がいすから立ち上がる。
「『――――バカみたいなことは止めるんだな』」
その言葉が終わると同時に秋村がエナに詰め寄ろうとするがデュオがすぐさま間に入って二人を遮る。
「…………お前、そのやり取りをどうやって知った!」
「そのときに周りにいた他の生徒たちの証言の情報と君とその親友の情報を元に、思考をトレースするとだいたいこんな会話だったのかなと思ったんだ」
おそらく、その後に喧嘩が始まったんだろう。
「君は親友に当たり前のことを言って無謀なことを止めようとしたんだよね。だけどそれが親友の癇に障った」
「…………お前に、何がわかる」
「私にはわかるよ。だけどあなたにはわからなかった」
「…………っ!」
「わかろうとしなかったのは君だよ。そしてそれを君は後悔している」
秋村はもはや怒りを通り越して疲れたかのような顔をしている。
それは、たぶん親友を理解することのできなかったことに対する自分のふがいなさに。
「その過ちを完全に消すことになるわけでもないし、ましてや代わりになることにはならないけれども、少しでも償う気持ちがあるなら私たちに協力してくれないかな」
「…………どうして俺なんだ」
「たぶん、その親友と同じ理由だよ。君がいいから」
「……………………」
秋村はうつむき、糸の切れたマリオネットのように動かない。
「…………確か、部活成立の条件は五人以上部員がいることだったな」
「そうだよ」
「…………名前は貸す、協力はできん」
「そう、ありがとう」
そしてエナがきびすを返して外へ向かうとデュオたちもそれに習った。