夏休み その3
《七月 二十一日 PM0:35》
「お前…………暇なんだな」
玄関のドアを開いた長谷川はエナの姿を見てため息をついた。長谷川は着替えてこそいたものの頭には今起きたばかりですと言わんばかりの寝癖がついていた。
「夏休み初日から家でごろごろしてる人に言われたくはないですけどね」
「いやいや、ある日は日がな一日ごろごろ過ごし、またある日は力いっぱい遊び、31日に宿題と闘い、敗れ去る。これが夏休みの正しい過ごし方じゃないか。
今日は一日中ごろごろと過ごそうと思っていたけど君が来てくれたんならデートにするとしますか」
一方、デュオとテセラは秋村のほうの説得に向かった。
デュオは
「あんなやつとエナを二人きりにするなんて危なすぎる」
と呟きながら、迷うように行っては引き返しを繰り返していたが、
「トラウマで承諾しないんなら、説得はエナさんにしかできないって言ったのはデュオさんでしょ。僕らが行っても邪魔なだけですって」
と言うテセラに引っ張られていった。
「と、いうわけでデートにしよう」
「私としてはあなたとデートするわけにはいかない理由があるんだけど」
「いいじゃん、いいじゃん。それとも彼氏でもいんの?」
「いや、彼氏はいないけれど」
「じゃあいいじゃん。今日一日くらいさぁ」
「私はあなたをグループに誘わなくちゃいけないから」
「…………」
はぁ、と長谷川はため息をついた。
「何度も言うけど俺は仲間にならないぜ」
「機動隊の相手をしたくないから?」
「…………知ってるのか?」
「うん、もちろん。新聞にも載ったじゃない」
デュオの前では知らないといったが本人に隠す必要はない。
長谷川はしばらく無言で悩んでいるように黙っていたがそのうち切り出した。
「俺が高校に上がってすぐに母校の中学がつぶれることに決まったんだ」
ゆっくりと、一つ一つ、言葉を選ぶように。
「俺はさ、母校がそれなりに好きだったし。思い出の場所でもあり、お世話になった場所でもある。だから学校をつぶすのに反対して同窓生を集めてその中学に立て籠もってハンストしてたんだ。そんな時、奴らが来た」
長谷川達の声は学校側には届かなかったのだ。彼らは対話の道をとらず、機動隊の投入という手段を得選んだ。
そして、教室にスタングレネードが投げ込まれ、混乱している間に全員捕まってしまった。
「幸い、リーダーであった俺だけが咎められることになって、他の奴らはお咎めなしで済んだけどな。俺はこの学校に転校せざるおえなくなったんだ」
「なるほど」
「なあ、エナだっけ」
「うん」
「お前達は怖くないのか? 機動隊と戦うことが」
「…………」
二人の間にしばし沈黙が横たわる。
「…………怖くは……ないかな」
「どうして?」
「だって仲間がいるから」
エナはしっかりと長谷川の目を見つめる。
「仲間がいるから怖くない。仲間がいるからがんばれる。仲間がいるから戦おうと思えるんだよ。どうして君を仲間に選んだかもその内わかってもらえると思う。それまで、そのためにも私達の仲間になってほしいんだ」
「…………」
「今はこれくらいしか言うことしかできないけれど」
長谷川はしばらくの間、顔を伏せていたがため息をつくと共に顔を上げる。
「…………いいだろう。そこまで言われて引き下がるのは男が廃る! 不肖、長谷川徹。お前達の仲間として共に戦おう!」
「ありがとう」
エナは緊張が解けたかのように笑う。
「それなら、今日から君はペンデだよ。いい?」
その時のエナの笑顔はペンデにそれだけでも入ってよかったと思わせるほどのものだった。
《七月 二十一日 PM1:05》
トゥルルルと電話の呼び出し音が響く。
エナがデュオに向けて電話を掛けているのだ。
『はい、もしもし』
「デュオ、こっちはペンデを仲間に引き入れたよ。そちらはどう?」
『どうもこうも、秋村が家にいないんだけど』
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とてもうれしいです。
もっと多くの人にもそうしてもらえるよう頑張ろうと思います。