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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

繰り返す今日

作者: MTL

ああ、まただ

手が真っ赤に染まっていく

大好きな人の血で真っ赤に染まっていく


「…」


ただ、呆然として見つめる


初めのうちは悲鳴を上げた

5回目ぐらいまでは吐いた

20回目ぐらいから何も感じなくなった


「…また、なの?」


包丁を持った手が黒くなっていく

自分の体が灰と化していく


「まだなの…?まだ終わらないの…!?」


ああ、今回も駄目だったか


そうして静かに目を閉じた




ピピピピ!ピピピピ!!


毎朝、聞き慣れた音


「…うるさい」


カチッ


目覚まし時計の音を止める


「…はぁ」


ため息が出る

何回目だろう?この目覚まし時計のスイッチを押したのは


「今日も…、殺さなきゃ」


自分が呟いているのが異常な事だというのは解る

異常なんだ、自分は


…いいや、違う


異常なんだ、世界が



異変に気付いたのは2回目のその日

目覚まし時計を止めて、部屋から出た

食卓にはお母さんが用意してくれたパン


「あれ?」


昨日と同じメニュ-だ


(…まぁ、お母さんも忙しいもんね)


パンを咥えて外に出た


「行ってきま-す!!」


「行ってらっしゃい」


毎朝の決まった光景

そこに何の違和感もない


「遅-い!」


「ゴメン!咲紀!!」


もふもふとパンを頬張りながら友人に謝る


「…ん?」


昨日と同じヘアピンだ

咲紀は毎日のラッキ-カラ-によってヘアピンを変えるのに


「ねぇ…、そのヘアピン」


「そうよね-、全く…」


「え…?」


咲紀が1人で喋っている


「斉藤君ったら、私に気付いてくれないの!!」

「毎日アピ-ルしてるのになぁ…」


「ねぇ…、ちょっと」


「でも、カッコイイし…」

「恋する乙女は辛いわよねぇ」


「ちょっと!!」


「でもさ、諦めちゃ駄目だよね!」


怒っている?

何か、私が気に入らない事をしたから怒って無視しているのか?


いいや、違う

この会話には聞き覚えがある


昨日の会話だ


「ねぇ…」


「アンタは良いわよね~、普通に話しかけて貰ってるし」

「私も話しかけられたいなぁ…」

「そう言えば、アンタと斉藤君ってさ-」


咲紀は壁に向かって話している

まるで、誰かがそこに居るかの様に


「何よ…、コレ」


夢?

ああ、そうか

コレは夢だ


「んっ…」


頬を抓る


「痛…」


夢では無い様だ


咲紀の悪ふざけ?

ああ、きっとそうだ


「仕方ないわね…」


少し気味が悪かったが、咲紀に着いて学校に向かった



「今日は昨日のテストを返すぞ-」


「「「えぇ~!?」」」


クラスが響めく


「期末テストってさ、面倒くさくない?」

「マジで意味不明なんだよね」


「…?」


妙だ

期末テストなら昨日、返して貰ったはずだ


「石山-、相変わらず成績が良いな」


「どうも」


「江川-、お前はもう少しだな…」


昨日と同じだ

次に呼ばれる河辺さんは…


「「中々良い成績だな」…」


「河辺-、お前は中々良い成績だな」


やっぱり…!!


「どうなってるのよ…!?」


「そうよねぇ」

「私だって河辺さんみたいに普通の成績さえキ-プ出来れば…!!」


「咲紀…?」


「えぇ!?私だって出来るわよ!!」


「うるさいぞ-」


「あ…、すいません」


そうだ

先刻の会話は私が「やっぱり良い成績キ-プ出来るのよね、河辺さん」と言う

そして咲紀が、それに応答する


(意味が解らないわ…)


頭が混乱する

イタズラにしては手が込みすぎている


「斉藤-、数学の点数だけがな…」


斉藤君が呼ばれた

次は私の番だ…


「清水-」


「は…」


…ちょっと待って

このまま、私が取りに行かなかったらどうなる?

普通だったら先生は「早く取りに来-い」とでも言うだろう

でも、もし…


「お前、成績が下がってるんじゃないのか?」

「学習態度は良いからな、生活面が心配だぞ」


誰に向かって話をしているの…?

そこには誰も居ないのに


「まぁ、頑張れよ」


パサッ…


テストが地面に落ちる


「何よ…、コレ」


辺りを見回す


「お前、酷すぎだろ…」


「やべ-!塾の先生に殺される!!」


「ねぇ、どうだった?」


「私、こんな点数取れるなんて思わなかったわ-!」


変わらない

昨日と変わらない


「ちょっと!アンタも中々良い点数じゃない!!」


「咲紀…?」


1人で誰も居ない机に向かって喋っている咲紀


「何なのよ…!!」


怖い

怖い怖い怖い怖い!!


「何んなのよ!!!」


大声で怒鳴った

精一杯の声だ


「それでよ-」


「え?そうなの」


誰も気付かない


「嫌…!!」


背筋が凍る

意味が分からない

ドッキリ?そんな物じゃない

皆が昨日と同じ

私という存在は無い


「ねぇ、やっぱり斉藤君って成績良いのかな?」


私は居る

彼等には居る様に見えている

異常なのは私?


「---っ!!」


溜まらず教室から出る



「はぁっはぁっ!!」


走った

ワケも解らず走った


「何…よ…!!」


苦しい

走ってるからじゃない

この状況下に居る自分が

怖い



「お母さん!!」


気が付くと叫んでいた

家に帰れば母が居る

母は私を騙したりしない

こんなバカげた事…


「アハハハハハハ」


寝転がり、テレビを見ながら笑う母


「お母さんってば!!」


ボリッボリッ


煎餅を頬張りテレビ番組を見ている

私を見ていない


「ねぇ!!」


母の体を揺さる


「…!?」


重い

まるで大きな岩を動かそうとしているかの様に動かない


「何が…」


「さて、っと」


立ち上がる母


「きゃっ!!」


急に立ち上がった物だから尻餅をついてしまった


「うぅ…」


怖い


「寝よう…」


そうだ

きっと、寝れば何もかもが元通りになっている

夢なんだ!

リアルな夢で、痛みも伝わる様な





そう信じたかった


ピピピピ!ピピピピ!!


「うるさ…い?」


目覚まし時計が鳴る


「…お願い」


食卓へと向かう


「…嘘」


同じメニュ-が同じ場所に置いてある


「何で…」

「嫌っ…!!」


ダァン!


玄関から飛び出した


怖い!怖い!!怖い!!!


「遅-い!」


「咲紀…!!」


昨日と同じヘアピン

服装も、髪型も、ヘアピンも

何もかも同じ


「そうよね-」


「ッ…!!」


ワケが解らない!解らない!!解らない!!!


「はぁ…はぁ…」


…そうだ


「調べれば…!!」


このまま怖がっていても何も進展しない

確かに怖い

頭が真っ白になるぐらい怖い


でも、どうにかしなければ



ネットカフェに着いた

店員さんは何度呼んでも反応が無いので、勝手に部屋の鍵を借りた


「調べてみよ…」


カチカチッ


インタ-ネットを起動する


「「繰り返す時間」…と」


検索結果、約69,200,000 件


「…多いわね」


1つ1つ見ていったが、解決に至る様な物は無かった


他にも「無限」だとか「タイムスリップ」だとか

時間に関する妖しげな物を調べ続けた



「…有った」


その中の1つ


「「今日が繰り返される」」

「「同じ日が何度も繰り返され、自分は世界に存在しているが消えている…」」

「コレだわ!!」


見つけた!

やっと!見つけた!!


「何々…」


長たらしい前置き

世界線がどうだとか、時間に関する定義だとか


「…解決方法は!?」


最後の最後まで捜して、それは有った


「自分に大きなショックを与える事…?」


ショック?

衝撃の事だろうか?


「精神的なダメ-ジによって、精神を異常状態から正常状態に戻す荒療治…」

「最も的確な方法は…」


目を見張った


「愛する人を殺す事…?」


カチッ!


サイトを閉じた


「何よ…」


息が荒くなってるのが解る

頭がクラクラする


愛する人?

お母さん?咲紀?

他にもお父さんだとか…


「…!」


頭に1人の人物が浮かぶ


違う!!


頭を大きく振る


「違うわよ!!」


頭から離れない


「違う…!!」

「斉藤君じゃない…!!」


そうだ

私が大好きなのは…、斉藤君だ








殺すの?

斉藤君を


「何で…!?」


汗が頬を伝う


殺すの?

この手で


自分の手が怖くなってきた


選べと言うのか

このまま変わらぬ永遠の日々を過ごすのか

それとも斉藤君を殺して元の日々に戻るのか


「…」


天井を見つめる

頭が真っ白になる


何も考えられない


考えているけど

考えたいけど


何も考えられない








ガチャンッ…


「斉藤君の家は…」


アレから数ヶ月程度の月日が流れた

いや、流れては居ない

時は止まっているのだ

今日、この日から


ふらふらと歩いて斉藤君の家に着いた

辺りは暗い

夜…、なのだろうか


「斉藤君…」


ぎぃっ…


静かに玄関を開ける

誰も気付かない

斉藤君の飼い犬も斉藤君のお母さんもお父さんも


「斉藤君…」


リビングには居ない


昔、一度だけ咲紀と遊びに来た事が有る斉藤君の家

自然と足は斉藤君の部屋へ進む


ガチャッ


「斉藤君…?」


「…」


カリカリカリカリ


必死にノ-トに何かを書いている


「斉藤君…」


期末テストの復習だ


(真面目だなぁ…)


口から笑みがこぼれる


「ねぇ、拓也君…」

「私ね…」


「この世界から出られない」

「そうだろ?清水」


何て言ったの?


「お前も、か」

「俺もだよ」


「斉藤君…?」


「お前も、もしかしたらな-とは思ったけど」

「やっぱり…」


「斉藤君!!」


「ちょ!清水!!」


嬉しくて嬉しくて

斉藤君に抱きついてしまった


「良かった…!良かった!!」


「清…水…」


ドサッ


「え?」


拓也君が床に倒れる


「何…?え?」


私の手は真っ赤だ


「清水…!テメェ…!!」


「嘘!斉藤君!!」


ガランガラン!!


床に包丁が落ちる


「…何で?」


頭の中に先刻の映像が蘇る


嬉しさのあまり、斉藤君に抱きついた私

その手に握られていたのは


包丁だった


「斉藤君!!」


どうしようも無い

ただ、冷たくなっていく斉藤君


私は殺したのだ

無意識のうちに殺した


自分の為に

斉藤君を


「嫌ぁああああああああああああああ!!!」


赤い手

真っ赤な手

斉藤君の血で真っ赤な手


「うぇっ…!!」


喉の奥から熱い物が込み上げてくる


「おえぇえええ!!」


吐いた

朝、食べた物を吐いた


「はぁっ…はぁっ…」


ボロッ…


「!!」


自分の手が灰色に染まる


「何よ…!?」


トサッ…


床に指が落ちる

灰の様に崩れ落ちて


「きゃああああああ!!」


ズズズズズズ…


手首が、腕が、肩が

灰色に染まっていく


ボロボロッ


次々に崩れ落ちる自分の体


「嫌ぁ!嫌ぁ!!」


幾ら叫んでも止まらない


ボロロッ


そして最後には

私の頭が崩れ落ちた





ピピピピ!ピピピピ!!


「…え?」

「!!」


ガバッ!


布団から飛び起きる


「お母さ…!!」


食卓にはパン

同じだ

何もかも

同じ



ああ、また今日だ


また今日が始まった


「何で…?」


殺した

認めたくはないが、殺したんだ

斉藤君を


それなのに


「また…、今日なの?」




ガタン!!


ネトカフェの部屋に乱暴に入る


「早く…!早く…!!」


見えない何かが迫ってきそうで

怖くて怖くて

急いで、あのサイトを開けた


「精神的なダメ-ジによって、精神を異常状態から正常状態に戻す荒療治…」

「最も的確な方法は…」


やはり、そうだ


「愛する人を殺す事」


頭が痛い

ズキズキと痛む


「まだ…?」


そのペ-ジには続きが有った


「ただし、その者が最も悲しむ方法で」

「最も残酷な方法で」


「…そんな」


その場に座り込む

こんな事が

こんな残酷な事が


「その方法が成功すれば、繰り返される毎日から脱出できる」

「ただし、殺した者の存在は消える…」


そんなの…


いや、待て

このサイトを信じても良いのだろうか?


しかし昨日は確かに、いつもと違った

体が灰の様に崩れ落ちた

初めてだ、あんな反応は

それに、斉藤君は他の皆と違った


やるしかないのか


「一度…、殺したもんね」


面倒くさい

考える事が面倒くさい


包丁を家から持ち出した


足を引きずる様に学校へ向かう


「斉藤君…」


ブツブツと呟きながら

包丁を持って

その時の私の口は緩んでいた


一瞬だけ、商店街のガラスに映った私の顔

ああ、この顔は悪魔だ

鬼だ

殺人鬼の顔だ


笑っている

目は隈だらけになって

万弁の笑みで

手には包丁を持って

笑っているんだ


私は


笑っているんだ





「清水…、お前も…」


ドスッ


教室に居た斉藤君を刺した

刺した

刺した刺した刺した


何度も刺した


「うふふふふふふふ!!」

「あはははははははははは!!」


自分は頭が狂ったんだろうか


「死んでよ!私の為に!!」

「死んでぇええええええええええ!!」


斉藤君を滅多刺しにしても誰も振り向きもしない


「がっ…!!」


真っ赤に染まっていく斉藤君

大好きだった斉藤君

中学校時代に一目惚れして、少しずつ仲良くなった斉藤君

斉藤君


私の大好きな斉藤君


貴方が苦しむ方法なんて知らない

一番苦しむ方法なんて


指を千切った

内蔵を引き裂いた

両親を殺した

飼い犬を殺した

目を剔った


でも、私は戻れない

元に日々に


嫌だ

戻りたい

元の日々に


だから、殺すの

何度でも

私が元の日々に戻るまで


殺すの

読んでいただきありがとうございました

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