M.N.S.T.last
事務所の備品の一つにスチール製の棚がある。ここを開く時にネット通販にて購入したものだ。当時、少し考えればわかる事だったのだが配達されてきたこいつは組み立て前のもので、取り急ぎ最寄のホームセンターへ駆け込み、工具セットを購入したのだ。
そして組み立てが完了し、その工具セットはそのまま棚一番乗りを決め込み、今現在も一番下の段の右端というポジションを死守している。この棚の特色として約2cm単位にて段の高さが調節出来るので、一番下の段は高めに設定している。大き目の物や重たいものなんかは下にあったほうがいいからね。その中において工具セット氏は一人背が低く、異彩を放っている。
話は四段目のソレだ。写真立てがある。もちろん中に写真もセットされている。
写し出されているのは食べちまったシュークリームではなく、三人と一匹だ。構成は俺、女子高生、女子小学生、男子小型犬である。
「少し前に犬探しの依頼があったんだ」
「それって探偵の仕事?」
「俺は探偵であって探偵の俺がした仕事だからな。一ヶ月くらい前かな、結構骨だったんだぜ?」
その写真に写る俺は一ヶ月ほど前の俺でニコッと笑ってピースしている。もっとはしゃいだポーズだって似合う年齢なんだけどね。ちょっと髪伸びたかな。耳が何も見えなくなるくらいが俺の散髪時のゴーサインだった。
「まずそのピースしてるのが俺ね」
「わかってるわよ!」
「で、小学生の子が依頼主様、その和風の小型犬が捜索対象だったわけだ。探偵犬ではない」
「この子うちの制服ね。この女の子のお姉さん?」
写真には髪の長い女子高生が控えめな笑みで写っていた。そいつはこいつと同じく梅の丘高等学校のセーラー服を身にまとう通称うめっこだった。
「違うよ。うちの探偵だ。探偵兼秘書だ。今日は一人、任務遂行中だ」
一瞬サクラの髪の毛がふわっとした感じがした。風もないのに。
「全っ全然あやしいじゃない!やっぱりあやしいじゃない!考えられないわ!何よ女子高生探偵って!」
お前が言うな。たしかにあやしいけどお前が言うな。
「どの辺があやしいんだ?とりあえずこいつは妹みたいな―」
「その辺よ!いい?まず妹みたいなもんだって言う時点で大体あやしいの。変態さん。変態探偵さん。変偵さん」
こいつが事務所に入ってきてからどれくらい時間がたっただろうか。俺はこいつと何度目が合い、どれくらい喋っただろうか。ファーストネームは愛称へと発展し、気付けば変態と呼ばれていた。冗談じゃないぞ、俺はまだ21歳だ。お前らとは4つしか離れていない。小二のとき小六だ!確かに中学も高校もかぶらない年の開きではあるが、そんな年の差はいずれゆるっゆるに緩和されて気にも留めなくなる。100歳の時104歳だからな!
「けっ、何とでも言え。俺はクリーンだ。もとい、俺たちはクリーンだ。こいつは保護者同意の下、ここでバイトしてるんだ」
出るとこ出る気はないけどな。高確率でややこしい話になるだろうし。実際それくらいハイスクールとそこから先って壁は高い。18歳ってターニングポイントが響いているのだろう。俺はそこから20歳というさらにどでかいポイントも通過しているからな。
「どうかしらね、とりあえず今日は帰らしてもらうわ」
サクラはそそくさとスクールバックを肩にかけ立ち上がる。半分開いたバックの口に、俺の名刺は投げ込まれた。明日はテレビのプロデューサーと寿司でも行くのかな?逃した魚は大きいのかな?寿司だけに…
「信じないんだったらそいつに聞けばいい。お前と同じ梅の丘の二年だ。明日も元気に登校してくるだろうよ。『女子高生』探偵だからな」
「ふん!何組よ?気が向いたら聞いといてあげるわ!あなたがどれだけ変態さんかをね」
俺は変態探偵という確固たる地位を確立したのだろうか?いや、こんなベルトすぐにでも返上だ。
「自分で『調査』しろよ。探偵志望なんだろ?『女子高生』探偵志望なんだろ?」
「いいわ!この子の目を覚まさせてあげる!」
サクラはそそくさと扉に手をかけ振り返る。
「その子、名前は!」
「さあな。犬の名前はアレッサンドロだ」
―バンっ!
扉が閉まり面接終了の合図となる。
五月の下旬、だいぶ長くなった陽、窓の外はまだ少しの明るさを残していた。
とりあえずそのプンスカした女子高生念写娘(探偵希望)が家に着くまでもう少し照らしてあげてくれ。綺麗なオレンジでなくてもかまわない。