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N.N.SHA

 「私が念写できるのは私が見たいと思ったものだけ」

真剣な表情で話すサクラのその透き通った目が証明書だった。彼女は丁寧に自分の念写能力についてなるべく細かく説明してくれている。説明の分かりやすさから、きっと事前に話の骨組みを構築していただろう背景が感じられる。


「見たいと思わなければただの写真よ。モンブランと思い込んでいた私がそのまま写真を撮ったってね。あなたは正解とも不正解とも言わなかった。その時初めて見たいと思って。それでシャッターを切ったの」

「なるほど」

相槌が下手な人間でも興味をそそられる話には自然と抜群の間でナイスチョイスの言葉が出るだろう。

「俺は念写ってもっとモヤっとしたものかと思っていた。ずいぶんはっきり写るんだな。後はあれだ、遠くの景色を写すとかね。君は今―」

「サクラでいいわ。探偵さん」

「中村でいい。サクラは今『過去のもの』を写したね。では『未来のもの』とかも写せるのか?」

「残念ながら『過去のもの』だけ。何度か試したわ。一成」

俺はファーストネームで呼んでくれとリクエストした覚えは無いが別に悪くない。幼少時代より大体の知人からは一成(いっせい)と呼ばれる。大概は勢いよくイッセーだ。抑揚の感じが程よく呼ぶ側にも呼ばれる側にも気の利いた名前ではないか。

「で、いつ気づいたんだ?」

「一年ちょっと前ね。高校に入学する前の春休み。離任式で中学に行った時にちょっと一人で黄昏て校内を写して回ってたの。ゆかりのある教師の移動は一件だけでね。フィルムがだいぶ残っていたから」

サクラは続ける

「二年生の時のクラスが気に入ってたの。楽しい一年だったわ。その時の教室をパシャリとね」

「楽しい仲間が写っていたのか」

俺はサクラの湯のみの緑色の液体の残量を気にしつつ

「その時写っていたのはそれだけ?」

「いいえ。現像を依頼した写真屋は私の記憶庫かってくらい懐かしの思い出風景を何枚もの写真にあぶりだしていたわ」

俺は次のクールでお茶のおかわりを客人用湯のみに注ぐことを決めつつ

「その写真屋を疑ったりは?」

「幸いに先に一貫性に気づいたの」

「見たいもの…か」

「そう。その後なんとなく家の中を携帯でパシャパシャとね」

「勘がいいんだな。探偵に向いてるんじゃないか?」

「ふふっ。だから来たのよ」

いくら食べても胃もたれしそうにないような爽やかな笑顔をサクラは初めて見せた。いい右持ってるじゃねえか。世界狙うか?

「まだまだ聞きたい。もう一杯付き合ってもらうよ」

そう言って俺は熱々のヤツを淹れるべく流しへと向かった。


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