T.U.S-6
ネネの部屋に戻り、俺はデジカメの画像を確認する。何枚かの写真に写りこむ黒髪短髪。もう少し詳しいスペックを述べると、色白で良く言えばキリっとした三白眼。悪人ヅラとも言う。机と頭の位置から察するに、俺とほぼ変わらない身長。服装は黒いシャツに濃いジーンズ。
「こいつが噂の副会長ちゃんか」
「うん。女子からは人気無かったわ」
だろうな。悪い顔してるもの。何枚もの写真を確認したが、こいつはパソコンにメッセージを残しただけで部屋を去っている。あとは部屋を眺めているようなカットも数枚ある。―違和感
「ネネが写ってないな」
複数犯の可能性も考えた方がいいかも知れない。
「とりあえず急ごう、事務所に戻るぞ」
時刻はもうすぐ16時。今朝食べたアンパンは完全に俺の一部になっている事だろう。愛とか勇気とかにな。
階段を降り、萌さんに挨拶。
「何かありましたら逐一報告いたします。ご心配せずにとは難しいでしょうが、どうか今日は一秒でも長くお休みください。また何かありましたらご連絡ください」
「ありがとう。おねがいします」
だいぶ晴れやかにはなったが、まだまだ不安が張り付いている萌さんの顔。明日の夜にはオールクリアにしてやる。
「ママ」
と言ってまたもや抱きつくサクラ。小柄な萌さんは少しでも大きく己の存在を保とうとしている。そしてまたやさしい表情になる。
玄関を何度も振り返り気付けば例の公園もどきへ。あの中学生カップルはもう居ない。きっとまたいつか会えるだろう。俺はバイクに南京錠で掛けておいたヘルメットを取り、一つをサクラへ。あご紐を自分で処理できたかは想像におまかせする。
―あ
「サクラ、ちょっとこの公園、何枚か撮ってくれ」
「ん?中学生?高校生の次は中学生探偵?」
デジカメに電源を入れるサクラ。レンズが羽音のような音を立て飛び出す。
「違う。事件当日だ。時間は18時前後」
―カシャ カシャ
「ん?」
液晶を覗き込むサクラ。
「撮れたか?車」
「ええ」
ビンゴ。この辺りで車を停めるならここしかない。デジカメの液晶には白くて少し背の高い軽自動車が写っていた。同級生の若いママも乗ってるやつだ。いかにも若者向けの一台。こいつが犯行に使われた車と見て間違いないだろう。
「よし、急ごう」
エンジンを掛け即走り出す。もうだいぶ暖かくなってきたので、エンジンを暖気する必要は無い。もちろん、俺は安全運転で急いだ。後ろに乗せたサクラも、行きよりも慣れたようで俺の腰の辺りを軽く掴んでいる。なんとも運転のしやすさが背中の柔らかい感触を相殺していた。
我がビルに着き、とりあえずバイクはシャッターの前に停める。狭い階段を急ぎ、事務所のドアの前、とりあえずのノック。
「はい」
聞きなれた声。
「ただいま。どうだ?」
「ええ。済んでいるわ」
手渡された3枚の紙。左上がクリップで留められている。
「ただいまー」
ヘルメットを被ったままのサクラ。あご紐がライバルらしい。
「なにそれ?」
あごをツバキに差し出し、はずしてもらっているサクラ。俺は読み終えた一枚目をサクラに渡す。
「ん?これって…副会長の?」
そう、その3枚の紙には、例の副会長の情報が書かれている。電話番号や現住所はもちろん、免許証のコピーまで。
「しかし毎度凄いな。大丈夫か?本当に」
「大丈夫。神ですら見落としてるわ」
これを訳すと「大丈夫。証拠は一切残していない。文句があるなら言ってみろ?」だ。
そう、これがツバキの真骨頂。こいつのスキルを一言で表すのは難しいが、要は情報収集能力が半端じゃない。もちろん反則は使いまくりだろうな。こいつと初めて会った時、こいつは今のより少し大きいノートパソコンを持っていて、俺の目の前で我が事務所のサイトをぐちゃぐちゃにクラッキングして見せた。1分位でだ。「すごいな」と言う俺に「これはただの技術」と無表情で返したあの頃を思うと、こいつの表情は非常に増えたと思う。要はこいつ、パソコンにものすごく明るいのだ。
「なるほど。とりあえず向かうか」
俺は3枚すべてに目を通し、3枚目をサクラに手渡した。時刻は16時半。片道1時間ほどの容疑者の現住所。俺は立ち上がり更衣室に向かう。
「凄いわねツバキ!」
「あなたほどじゃないわ」
デジカメの画像を眺めているツバキ。勘がいいこいつは、そこに居なかった者に気付いている。
「よし、行くか」
更衣室から戻る俺。手には蛍光灯の光を元気良く反射させる物。
「へ?何それ?」
「金属バット。野球しに行くわけじゃないぜ?」
サッカー派の俺がここ一番に持ち出す得物。正直どんなに強く蹴ってもサッカーボールじゃ相手は倒せないのだ。
「よし、んじゃこの後の予定を発表する」