T.U.S-2
「やあ、元気だった?」
口と目をぽかんとしている少年。約3分ぶりの再会。
「まだ少し時間があってね。アザラシの座り心地を確かめようかと」
入り口から一番近い位置にあるアザラシの腰掛け。少年の右手に俺は腰を下ろす。ほどほどな座り心地。ちょうど足を組めるくらいの高さだった。
「じゃあ私はライオン君ね。でも知ってた?百獣の王はおそらくカバよ!」
あ、それ俺も聞いたことある。サクラは中学生カップルの間に位置するライオンに腰を下ろす。
全員「……」
―しまった!間を空けてしまった!誰か何か喋れ!…ん?お、俺か?
「えーっと、二人は中学生?部活とかしてるの?」
当たり障りの無い会話を投げ込む。まぁこんなところだろう、本来の俺は人見知りとかする人なんだ。この場面、言葉のキャッチボールは2,3球続けばいい。あ、別に野球部ってのを期待してるわけじゃないぞ?俺は生まれてこの方、プロ野球で贔屓にしたチームが無いサッカー派だ。
「今、中学二年です。二人とも部活はしていません…」
まぁそうだよな。土曜の昼過ぎに仲良く公園もどきで逢引きしてるくらいだもんな。しかし中二で彼女とはこいつなかなか…
「…たんですか?」
「え?」
「何か部活なさってたんですか?」
「いや、とくに…」
意外と積極的におしゃべりする子なんだなぁ。そういう積極性が中学二年生にして彼女持ちとなる所以だろうな。きっと。っていうかまた間を空けちまったよ…ん?
「ほらー、絶対切った方がいいよぉ」
と、サクラは中二帰宅部少女の長い髪を上に持ち上げている。
「はぁ…」
少し困った表情の少女。正面から右手で髪を持ち上げられ、初対面の黒ぶちメガネに顔を近づけられている。ていうかサクラってこんなフランクな奴だったのか。俺も少年に対してこれくらい積極的にいった方がよかったのだろうか…いや、気持ち悪すぎる。
「ね、彼氏もそう思うでしょ?こっちの方がかわいいでしょ?」
「は、はぁ…」
「かわいいでしょ?ね?かわいい?」
うわ、こいつ言わせる気だ。これは少年がかわいそうだぞ。スーパー思春期の子を困らせるな!
「おい、その辺にしと―」
「かわいいです!」
言いやがったーー!顔を赤くして下を向いている少年。顔は見えないが耳に朱がいってるので、顔のお色も想像が付く。一方、少女の方も「照」という漢字の成り立ちの途中のような表情をしている。…が、今一番真っ赤な顔をしているのは他でもないサクラだった。なんでだよ!
「あ、あなたなかなか積極的っていうか、男らしいのね。きっと彼女もそういう所に…ね?」
そこは俺も同感だ。今現在、少年の好感度はかなり高い。
「ねぇ?そうでしょ?」
「え?」
「彼のそういう所に惹かれたんでしょ?言ってみなさい??」
こいつまた言わせる気か!顔真っ赤にして中学生に何してんだこいつは。
「いい加減にしろ、そろそろ行くぞ!」
俺はアザラシを解放し、サクラの腕を掴み立ち上がらせる。
「ちょ、今いいところなんだってば!」
「うるさい、顔真っ赤にして何言ってんだ!二人をあんまり困らせるな」
俺はサクラを強引に引っ張り公園の外へ。
「悪かったな。またいつか!」
俺はあいてる方の手をかざし、少年に別れを告げる。本当にまたいつか会って話したいっていう気持ちも存分にある。
「さよなら」
顔を赤くした二人はほぼ同じ角度で頭をペコッと下げていた。
「仲良くするのよー!…ね、チュ―は?チューはしたのー?ね、チュ…もごもごっ」
俺はセクハラエスパーフランク小娘の口をおさえ、松田邸に歩き出した。
公園を出て20mほどの所で口を塞いでいた手と左腕を掴んでいた手を離し、俺はサクラとかなり密着して歩いていた事に気付く。目が合ったときに少し気まずさを感じたのは俺の方だけかな?
「お前なぁ…」
「いいじゃない。何日かしたらいい思い出よ。彼女もうれしそうだったわ」
ふと思った。こいつには髪型を褒められて、特別にうれしくなるような相手が居るのだろうか?自然な流れだ、聞いてみよう。
「…お前、彼氏とか居るのか?」
「え?ひ、秘密よ。ひ、み、つ!」
いたずらな笑顔で返すサクラ。非常にまぶしい。このまぶしさに照らされたい男なら、二億人くらい居たって不思議ではないな。
そして本日三度目の松田邸前。初のインターフォン。
―ピンポーン
「いないんだろ?」
「ふん!」