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H.H

 「じゃあツバキ、留守番よろしく」

「気を付けて」

今回の自宅調査は俺とサクラで行う。こちらは現場班だ。ツバキにも重要な任務が控えているが、それは後ほど。

「これ持ってくれ。カメラも入れとくといい」

俺は机の一番下、大き目の引き出しから黒いナイロン素材のウエストバックを取り出し、サクラに差し出した。

「オッケー。何入ってるの?」

両手で受け取ったサクラは、それをたすき掛けにしてベルトの長さを調整する。ベルトの幅は太めで、サクラの控えめな胸をつぶすことなくライトブルーのシャツに絡みつく。

「探偵道具って所だ」

「ふーん」

サクラが後ろを向くと、バックはサクラの背中半分くらいの面積があった。

「じゃね!ツバキ!いい子にしてるんだよ!」

微笑みあう二人。女子ってこんなに早く仲良くなれるもんなのか?と少し疑ってもいた。


―ガチャ

扉を開け短い廊下を行き、狭い階段に出る。先行したのサクラ。なにやらぶつぶつ言っている。

「ほら。やっぱり」

「なんだ?」

「ここの階段、2階から3階が13段なのよ。不吉だわ」

まじか。全然気が付かなかった。怖い話物件シリーズによく登場するシチュじゃねえか。俺は恐る恐る一段ずつ数えながら降りてみる。

「1,2,3、・・・・ん?」

「ん?」

「11段じゃねえか!どうやって数えたんだよ。2段も足んないぞ!」

「えー!」

指を指して数えなおすサクラ。すると背後から

「こんにちは。賑やかだね」

と、髭のおじさん。一瞬、声も出さずびくっとなるサクラ。

「こんにちは。すいません、騒がしくて」

「こ、こんにちわ」

まだ少し警戒中のサクラ。そしてこのあご髭を撫でて微笑んでいる小柄なメガネのおじさんは、当ビルの2階にて古書店を営む大月さん(62)だ。最近は古レコードも取り扱うようになったらしい。

「楽しそうでいいね。お仕事かい?気をつけてね」

と言って自らの店舗に戻っていく小さい背中。きっとまだ笑顔のままだろう。


階段を下りて外に出ると、自分はゾンビもしくはアイスかと錯覚してしまうほどの強烈な日差し。思えばもう少しで今日の太陽がもっとも本気を出す時間帯。五月下旬、気が付けばもう夏に程近い陽気だ。

俺はビルに向き直り、すすけたシャッターに手をかける。

―カラカラカラ

と、すんなり持ち上がるシャッター。普段から潤滑油を噴いてるからな。

「ふんっ」

俺は一気に上へ押し上げる。勢いをつけたソレはやがて姿を消し、かわりに目の前には我がガレージが姿を現していた。

そう、1階の所有者も俺なのだ。ついでに言うとだ、このビル自体が俺の持ち物なのである。先ほどの大月さんからも半年契約で家賃をいただいている。3階が事務所で、4階は現在空き部屋。現在、物置となっている。

「へ?」

ぽかんとしているサクラに、白いジェットヘルメットを差し出す。普段はツバキ用で、顔の部分に透明なシールドが付いている。

「バイクで行くのね?」

「ああ。後ろに乗った事は?」

ツバキ用の物より少し大きめの白いジェットヘルメットを被りながら答える。こちらにはシールドは無く、俺はゴーグルを装着する。

「ないわ!楽しみ!ねぇ、人生変わったりする?」

「さあな」

俺は車体を曳き、ガレージの外に出してエンジンをかける。国産の650ccツインエンジンが歯切れのよい低い排気音を立てる。そしてまたビルに向き直り、引っ掛け棒を使ってシャッターを下ろす。長めの引っ掛け棒は階段の脇にある。

「ねぇ、これ…」

振り向くとヘルメットのあご紐に手こずるサクラ。

「かして」

と、言うとあごをこちらに差し出す。目線は左斜め前という頓珍漢な方向。照れてるのかな?

「よし。きつくないか?」

あご紐は完全に締めず、俺の指が二本入るくらいのゆとりを与える。こいつ用のヘルメットも用意しないとな。何色を欲しがるだろう。

「大丈夫!安全運転で!」

任せておけ。ソレこそが俺の真骨頂だ。


ビルを出発したバイクは、やがて大きい道路に乗り、住宅街を目指す。到着まで10分ほどの走行だろう。俺は背中にダブルミーニングで不慣れな感触を感じ、より慎重にギアをつなぐ。路面にこすり付けるタイヤが、どれくらい磨耗していくか想像するほどの慎重さだ。幸い、転がす車輪には上も下も無く、俺たちは川に飛び込むことなく目的地に到着した。

そしてバイクを降りたサクラが一言。人生変わったかな…


「でも探偵ってベスパよね。やっぱ」


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