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S.S.U-4

 ここをどこで知ったか→依頼の確認というコンビネーションが、ツバキの中でパターン化されている。

「はい。水曜日の夜から高校生の娘が行方不明になってしまいました。私が気づいたのは19時頃、夕食に呼びに行った時で、最後に彼女を確認したのはその一時間ほど前になります」

「はい」

相槌を打ちながらもツバキは、腿の上のノートに松田さんの話す言葉を、ほとんど同時通訳で原文ままタイプしていた。

「財布などは置きっぱなしでした。それと携帯電話はずっと電源が入っていないようです。それと…」

「それと」

ツバキはほとんど液晶を見ずに松田さんを見ながらタイプしている。ブラインドタッチの極致も近い。もしや適当にタイプしてるのでは?っと、以前液晶を覗き込んだ事があるが、誤字脱字などはどこにも見当たらず、改行や句読点はもちろん、変換すら完璧だ。すべての変換される順番が頭に入ってるとでも言うのか?

「それと部屋にある彼女のパソコンにメッセージが残されてありまして…」

「メッセージ?と言いますと?」

タイプはとっくに追いつき、指は止まっていた。ちなみに、メールフォームに送られてきた内容は、すでに消化していて、19時頃気付いたという所からすでに新情報なのである。

「メモが開かれていまして、『無事です、探さないでください』と書かれていました。パソコンはまだそのままです」

「他に部屋などで変わった様子は?」

「特に…無かったと思います。たぶん…」

ツバキは松田さんの微妙な間を、スペースキーで表現しながら

「なるほど。では娘さんの事についてお伺いさせていただいてよろしいでしょうか?」

「はい。松田音々(ネネ)、梅の丘高校の二年生です」

「梅の丘の二年生ですか」

表情はそのままに、聞き返すツバキ。どうやら俺は二年生うめっこに縁があるらしい。

「はい」

うつむきながら答える松田さん、俺はそっと後ろを振り向き、サクラに目で問う。

―コクッ

うなずくサクラ。どうやら知っているようだ。

「部活などは?当日は何時ごろ帰ってきましたか?」

「陸上部に所属しているようですが、最近はあまり練習に参加していないようです。あの日は17時には帰ってきていたと思います」

俺は勝手に短距離走の選手だと予想する。小柄なこの人の子だ、きっと投擲ではないだろう。

「交友関係などは?」

「…少し、わかりかねます。あまりお友達を家に連れてくる子ではいので…」

「お付き合いしている方…交際なさってる男性はいらっしゃいますか?」

ガシャン!っと確実に皿が割れた音が流しから鳴り響く。振り向くソファの上の三人。

「失礼しました!」

ほうきとちりとりを持ち出すサクラ。

「手、切るなよ」

俺は久しぶりに声を出した。

「失礼。続けましょう」

「交際、ですか…ごめんなさい」

あきらかに松田さんは、娘の事をあまり知らない。まぁそういう年ごろなんだろう。

「わかりました。では次に松田様のことでいくつかお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい」

いいぞ、ツバキ。どさくさに年齢聞いてくれ、年齢。高2の娘がいてこれだけ若いってどういうことだよ。

「娘さんを抜かした家族構成と、あとお仕事は?」

「旦那は単身赴任中で今は娘と二人暮しなんです。私は専業主婦、です」

若さの秘訣は旦那の単身赴任と見つけたり!

「当日の18時から19時、松田様はずっと夕食の支度を?」

「いえ、18時に材料の買い足しに。その時に娘に告げて出たので…」

「なるほど。もどられたのは?」

「30分後くらいですね。娘には告げていません…」

ふむ。まぁ確実にその30分間だな。

「なるほど。では次の質問よろしいでしょうか?」

「はい」

「松田様とネネさんの関係についてです。親子、という事ではありませんよ?わかりますね?」

やや強めの口調のツバキ。俺は一瞬びくつき、数えていたツバキの「なるほど」の回数が吹っ飛ぶ。

「…はい」

曇った表情の松田さん。そんな表情がまた絵になる。

「あまり上手くいっていない、と言ったところでしょうか?」

まぁここまでの問答を聞いていれば誰だって感じる事だろう。

「お恥ずかしながら、最近はあの子の考えている事がわからなくて…。2ヶ月くらい前からでしょうか、会話も減ってしまって」

こんな綺麗な母親と口を利かないなんて!もったいない!

「そうですか。難しい年ごろですものね」

お前もな!

「…はい」

「それでは、本日、この後のご予定は?よろしければご自宅を拝見したいのですが?」

「ええ、かまいません」

そう、現場が一番大事なのだ。本気で虫眼鏡で探索したっていいくらいに大事だ。

「ありがとうございます。それと身分証明書を写させていただきたいのですが?もちろんご要望があれば後からしっかり破棄させていただきます」

「あ、はい」

松田さんは財布から免許書を取り出し、律儀に両手でツバキに差し出す。

「失礼いたします」

ツバキももちろん両手で受け取る。その辺はぬかりない。そして立ち上がり、社長机近くにある複合機へ。しまった、ここはサクラとの連携をとるべきだった。サクラの野郎メガネ拭ってやがる。

「お返しします」

「はい」

このやり取りも無論、両手to両手だ。…あ!そういえば免許書、生年月日わかるじゃん!よっしゃ!


俺は一秒でも早く免許書のコピーが見たくてうずうずしていた。


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