妄想なのだこれは
多賀くん動かしずれー
三度目の来店はあっさりとしたものだった。
本のバックナンバーが届いた事を知らせる電話は
私ではなかったので、誰かがしたのだろう。しかし
他の従業員が多賀さんの事で騒いでいる様子がなかったので
来店を知っている店長がしたと推測した。
「本はこちらでお間違いないでしょうか」
「はい、大丈夫です。」
前回の2回分の逢瀬(ええ使い方間違ってますとも)もだが今回の服装もかなり
私の好みだ。灰色のVセーターに黒のだぶだぶのチノパン。スタイルが良いから
そんなゆるゆるの服がよく似合っている。
3回目にしてやっと少し落ち着いて接する事が出来た。
それでも力を抜くと震えてくる手が緊張している事を物語る、しかしそれをあまり目の前には出さずにいたら
ばれる必要はない。
「それでは、お会計は〜円です。」
「じゃあ〜円からお願いします。」
本を多賀さんに渡す。
多賀さんは渡す直前にこっちの目をみて、ありがとうございますと言う。
その事に気づいた私は少し目をそらして渡す。
そして彼はまた本屋から出て行った。
ああ、最後までサイン下さいと言えなかった、、!!なにしてんの私
サインもそうだけど声をかける事もできないなんてどんだけ根性無し!
だって声をかけたら多賀さんがゆっくり本見れないのではないかと言う気持ちと
そんなのもう来ないかもしれないんだからどうでもいいじゃんという気持ちが
ぶつかり続けてたからって!
もういいや、こんな自分を憧れの人に認知してもらおうなんておこがましい。
私が声をかけるときっと又、私の劣等感を超刺激してくるだろう、彼に声をかけれるはずなんて
ないな、やっぱり。
ハハハと乾いた笑いでも漏らしたいのを堪えて私は取り寄せ受け渡しが記入されていた
紙を納品書にまとめようとした。
ーバックナンバー1〜22
な、なんだこれえええ!
今渡したのは1だ。目をみはった。
えええ、またくるの!?
またあえちゃうの!?
なんていう事件ーーーーーーーー!!
どうやら私の幸運は3度までではないらしい。
いや人生の不幸になるのか、彼女にはまだわからなかった。
しかし、人生は知っている
この人多賀瞬とぶっとい縁で結ばれてしまっていることに。