あの人とこの人
かくのってむちゃくちゃ時間がいるのね。
今日も一日が始まる。
開店業務を行いレジ金を入れ在庫を補充確認する。
その作業に朝っぱらから身体を動かし、まだ眠っている脳と動きにくい身体を無理矢理
活性化させようとしたのが原因だろう、動きはにぶく、だるさが余韻のように残っている
開店と同時にお客さんばっさー!とかは夢にもなく
開店20分後くらいからお客がちょろちょろと入ってくる
朝の暇な時間に本の紹介のポップを作ったり、取り寄せしてもらっていた
本が届いてお客に電話したりする作業だ。
頭がまだ回りきらないのかゆっくりと仕事を行う
悪く言えばものすごくダラダラと、である。
また自動ドアが開いた音がしたからまた誰か入ってきたのであろう
コンビニと同じ来店際の電子音を右から左に受け流しながら
次の在庫整理をし始めようとレジを離れようとした。
「すみません」
朝はしんどいので呼び止めないで下さい。
しゃべりたくないのにめんどくさい
従業員として最悪の気力(ええ私接客業苦手ですからね!)をもち
とりあえずダルそうな顔を引っ込めて振り向くのだいつもいつも。
「はい」
う、そー
「この本のバックナンバーってここで取り寄せできますか?」
「え、えええとバックナンバーは出版社に問い合わせていただいた方が
こ自宅の方にお届きすると、思いますが、ととととと、当店でも勿論こちらからお取り寄せ
する事もできます、う」
なにこれワタシ何かしましたか?
なんでこんな噛み噛みな風に、、ゆっくり喋ればいいのにくそー!!
「、、、あーうーん、じゃあこちらで取り寄せしてもらっても、大丈夫ですか?」
うわー、大丈夫も何も大歓迎だよ、しかしもう裏にひっこみたくてたまらない、キラキラした人
を目の前にすると途轍もない劣等感に襲われる
「あ、はい。それでは、こちらにお名前とご連絡先ご記入お願いします」
「あ、はい。」
彼が書類に顔を向け手に私の渡したペンを握り
彼の細く長く骨がごつごつした手が文字を走らせる。その手が私は好きで
映画をみている間も気になってしょうがなかった。
それにしても
何故2度目も来たのか、
なぞである、なぞすぎる。
そんな事を凝視しながら考えていると書けたようだ
「じゃあ、届きましたらご連絡させていただきますので」
「お願いします」
スッとした動作に思わず感嘆の声をあげそうになった。
うわ、私はあなたに頭を下げられるような人間じゃないよ
多賀さん!
「は、い。」
多賀さんがすっと目の前を通り自動ドアの方に向かい出て行った。
手元には多賀さんの字と連絡先、
思わず職権を乱用しそうになる気持ちを抑えながら、出版社に取り寄せれるか問い合わせる
その間もグルグルとまわる、先程の動作。
運が尽きた、きっとこの先交通事故でも合うのだろう
人生の先にこんなにも大きな不安を感じたのは久しぶりだが
2度目の来店に、3度目の来店が決まった事により最初の興奮が落ち着いてきた
ここら辺に引っ越してきた?
撮影がこの近くなのか?
それとも、彼女の家がこの近くなのか?
どうしても町のしがない本屋に現われる人物ではないのだ。
ー多賀瞬 29歳。遅咲きな個性派俳優
美しい繊細さと男らしさを持ち合わし、
動作、演技力は多くの文芸家に評価される。雰囲気は容姿は長身だが線の細い草食系だ。しかし
その中で見え隠れする男らしさと繊細さが混じった振る舞いに女性の心を捉え、いさぎの良い演技が男性
を捉える。映画に対する知識、好意さ、好奇心が強く助監督としても映画に携わる。
かなり頭が良く知識が豊富だと人は、言う。
そうだ、
私は多賀さんの見え隠れするその知識の深さや会話力を映画で見る度に
こんな人間が傍にいたらどんな会話で盛り上がれるだろうと感動してしまい、彼の一挙一動に
視線を奪われてしまうようになった
そう、ここに来た彼のまさにその一挙一動に私はまた感動を深めてしまったのだ。