最後の一杯。
「いつものを。」
なんだこいつは。初めましてだろうがよ。
そう思ったが、アイリッシュコーヒーを出すことにした。
「お客さん見ない顔だねえ。」
彼の顔が曇った。
同時に少し寂しげな顔をする。
「来たくなっちゃったんですよ。ここにね。」
なんだ?グルメサイトでも見たのか。
「そうかい。」
とりあえず返事をする。
「はいよ。いつもの。」
こいつはありがとうと言って一口。
雑誌を開き、なんとなく読む。
「雑誌、面白いこと書いてあります?」
馴れ馴れしく聞いてきた。
「別に。感染症が流行ってるみたいだな。」
懐かしいな。そうぼそっと言っている。
「最後に高橋さんの顔を見にきたんですよ。」
なんだ唐突に。
「失礼だが、名乗った覚えはないんだが」
少し笑っている。
「でも私は高橋さんのこと知ってますよ。昔から。そうずっと昔から」
怖いこと言っている。だが不思議と気持ちはあたたかい。
「ありがとう。ここはかけがえのない場所でした。」
初めましてで別れみたいなことを言っている。
そしてご馳走様と金を置いて出ていった。
少し多めのお金と共に、手紙が置いてあった。
そうか。彼は…。
女性が入ってくる。
「お疲れ様。最後の店じまいしよう。」
最後?
「最後思い残すことはなかった?」
続けて言われる。
「今日は久しぶりに彼にも会えたんだ。」
そう伝えると女性は少し笑みをこぼす。
「彼には感謝しなきゃね。毎日来てくれたんだから。」
店を閉める。
そして帰路についた。




