石の記憶 番外編 時代(とき)の語り部第3部
時代の語り部 第三部
新潟県上越市。
長野の山々を越えたトラックは、ゆっくりと目的地へ向かっていた。
高田城址公園から歩いて十五分ほどの場所。 そこが今回の配達先だった。
怜斗は荷物を届け、事務所で書類の確認を待つ。
「遠いところ、ありがとうございます。」
そう声をかけられ、怜斗は笑顔で頭を下げた。
長距離の仕事では、こうした一言が嬉しい。
しばらくして、事務所の方が冷たい緑茶を持ってきてくれた。
「よかったら、どうぞ。」
暑い夏の日。 汗ばんだ体に、冷たい緑茶が心地よく染み渡る。
そして、添えられていた小さなお菓子。
「これは上越の銘菓なんですよ。」
継続だんご。
怜斗は一口味わった。
甘さの中に、その土地で長く親しまれてきた味がある。
「おいしいですね。」
何気ない会話。
けれど、こういう瞬間もまた、長距離ドライバーだからこそ出会える土地の記憶だった。
書類確認が終わり、怜斗は時計を見る。
まだ少し時間がある。
高田城址公園までは歩いて十五分ほど。
歴史好きの怜斗なら、本当は行きたかった。
高田城。
春日山城。
上杉謙信ゆかりの地。
愛用のカメラを持って、ゆっくり歩いてみたかった。
しかし、今日は仕事だ。
戻る時間がある。
怜斗は公園へ向かい、短い時間だけその場所の空気を感じた。
目の前には、緑の葉を広げた桜。
満開の花の季節なら、どんな景色になるのだろう。
城跡を彩る桜並木。 春の風。 人々で賑わう公園。
そんな光景を想像する。
けれど、今日見た緑葉の桜もまた、この日の上越の姿だった。
「次は……桜の季節に来たいな。」
そう思った。
余韻に浸るほど長い時間はない。
でも、この短い時間があったからこそ、次に来る理由ができた。
帰り道、怜斗は小さな土産物屋へ立ち寄った。
そして、一つのキーホルダーを手に取る。
家紋入りのキーホルダー。
高価なものではない。
けれど、怜斗にとっては特別な意味を持っていた。
「また帰ってくる。」
その約束の証。
キーホルダーを大切にしまい、怜斗はトラックへ戻る。
エンジンをかける。
バックミラーには、少しずつ遠ざかる上越の街。
今回は見ることのできなかった景色がある。
だからこそ、また訪れる意味がある。
出雲で出会った瑪瑙の勾玉。
上越で手にした家紋入りキーホルダー。
全国を走る中で、少しずつ増えていく大切な記憶。
怜斗は静かにハンドルを握った。
いつか、またこの街へ。
今度は自分の時間で。
その日を楽しみにしながら、トラックは東京へ向かって走り出した。
(第4部に続く⇳




