Sランク
自己紹介をしよう。俺の名前はメグル。そこら辺にいる普通の冒険者だ。俺が適当に街を歩いていると……。
「お……誰かと思えば、Sランクのクソ雑魚じゃねぇか」
そんな声が、辺りに響き渡った。
Sランクなのに雑魚?と思った奴らのために、この世界のランク制度を説明しよう。
この世界、というより冒険者にはランクというものが与えられる。それが強さの指標になっていたり、依頼の難易度などにも使われている。その数、なんと26。AランクからZランクまで、幅広く存在する。Aランクが頂点であり、Zランクが最底辺の最弱に位置する。普通の人間でさえ最低Fランク程はあるのだから、Zランクなんて言われる人間は居ない。少なくとも、俺の知る限りじゃ。
普通の異世界だったら、SランクはAランクよりも上に位置しているのが殆どだろう。だが、この世界でそんな常識は通用しない。
そうして、俺ことメグルのランクはSランク。下から数えて8番目のランク。つまりクソ雑魚という事である。
「丁度良かった……」
そいつは、手を差し出してきた。勿論、好意的なものではなく。
「………ほら、金寄越せよ。お前みたいな雑魚が使うより、俺のような"勇者"が使った方が何倍も良いだろ?」
目の前の男は、勇者である。性格も悪いし、技術も無い。ただ力だけで全てをねじ伏せ、ゴリ押し、その甲斐あってなのかランクはAランク。つまり、この男に勝てる存在はこの世界には殆ど居ないという事。
ここで反抗しても、どうせ返り討ちに会うだけだ。だったら、最初から従っといた方が良いだろう。
「…………分かった」
俺はポケットから小銭の入った小袋を取り出し、そいつの前に差し出した。そいつこと勇者はその小袋をひったくるように受け取った。
「……………チッ、これだけかよ」
それだけ吐き捨て、そいつはその場を去っていった。
「………」
これが、俺の日常だ。日銭稼ぎに依頼をこなし、その日銭をカツアゲされる………そんな日常。周りからは嘲るような笑いが聞こえてくる。
「…………あそこに行くか」
俺はそう呟き、その場所に向かった。
日銭を取られては、宿にすら泊まれない。となれば、野宿するしかないのである。
そして、俺はいつもの森の深い場所にいた。ここならば、人間は勿論魔族でさえ立ち入らない場所なので安全なのだ。
「ふぅ………さて」
俺は荷物をそこら辺に投げ捨て、的を見据える。
ここならば、誰にも見つからない。だから。
「……………焔」
その瞬間、俺の指先から荒れ狂う炎が射出した。それは正確に的に命中し、そこには何も残らなかった。燃えカスも、火の粉も、何も。そこに的があったという事実そのものが焼かれたかのように。
「………流石に、鈍ったか」
その瞬間、遠くの方から爆発音が響き渡った。
「なんか、最近多いな。こういうの」
最近になって、魔族の襲撃が多くなってきているように感じる。
──と、そんな事を考えてる内に、気付けば俺の手には一つの仮面があった。
「………向かおう。この気配は、嫌な予感がする」
それこそ、Aランクと同等かそれ以上な程の気配を、俺は感じていた。
俺はその仮面を取り付けて、音がした方向へと向かった。距離は、およそ5kmくらいだろうか。
「……………こりゃ、すごい光景だな」
そこは、地獄絵図だった。
逃げ惑う人々。家屋を破壊している魔族数体。恐らく、Aランク程の魔族だろうか。そこに、剣を手にして向かっている男が居た。
少し前、金を奪ってきた勇者である。その姿は酷く、鎧はボロボロ。剣は刃こぼれ。何なら少しヒビも入っている。
「…………さて、どうしたもんか」
──────────────────
俺は息を切らし、その魔族を見上げていた。
「はぁ……はぁ……」
Aランクの、勇者である俺が……押されている……?
「ふざ……けるなぁ……!!」
剣を持ち直し、俺は、弾丸の速度を超越した速度でそいつに迫った。地面が、遅れて抉れる。この一撃で、仕留められる。そう思えた。
そして、俺は剣を振りかざし───。
気付けば、俺の体は壁に叩きつけられていた。
「が………ぁ…………?」
鉄の味が、口の中に広がる。今の一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
剣を振りかざしたと思った時にはもう、俺の体はここにあった。
「ごほっ…………かはっ……!?」
口の中から、血が溢れ出した。すぐ側には、刀身が半ば折れてしまった、勇者の剣。
「そん………なっ………」
そしてその化け物は、ゆっくりと、だが着実に距離を詰めてきた。
逃げたい。今すぐに。こんな場所から逃げ出して、街に戻りたい。
でも、俺の足は動かない。足の感覚が無くなっている。
そして、化け物は笑った──ように見えた。
「や………めろ……」
震える声で、叫ぶ。
「俺の傍に近寄るなぁ!!!!!」
その瞬間、化け物の姿が掻き消えた。いきなりの現象に、そして恐怖から、俺は目を瞑った。
───だが、いつまで経っても俺に痛みが来なかった。
ゆっくりと顔を上げる。
そこには。
「………おー、結構打ち上がったなー」
そこには───静かに佇んでいる男が居た。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。さっきまでそこにいた化け物は消え去り、代わりに一人の男が立っていた。
「お前………どこから……?」
その時、上から何かが落ちてくるような音が聞こえた。空を見上げると、そこには──。
「ゴギャアアアア!!!!!」
化け物が、落ちてきていた。だが、さっきまでとは見た目が違っていた。
肉は抉れ、目も少し飛び出し、怒り狂っている。
「…………ぎゃあぎゃあ喚くな。発情期か?」
目の前の男は、呑気にそんな言葉を吐いていた。
「何言って………早く逃げなきゃ──」
次の瞬間、空間が割れた。
遅れて、目の前の男が飛んだのだと気付いた。
──────────────────
「…………やっべ、加減ミスったか」
俺は下を見つめながら、そんな言葉を吐いた。見れば、一箇所だけ───俺が立っていた地面にはクレーターのような穴ができ、空間にも亀裂が走っていた。………いや、空間も割れていたのだろう。それが、すぐに修復されたのだろうが。
「…………まぁいいか」
上を見上げる。まだ少し距離があるが………。
その時には既に、俺の背中に漆黒の翼が生えた。
「…………行くか」
そう、言葉を発した時にはもう。
俺は、その魔族を片手で持ち上げていた。
「……………焔」
持ち上げた手から、その炎が放たれる。それは一瞬の内にその魔族を包み込み──。
俺の手から、重さが消えた。
「……………弱い」
俺の呟きが、風に紛れて消えていった。
──────────────────
俺は、その事象を見ていた。
俺が、全く歯が立たなかった魔族。それが、今の一瞬で跡形もなく消え去っていた。
「なんだよ…………あれ………」
俺が───勇者が勝てなかった魔族を、一瞬で殺した男。正面には、未だに直らない空間。
「あれは…………人間なのか……?」
俺の呟きに、答える者は居なかった。
──────────────────
「……………帰ろ」
俺はそんな言葉を呟き、翼を羽ばたかせて元の森に帰るのだった。
…………さて、みんなは疑問を抱いたのではないだろうか。何故これ程の力がありながら、実力を隠しているのか、と。
その理由は至って単純。
目立ちたくないのである。だから、こんな仮面を付けている。実力を隠していると舐められるが………俺からしたら、そんなものはどうでもいい。
ただ、目立たなければそれで良いのだ。
それが、俺の目標。目立たずひっそりと暮らす、そんな目標を掲げ、俺は今日も眠りにつくのだった。
違和感などがあったらどんどん言ってもらえると幸いです




