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第8話 巣窟

「何だよ、今のヤツ」

脱色した短い髪を掻きむしるようにして孝也が吠えた。

「目の前に居たらぶっ殺してやるとこだ」

そう更に吐き捨てると、ソファに座ったまま目の前の錆びたスツールの足を蹴飛ばした。


「あんたの品の悪さが伝わったんじゃないの? 電話の向こうに」

ニヤニヤ笑いながらアサミが孝也の肩にしなだれる。

「じゃあお前が電話かければいいだろ、アサミ」

「アタシ、電話嫌いなんだもーん。失敗してもいいならやったげるけど」

そう言うとゆらりと孝也から体を離し、今度はカウンターでビールを飲んでいるアキラの腰に手を回す。

眉をひそめてアサミを睨むアキラ。


「お気楽にへらへらしてる場合じゃないぞ、アサミ。あの男を見つけないとマジでやばいかもしんねえ。この携帯以外にあいつに繋がるものは無いんだ」

アキラは忌々しそうにビールの空き缶を右手でぐしゃりと潰した。

「別にあたし何もヘマしてないじゃん。つっかかんないでよ。探したいなら掛けまくればいいじゃん。いつかあいつに繋がるよ」

「いや、この電話も用心しないとな」

アキラは孝也の手の中の携帯を見ながら苦い顔で言った。

「GPSで逆探されたら案外ここの場所なんてすぐに分かるかもしんねえよ」

「わあー、それは困るよね・・・でもさ、そんなことする前にこの携帯に電話するでしょ」

「拾われた事も知らないだろ。本人だけには連絡つかないんだからさ」

「ああそっか。便利なようで不便ーー」

ふざけた調子でそう言うとアサミは今度はアキラの肩に手を回し、その逞しい首で飛翔する毒々しい紫の蝶に口づける。

その様子に緊迫感はまるで感じない。アキラはうっとうしそうに肘で払いのけた。


「ねえアキラさん、見られてたと思います? あの男に。あの時目え開けてたけど、気い失ってたんじゃないかと思うんだけどなあ。しかし生きてたとは残念。あんとき死んでくれてたら手間が省けたのに」

孝也が腹立たしげに言った。

「でも、びっくりよねえ。気がついたら知らない男が転がっててこっち見てるんだからさ。美希を殴ってる最中によ」

アサミが思い出したようにカラカラと笑う。

「あん時、上から別のおっさんがあの男見つけて救急車なんか呼ばなきゃよ、ややこしくなんなかったのに」

「そうよね。そしたらその場でヤッちゃえたのに」

孝也とアサミはまるでゲームか何かの話をする子供のように、残念そうに口を尖らせた。


「ダベってる時間ないって言ってんだろ。怪しまれてこの携帯の通話切られるのが先か、あの玉城って男が俺らのことを誰かにしゃべるのが先か。孝也、もう一回片っ端から履歴当たれ。一時間以内に何とかしろ」

アキラは唯一イライラしながら火を付けて間もないタバコを床に投げ落として踏みつけた。

けれど、あの男に見られて一番不安に感じて落ち着かないのが、自分であることを悟られるのも癪だった。

顔は平静を装う。


「イエッサー、ボス」

まだ酔ったようなテンションでアサミが答える。

昼間から商売道具のクスリを悪びれもせずくすねるその女に、アキラは辟易した一瞥を送った。

自分たちのやっていることに不安を募らせ、抜けようとした美希の方がまだ賢い女だった。

もう一人、消えて貰うことになるかもしれないな。

半ば本気でそう思いながら、もう一度タバコの残骸を踏みつけた。


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