第2話 嘘つき
「あれえーーー! どうしたの?玉城先輩、その怪我」
いち早く玉城を見つけた多恵の甲高い声に、長谷川とリクばかりでなくラウンジにいた数人の社員まで一斉に振り返った。
・・・だから嫌だったんだ。
玉城はバツの悪そうな顔をし、そっと長谷川達のテーブルに近づいて行った。
長谷川もリクも多恵も、玉城をマジマジと見つめたまま、しばらく唖然としていた。
その額には真っ白い包帯。首にも腕にも指にも至る所に包帯や絆創膏が貼られている。
「すいません、遅れてしまって」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる玉城。
「すいませんじゃないよ。どうしたの玉城、その怪我。ヤクザに喧嘩でも売られた?」
「あ、するどい! 長谷川さん」
長谷川の冗談に笑いながら飛びついた玉城だが、逆にギロリと睨まれた。
「で? もう一度聞くけど、どうしたの玉城。その怪我と、携帯にも繋がらなかった理由を説明しなさい」
今度の長谷川の声は厳しかった。
子どもの悪ふざけを咎める親の厳しさに似ている。
玉城はようやく取り繕った笑いをやめ、改めて説明の体勢に入った。
口を開く前に一度チラリと窓際に立つリクと視線を合わせたが、その問いつめるような目に、フイと玉城は目線を反らせた。
「いや・・・。実は昨日の夜、めちゃくちゃ酒を飲み過ぎてしまいまして。帰り道で階段踏み外したんです。そんで転げ落ちて、気を失って、救急車で運ばれて・・・こんな感じです」
玉城は両手を広げて苦笑いをしてみせた。
「携帯もその時無くしちゃったみたいですね」
「うわあ! やっちゃったわね、玉城先輩。言ってくれたら病院まで飛んで行ったのに。水くさいなあ。で、もう大丈夫なの? 入院とかいいの? 検査とかは?」
心配そうに玉城の肩や頭に触れてくる多恵から慌てて玉城は体を離す。
べたべた触ってくるのは昔からの多恵の癖なのだが、まさかこんな所でされるとは思わなかった。
「だ、大丈夫だから、多恵ちゃん。ちゃんと検査してもらって解放されたんだ。ついさっきだけど」
そんな様子を長谷川は、ほんの少し眉間に皺をよせ、じっと黙って見つめている。
ワザと視線を反らす玉城。
・・・気まずい。
早く打ち合わせに入ってくれないだろうか。
俺の怪我の事なんてもう、どうだっていいじゃないか。スルーしてくれ。・・・
玉城はじっとりした空気に呼吸が苦しくなるのを感じた。どうしたものかと戸惑いながら、もう一度リクを見る。
やはりリクはじっと不機嫌そうな目を玉城に向けている。
あの、心をすべて見透かしているような目が苦手だ。
今にもその唇が動きそうで、玉城は怖かった。
「嘘つき」・・・と。