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第13話 浮かび上がる現況

「え? ごめんって、リクが?」

玉城はベッドから上半身を起こした姿勢で多恵を不思議そうに見た。

ベッドの横で丸椅子に座っていた長谷川も同じような表情だ。

「わざわざ、そんなこと言いに来たのかなあ、あいつは。んで、顔も見せずに帰るしさ」

居心地の悪そうな様子で玉城はつぶやく。

リクが何のことを言っているのか玉城には分かっていたが、釈然としない。


「ねえ、先輩。リクさんに何か頼んだの?」

多恵がベッドの横ににじり寄り、玉城の近くに体を乗り出すようにして聞いた。

「何って、別に、ちょっとした事だよ」

「何よ、ちょっとしたことって」

「ちょっと人捜しの協力を頼んだだけだよ」

ムッとした表情になる玉城。


「リクさんね、捜しに行くって言ってた」

「え? 捜す? あの、あれをか? あいつをか?」

「どれのあれだか分かんないわよ。でもそう言ってた」

「なーんだ。出来るんじゃないか」

玉城は少しムッとしたようにぼやいた。

横に「霊の力」のことを知らない長谷川が居るので、少し言葉を濁しながら。

「リクには出来るんじゃないかと思ったよ。俺が見る者はいつも、あいつにも見えてたから。最初から協力してくれればいいのに。だいたい冷たいんだよ、あいつは」


そう玉城が言い終わらないうちに、多恵は左手を伸ばし、玉城のパジャマの襟首を掴み、ぐいと凄い力で自分の方に近づけた。

「グアッ・・・なんだよ、多恵ちゃん」

「何を頼んだのかって聞いてんのよ、私は。リクさんが捜しに行ったのはね、私のカンでは先輩を轢いた犯人よ」

「・・・は?」

長谷川も座って腕組みをしたまま黙って多恵を見た。

「さっき長谷川さんに聞いた話を総合するとそうなるの」

「どうなるんだよ。話、飛びすぎじゃないか?」

「簡単に言うとね、玉城先輩は殺人現場に遭遇し、目撃されたと焦った犯人に殺されそうになった。リクさんはその犯人を捜そうとしている」

長谷川はやはりじっと口を閉じたまま多恵を見ている。

玉城だけが話が飲み込めず、オロオロと視線を泳がせた。

「俺が見た・・・殺人現場?」

「そう。吉ノ宮神社の階段、転がり落ちたでしょ? 一昨日。今朝そこで女の死体が発見されたのよ。一昨日くらいに殺された死体が、よ。たぶん犯人は先輩に見られたことを知ってるのね。だから拾った携帯で先輩を必死に捜して、見つけたところを車でバン!」


その効果音に玉城はビクリとし、呆然と多恵を見つめた。

「そんな・・・。あれは浮遊した霊が見せた回想シーンだと、そう思って俺はリクに・・・」

「捜しに行ったのよ。リクさんは」

「でも、捜すってどうやって」

「殺された女に聞くんでしょ?」

多恵はさらりと言った。

ハッとする玉城。そしてやはりじっと黙って二人の会話を聞いている長谷川。


「そんなことできるのか? なんだ、そうか。まあ、あいつなら出来そうだしな。そう言う手があるのか」

「馬鹿じゃないの?」

多恵が鋭い口調で言った。

「何が!」

「自分で霊を、それも殺されて間もない魂を呼ぶのがどういう事か分かってないのよ、先輩は。たまたまチューニングが合って見てしまう微弱電波霊とは訳が違うのよ。自分に取り込むのよ。ついさっき死の苦しみの地獄を味わった憎悪と恐怖の塊を境界線ぶち破って自分の体に取り込むのよ。わかる? それがどういうことか」


玉城は硬直したように多恵を見た。今まで見たこともない多恵だった。

「それって、やばいことなこか?」

「ヤバイでしょ。ヤバイから誰もやろうとしないでしょ、もし出来たとしても。でもリクさんはやろうとしてるのよ」

「なんで」

「先輩を助けたいから」

「・・・」

「自分にそれが可能だから」

「・・・」

「先輩は、リクさんに、何を言ったの?」

最後のそれは玉城の心臓をぐっと掴んだ。何も答えられなかった。

“俺はあいつに何を言ったろう” 反芻するのも怖かった。

玉城は目を見開き、ベッドヘッドに体を預けて真正面の壁を黙ったまま見つめた。


「さあ、あんたたち」

突然、ピリリとした張りのある長谷川の声がその静寂を破った。

多恵も玉城も、今まで黙って腕組みしていたその女編集長に視線を向けた。

「もうそろそろいい? ちゃんと説明してもらおうかな。あんたらが言ってる、その力の話しをさ」


玉城と多恵が目を合わせて少し気まずい表情をした。

「でも長谷川さん、信じないんじゃないですか? 霊の話しとか・・・」

恐る恐る玉城が言うと、長谷川はギロリと玉城を睨んだ。

「信じるとか信じないとかの話をしてるんじゃないよ。事実説明しろって言ってんだ。分かんない奴だな。リクが置かれている状況を知りたいんだよ。ただそれだけだ。何か文句あるか?」

何の澱みも迷いも無くきっぱりとそう言った長谷川に玉城はまたしてもビリリと痺れる心地よさを感じた。


・・・そうだった。この人はそんなことを問題にする人ではなかった。悔しいほどシンプルで真っ直ぐだ。

自分のような水槽の小魚ではない。大海を泳ぐ大鯨だ。

そしてたぶん、だれよりもリクを大切に思っている人なのだ。・・・




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