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第10話 見えてきた片鱗

人間は、あまりに咄嗟の危機に見舞われると、思考回路が停止する。

その事を玉城はつい先日確認したばかりだった。

神社の境内へ続く急な石段を転がり落ちた時もそうだった。

そして、今、この瞬間も。


突然自分めがけて突っ込んできた二つのギラギラした目が何なのか分からなかった。

車だと気付く前に、体はもうその鼻面の先に乗り上げていた。

声など出ない。痛みも恐怖も、ドラマにありがちの悲鳴も出ない。

ただ、くるくるとビルの灯りが目の前を流れ、回転した。

ドサリと音がする。鼻の奥がきな臭い。全く嫌な感じだった。

体が地面に不格好に落ちたのだけは何となく予想が付いた。とてつもなく格好悪い。


誰も自分の事なんて、見ていなかったらいいんだけど・・・。

意識が闇に沈む前に、玉城が思ったことは、ただそれだけだった。



      ◇


「あれ? もうお帰りですか?」

帰り支度をしてラウンジを横切ろうとした長谷川に、グルメ誌の編集部の橋本が声を掛けた。

「ああ、ここんとこ遅かったからね。今日は早く帰るよ」

「それがいいです。お疲れさま。・・・あ、そうだ」

橋本はチラリと視線をラウンジの隅のTVに移し、眉をひそめ気味に言った。

「長谷川さん、吉ノ宮神社って知ってます? 緑が丘の住宅地の外れ。僕の毎朝のジョギングコースなんですけどね。あそこでさっき、女の変死体が見つかったんですって。僕、今朝もジョギングしたんですよ、あの階段の上の道を。死体の近くを走ってたなんて、もう、ゾゾーっですよ」

橋本は震える仕草をしてみせた。


「吉ノ宮神社?」

何処かできいた名だと、長谷川は視線を天井に一瞬向ける。

「それって、もしかして玉城が転がり落ちた神社じゃなかったかな」

「玉城君が?」橋本は驚いた声を出した。

「何でまた・・・」そして今度は、可笑しそうに含み笑いをうかべて聞いてきた。

「酔っぱらってたそうなんだけど。・・・それより、いつなの?死体が見つかったのは」

「見つかったのはついさっきらしいですけど、死後2日は経ってるらしいですよ。

頭をめった打ちにされてたらしいですよ。明らかに他殺体。・・・で、玉城君はいつ落ちたんです?」

「一昨日の深夜だったはずだよ」

「ひゃー、どんぴしゃじゃないですか! 後で何か見なかったか聞いてみよう」

明らかに橋本は楽しんでいる。

「玉城が来るの?」

「ええ、グルメディアのコラムの打ち合わせで。でも、もう30分も遅刻ですよ。

携帯拾った人にお礼でも言ってんのかな」


長谷川はその言葉に、一瞬眉を潜めた。

「携帯ひろった人? 何、それ」

「一時間くらい前に電話があったんですよ。玉城さんの携帯拾ったんですが、今どちらか分かりますか?って。ちょうど今からうちの本社ビルに来ますよって言ってあげたんですよ。どうやって渡すつもりなのか知らないですけど、お礼言って切れました」


「・・・」

長谷川は黙ったまま目だけぐるりと動かした。

「ずっと探している。玉城を。」

「え? 何のことですか?」

橋本は甲高い声で聞き返した。


外からは不安を煽るようにパトカーや救急車のサイレンが聞こえてくる。

長谷川はバッグをまさぐり、携帯を掴み出すと玉城の番号を押した。

ツーっという電子音だけで、まるでコールしない。

チッと小さく舌打ちすると、今度はリクの番号を押した。

携帯を持ち歩かないリクだったが、今だけは持っていてくれと、願いながら。


「はい」

「ああ・・・よかった。出てくれて」

思わず安堵の息を吐く長谷川。

「何? 長谷川さん」

「今日の夕方さ、なんか変な電話なかった? 玉城の携帯拾った男から」

「あったけど・・・どうかした?」

リクの声が少し緊張してきたのが長谷川には分かった。

「ずっとその人、玉城を探してるんだ。変じゃない?」

「・・・・・」

「それからさ、あんたニュース、見た?」

「いや、見てないけど」

「玉城が転がり落ちた吉ノ宮神社の林の中で、女の変死体が見つかったらしいんだけど」

「・・・いつ?」

「見つかったのはさっきだけど、殺されたのは、玉城が転げ落ちた晩らしい」

「・・・」

「考えすぎかもしれないけどさ、玉城はそこに携帯落として来たんだ」

「長谷川さん、玉ちゃんは?」

リクの声が不安そうに細くなった。

「大丈夫。もうすぐここに打ち合わせに来るはずだから。とっつかまえて注意するように言っておくから。

ごめんね、変なこと報告して」

そう言って電話を切ろうとした、その時だった。


慌てた様子で同じグリッド編集部の松川が飛び込んできた。

ラウンジの隅の長谷川をみつけ、息を切らせながら外で起こっている騒動を、大声で伝えた。


「嘘でしょ」


長谷川は汗をかきながらこっちを見ている松川に呟いた。

自分も手に冷たい汗をかいている。

落としそうになった携帯を握り直すと、それがまだリクに繋がっているか確かめた。


「リク、聞いてる?」

「何かあったの?」


「うん。玉城がね。・・・玉城がこのビルの前で車にはねられた」


「・・・・・・え」


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