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鉄パイプ令嬢は逃走王子を尻バットする〜処刑直前に王冠を押し付けられたからハッタリだけで国を乗っ取りました〜  作者: 朱音ことは
前編 バカ王子に王冠を押し付けられたわよ!

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9話 できるかじゃない やるのよ!!

 グリースの肩に乗ったままエントランス・ホールまで進むと、ミュウと執務室メンバー、狩人や料理人が揃っていた。


「お嬢様ぁ!生きてた~よかったぁ!!」


 ミュウにゴスっとタックルされて呻くグリース。ちょ、揺れないで!!怖いじゃない!!


「ミュウやめなさい!!わたくしが落ちたら危ないでしょう!?」

「その前に俺が可哀想だとか、降りようとか思わないのか!?」


 集まった皆に顔を向ける。

 それにしても破落戸(ゴロツキ)顔率が異常ね。市井の治安のせいかしら?


「皆さんも、忙しい中見送りに来てくれてありがとう」

「おい、シレッと無視すんな」


「つかお姫様、なんでグリースの肩に乗ってるんスか?それでここまで来たんスか?うける〜!」


 グリースを指さして笑うマイク。

 ふふ。なかなか『良い絵』でしょう?


「視界が高くて気持ちがいいわよ」

「それはたしかに!」

「納得してんじゃねぇよ」


 ツッコむ熊を完全にスルーして、ミシェルが問う。


「……ヴィルシュ侯爵家令嬢、見込みはどうです?」

「7割といったところね。あとはお父様を強請(せっとく)するだけ」

「我々も執務室でベストを尽くします」

「よろしくね」


「……はぁ。やっぱ断りゃよかった……」


 城に残る彼らに軽く手を振り、「右の肩、余ってますよ!私も座っていいですか?」なんてミュウの寝言を無視して実家への案内を命じる。


 後ろからは凱旋でもするかのように高揚した民衆が続く。

 そう、わたくしの狙い通りに。



――



 正門、大階段前の車寄せでグリースが足を止めた。


「……おい、馬車が1台も止まってないぞ?」


 そりゃ城内に誰も居ないんだもの。あるはずがないわ。


「あー、しかし王家の紋がついた馬車を使った日にゃ、即ぶっ壊されそうだ。待ってろ、辻馬車を呼んでくる」



 肩に乗ったわたくしを降ろそうと腰を掴んだ熊。


 ぎゅむ。


 わたくしはその手を、思い切りつねり上げた。


「ってぇ!?おい!急につねるな!落とすだろうが!」


「何故わたくしを下ろそうとしているの」

「そりゃ、馬車探すのにこれはちょっと「お歩きなさい」はぁ?お前さん何言ってんだ?」


 一瞬考えて口を開く。


「ヴィルシュ侯爵家までお歩きなさい、人力馬車さん」

「そうじゃねぇ!俺の腰が砕けるわ!」 

「あら、あなた『わたくしを左肩に乗せること』に承諾しなかったかしら?」


 しれっと返すと、「あぁ!?」と不服そうな声。


「普通は城の中までだろうが」

「それはあなたの勝手な推測よね?」

「ぐぁあ、ほんっとお前さんはもう」


 自由な右手で頭をかきむしるグリースに、くすりと笑った。



 ――



「……こんな子供向けの話あったよな」


 街を歩きながら人力馬車がボヤく。


「知ってます!笛の音につられて町中から子供がいなくなっちゃうおはな「静かに。まったく、すぐ雑談を始めるんだから」はーい」



 熊のような大男の肩に座る、鉄パイプを持ったメイド。


 それを先導するのは、るんるんスキップする少女メイド(皆がお菓子を渡すものだから上機嫌だわ)。

 後続には厳つい男達が意気揚々と続く奇妙なパレード。


 絵本の主人公だって裸足で逃げ出す珍場面よ。



「――おい!いったい何事だ!!」



 焦ったような声に呼び止められ振り返る。


 警邏(けいら)隊の制服を着た、中年男だ。

 声の勢いとは裏腹に膝がプルプル震えている。やる気だけは褒めてあげるわ。


 わたくしは首を可愛らしく傾げて眉をさげた。


「……突然、怒鳴らないでくださいまし……怖い……」


 うるり。


 涙を浮かべると、相手はわたくしの顔と脚を見て一瞬口元を緩め(下賤に脚を見られるのは腹立たしいけれど……お仕着せの威力はなかなかのものね?)

 ――直後に後ろの男どもの殺気を察知してすくみ上がった。


「ヒッ!いや、怒鳴っては……おい大男!この団体はなんだと言っておる。少女誘拐か?暴動か?なんなんだこれは?」


 馬車(グリース)に聞いてどうするのよ。


 わたくしは熊の肩を叩いて下ろさせ、警邏隊の手を軽く握った。

 視線が顔と脚を反復横跳びしている。腹立たしい。


 (くっ……人が居なければ鉄パイプでシバくのに)


「グリースさんを叱らないで!わたくし、ヴィルシュ侯爵家の長女、ディアと申します」

「ヴィルシュ侯爵家!?へ?は?メイド!?なんでメイド!?」

「事情があり、東部災害の支援金を生家に募るため向かっているのですが……」


 ちらりと背後に視線を流すと「そうだそうだ」「邪魔をするな!」そんな叫び声。

 少しは落ち着きなさいな。なんて。もっとおやりなさい。ほらほら。


「この方達は、侯爵様に感謝を伝えたいと共にきてくださったのです。治安を乱すなんて、酷い誤解ですわ」

「し、しかし、これではぁ、捕らえざるを得ないんですよ」

「……そんな!」


 口元に手を当て俯く。


 本物の暴動を抑えられなかった警邏隊(むのう)が寝言を言っているんじゃないわよ。

 ……おかげで生き延びたのも事実だけれど。それはそれ、これはこれよ。


 わたくしは肩を震わせて振り返った。


「皆様、ここまで共に歩んでくださり、ありがとうございました。けれど、心優しい皆様が捕縛されてしまうのは本意ではありません。生家にはわたくし一人で向かいますわ。……ほんとうに、心より感謝いたします」


 頭を下げると、大きく膨れ上がった殺気が中年男に向く。ポキポキと指を鳴らすような音。拳を何かにぶつける音。

 だんだん、彼を囲む輪が小さくなり――


「わっ……私は何も見てません!お通りくださいぃ!!」



 転がるように路地へ消え去った。


 雑魚ね。



「あぁ、お目こぼしをいただいたわ。……警邏隊の方のお気持ちに感謝いたしましょう」


 さりげなくグリースの手をつねり、また左肩の定位置に戻る。

 ちょっと。溜め息なんて付かないでよ。



 これで止める者は居ない。

 民衆に怯えた腰抜け(きぞく)共は、屋敷の窓辺に張り付き震えるだけ。



 奇妙な行進は続き。

 事情を聞いた民が我も我もと追随し、最終的に集団は2倍に膨れ上がっていった。



 ――



 貴族街の最奥地。

 梟の紋章を掲げたヴィルシュ家の前でミュウは足を止めた。



「ただいまです!お嬢様のおかえりですよ!衛兵さん開けてくださ……あれ?ぎっくり腰ですか?」


 腰が抜けてしりもちをついている衛兵を心配するミュウ。

 

 まったく、わざわざ時間をかけて来てあげたのだから、少しは覚悟しなさいな。


「ミュウ。私がいいと言うまでおしゃべりは禁止。……グリース、前に出て」

「はいはい」


 門扉前までグリースが歩み出る。

 わたくしは思い切り空気を吸い込んだ。



「ただいま戻りましたわ!ヴィルシュ侯爵家の長女、ディア・ヴィルシュでございます!あの投獄は冤罪です!どうか、わたくしのことを見限らないでくださいまし!!」



 ……出ない。

 仕方がない、壊しましょう。鉄パイプを握り直したその瞬間。



「……おお、ディア……!!ディアなのか!?生きていたのか!ああ、不甲斐ない父を許しておくれ……!」



 正面バルコニーからの悲痛な叫びを皮切りに、三文芝居の幕が上がった。

お読みいただきありがとうございました!

ブックマーク、評価、リアクションを押してくださって凄く嬉しいです!!

本当に本当にありがたいです!


引き続き、お付き合いください!!

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