5話 まぁ なんということでしょう……!
【完結済】毎日更新、全27話。
読みに来てくださった方、ありがとうございます!
くすりとでも笑っていただければ幸いです。
「くっ!殺しなさい……!」
15日ぶりのお風呂は最高だったわ。
お気に入りのオイルはないけれど、清潔な石鹸の香りに満たされた温かな湯船。
強張った身体が解放される感覚は、言葉にし難いほどの快感で。
問題はその後。
「屈辱だわ!なんでわたくしがこんな物を着なくてはならないのよ!!」
「わ~お嬢様のメイド服最高に似合ってます~永久保存モノですねっ!」
「今すぐ忘れなさい!」
「ええっ!ぜったい無理ですぅ!!」
滑らかな濃紺のベロアが台無しな、膝が丸出しのワンピース。バカが天元突破したフリフリエプロンに、ダイヤが煌めくホワイトブリム!
よりによって、あのバカ王子がデザインした下品な制服じゃない!
スパン!と床にホワイトブリムを叩きつける。
「え~なんで取っちゃうんですか」
「お黙り!……はぁ、さっさと戻るわよ!」
「もったいない~」なんて情けない声を無視して、鉄パイプ片手に執務室まで駆ける。
悔しいけれど、ヒールが太い靴は軽くて走りやすいし、暖かくてコルセットのないお仕着せに身体が喜んでいるのがわかるわ。
……わたくし、ドレス生活に戻れるかしら?
小さな不安を胸に最後の角を曲がると、グリースが廊下の壁に寄りかかっていた。
「おっ、お嬢さん!スッキリ……した、か?……お、お嬢……なのか?」
熊が細い目と大きな口を全開にして固まった。
屈辱……っ!
こんな下品な姿を晒すなんて、わたくしのプライドは粉々よ!
「笑いたくば笑えばいいわ」
「いや、笑うっつーか……その」
「言いなさい!」
ピシリと鉄パイプを突きつけると、グリースは目をキョロキョロとさせ、顔に掌を当て天を仰いだ。
「…………か「やっぱりホワイトブリムつけましょうよぉ~!」」
背中に小さな衝撃。……なんで持ってきているのよ!
「捨てなさい!」「いやです!」とミュウと言い合っていると執務室からリーダーのマイクとミシェルが顔を出した。
「おかえ」「こちらの書る」顔だけ向けて石化する2人。……おかしな格好で悪かったわね!
「あ~こりゃ仕事にならんな。……おい皆、2人を中に戻すぞ!外は見るなよ!絶対にだ!お嬢さんは目録庫でもどこでも行ってくれ。しばらく帰ってくるなよ」
バタン。ガチャリ。
なんという侮辱……怒りに震えるわたくしにミュウが親指を立てる。
「さすがお嬢様。あいつら今ごろ鼻血ぶーですよ」
「これで!?」
下品なお仕着せで鼻血なら、わたくしがドレスを着たら一斉にひれ伏すのではなくて?
……もうどうでもいいわ。そういうことに、する。
都合よく2人になれたし目録庫に行くことにしましょう。
「さ、目録庫に案内なさい」
「はい!出発しんこー!」
ミュウは軽い足取りで先を進む。
「そういえばお嬢様、目録ってなんですか?」
「そうね、国の地図とでも言えばよいかしら?」
「ええ~?いまさら地図なんて視てどうするんですか?」
「地図は地図でも、利権と財産の在り処がわかる宝の地図なのよ」
「ふ~ん。――あ、ここです!目録庫!」
ミュウが指すのはルームプレートの無い古びた扉。
わたくしは小さく頷き、相棒を思い切り振り上げる。
扉が、悲鳴をあげた。
――
「次よ」
薄暗く埃っぽい部屋。天井までそびえ立つ棚の中身を片っ端からミュウの横に積み上げる。
ミュウは無言でページをめくって眼を通している。
壊錠まで1時間。入室から20分。
空になった本棚。一番のお目当ては、まだ見つからない。
……まさか、隠し扉が?
改めて部屋中を探すと、棚にはペンが投げ捨てられ、燭台の台座には本が使われていた(バカなの?焼け死にたいの?)
なんの気なしに表紙に目を落とす――あった。国宝目録!なんでこんな場所に置いているのよ!!
ほんっとうにこの国は……大丈夫じゃないわね!!
「ミュウ、最後よ!抜かりなくね!」
「はぁい!」
紙を擦る音が部屋に響く。……相変わらず、こういう時の集中力は凄まじいわね。
「終わりました!お腹すきましたぁ」
ゴシゴシと両手で目を擦るミュウ。
「お疲れ様。執務室にクッキーでもあるといいわね」
「ありません!棚もテーブルも難しい紙ばっかりでした!」
「あら、引き出しに隠しているかもしれないわ」
「そっかぁ」
棚を整理して一息。
自分のエプロンと、彼女の頭に載った綿埃を払う。ふわふわした髪が指に絡んで心地よい。
「戻りましょう」
「はぁい!」
クッキークッキーと帳簿を抱えてスキップするミュウを追う。
執務室の彼らとひと休みしましょう。やるべきことは、まだ多いのだから。
――
「おう、お嬢さん。随分暴れてきたみたいだな。」
先ほどとは違い、すっかり落ち着き払ったグリースが出迎える。
ミュウは持ち帰った目録を床に置き、執務室に飛んで行った。
「埃くらいで大げさよ」
「埃ぃ?ソレだよ、ソレ。ひん曲がってるじゃねぇか。今度は何をぶっ壊してきたんだ」
「失礼ね」
そういいながら握っている鉄パイプを見る。なんてこと。すっかりくの字になっているわ。
さりげなく、曲がった部分を背に隠す。
「……目録庫の扉を少し、壊錠しただけよ。それより進捗はどう?」
「カイジョウ、ねぇ。まぁボチボチってところだ。そっちも収穫ありって顔だな」
グリースは床に置かれた数冊の本を見てにっかりと笑い、執務室に向かった。
「おい!お嬢さんが入るぞ!気をしっかり持てよ!」
いちいち言い方が癪に障るわね?
「よっし、入っていいぞ」
執務室が鼻血で染まっていないといいけれど。
わたくしは、恐る恐る執務室を覗き見た。
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