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4話 駄目だわこの国…早くなんとかしないと

「……バカのドミノ倒しね」



 グリースの話を聞いて、思わず呟く。


 ――我がロンディネ王国では、大きく分けて2つの派閥がある。


 ひとつは散財傾向が強い王家派。

 対するは『慈愛と節制』を家訓とする我がヴィルシュ派。


 クーズイル前王――ゴーミルの父親が戴冠してからは露骨に王家派を優遇して、悪政や横領が蔓延った。

 我々は現状に頭を痛めている状態よ。



 ……ヴィルシュは善き貴族か?

 ええ。グリース(かれら)への看板はそうね。



 でも、本質は違う。


 適度に奪い、適度に生かす――それが王侯貴族(わたくしたち)(なりわい)


 王家と我等の違いは、バランスを欠けば死に直結する薄氷の特権だと理解しているかという一点のみ。


 アレの婚約者にわたくしがねじ込まれたのは、ヴィルシュにとって起死回生の一手だったわけ。



 ――歪んだ土台に、不格好なドミノが並ぶ。



 絢爛の限りを尽くす王家と腰巾着。

 過度な搾取に限界の民衆。

 手をこまぬくヴィルシュ派。

 そして、処刑されるわたくし。



 運良く、『わたくし』より先に『怒りの民衆』のドミノがぐらぐらと揺れ始めた。



 慄いた王が、ゴーミルに王位を押し付けて出奔。腰巾着も逃げ出した。


 ヘラヘラしていたゴーミルは、ギリギリのタイミングで城に残った唯一の貴族――わたくしに冠を押し付けて逃走した、と。



 なんてしょうもないの。



「俺だってびっくりしたさ。なんとか皆の暴走を抑えながら、いざ城に入ったらもぬけの殻。王子様はボロボロの女の子に王冠押し付けてトンズラだ」


 グリースが眉を下げる。


「……なぁ、王様の立場ってのは猫の子みたいにホイホイ渡せるもんなのか?」

「まさか。冠はあくまで象徴よ。本来なら王太子ですら然るべき書面と儀式が……」



 突然黙り込んだわたくしに、ミュウが顔を覗かせる。



「お嬢様?キュイでお腹壊しました?」

「……この国の『王』は、一体誰なのかしら……?」

「なんだと?お嬢さんじゃないのか?」



「ミュウ。王の執務室と目録庫に連れて行って」


 私の言葉にミュウがぴょこんと立ち上がる。



「かしこまりました!執務室はここを出て左から「行くわよ!」はい!」

「お、おい。どうしたんだ?」

「人手が必要になるわ。今すぐ仲間を連れてきて。読み書きが得意で、役所勤めの経験があれば尚良し!……反撃開始よ!」

「おい!……ったくなんなんだよお前は!!」


 グリースの上着を投げ返して走り出す。足の痛みは、もう気にならなかった。



 ――



「おいおい、なんだこりゃ……俺の部屋よりひでぇぞ……?」

「うーん、私の部屋よりは全然マシですね!」



 重厚な扉の向こう。本来整然とあるべき執務室の床には書類が散らばっている。ペン立ては主を失い、あろうことか印章指輪(シグネットリング)は窓際に転がっている。



 目眩がした。

 ……この国、大丈夫なの?



 何気なく足元の紙を拾うと、締切が12日前の書類――の裏に謎のポエムが――仕事をなさい!!


 特大のため息を飲み込んで背後を振り返り、7名の若干几帳面そうな破落戸(ゴロツキ)に命じる。



「文字が読める4名は片付けと書類の整理、役職出身者3名は書類の区分けをお願い。至急の項目は右、急ぎでないものは左、私腹肥やし(おねだり)はゴミ箱。そして、譲位書類や王位継承関係はわたくしへ」


 チャラそうな青年と眼鏡を掛けた神経質そうな壮年の男に順に視線を送る。


「商会の息子のマイクと法務局出身のミシェルをリーダーにするから、質問は2人が取りまとめて」



 すっかり手に馴染んだ鉄パイプで荒れ果てた部屋を指す。


「この仕事が、わたくし達の進む道を決めるわ。取りこぼしなく、確実に行うこと!」

(オウ)ッ!」



 ドドドと、男達は勇んで荒野へ飛び込んでいった。

 ……やる気は十分。あとは彼らを信じるだけ。



「……なぁ、お嬢さん」


 背中を少し丸めて、グリースが問う。


「なにかしら?」

「実家に帰らなくていいのか?」

「帰らせてもらえると思う?」


 返事が詰まった。熊はなぜか視線を一瞬足元に向け、もごもごと返す。


「いや、そりゃ……でも、あいつら帳簿付けなんかは滅法速いが、こういうのは専門じゃねぇ。……あー、実家の助力を得たほうがよっぽどうまくいくだろう?」



「……その通りね」


 素直に同意すると、グリースの顔が緩んだ。……わたくしがいると不都合なのかしら?


「だったら早く帰って……」

「駄目よ。国王、王子に続いてヴィルシュ侯爵家令嬢まで逃げたらこの国は崩壊するわ。今は民の信頼を勝ち取るのが急務」


 一息で言い切って、背を向ける。


「……残念だけれど、帰宅はしばらくお預けね。さぁ、ミュウ。今のうちに目録庫に行くわよ。こればかりはわたくしとあなたでやらなくては」


「はーい!」執務室をうろうろしていた(とても邪魔ね?)ミュウが飛んでくる。



「目録庫ですね!3階突き当「まったまったまった!!違う、そうじゃねぇだろ!!」あー!グリースさんは遮らないでください!」


「なによ、まだ言いたいことがあるの?」

「ある!大いに、ある!――お前さんはいつまでそのカッコでいるつもりだ?いい加減あったかい服を着てくれ!!」



 え?

 ひとつ瞬いて下を見ると、ダサいコートに囚人服。よく見ると足の爪は欠けて血が滲んで――くしゅん!



「あ~!ごめんなさいぃ!行きましょお嬢様!!貴賓室は「ゴチャゴチャした邪魔くせぇドレスなんぞ着せんなよ!」はいぃ!行ってきまーす!!」


「風呂も入って温まってこい!」グリースの声を背に、ミュウに手を引かれながら進む。



 まさか、最大の急務が『着替え』だったなんてね……。



 ――この時のわたくしは思ってもいなかったわ。

 あんな屈辱的な事件が起きるだなんて。

完結済、全26話になります。


初めての執筆なので、ご指摘やアドバイスがあればお気軽にくださると嬉しいです!

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