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3話 こういうのでいいのよ こういうので

 賭けには勝った。


 それなりに残っていた食糧は、贅沢さえしなければ城下の民を一ヶ月は賄えそうだった。

 ――そして。



「15名!素晴らしいわ!」


 熊、もといグリースが集めた男たち(なぜ全員破落戸ゴロツキのような顔なのかしら?)一人ひとりに丁寧に挨拶をする。


「狩人の皆はこの城にあるもの――果樹や作物、草木の実や狩り用の兎も。食べられるものを選別してお持ちなさい。料理人は皆のお腹を満たす食事を用意なさい。皆の心と身体を満たすには、あなた方プロの知識と知恵が必要よ」


 鉄パイプを振り上げ、力強く鼓舞した瞬間。



 くうぅぅー。



 瞬間、どっと湧く笑い声に耳が熱くなる。

 ああ、格好がつかないわ!……わたくしのお腹!静まりなさいな!


「こほん。……わたくし、牢に入れられていて3日も食べていないの。とびきりのランチをお願いね?」



 ――



「……美味しい、わね」

「はい!みんな顔は怖いけど、料理はとっても上手ですね!」


 わたくしは玉座に、ミュウはちょこんと床に座って具の無い麦粥を恐る恐る口に運んだ。

 温かくて塩気が利いた兎のスープとプチプチと弾ける麦の食感がからっぽの心と身体に沁みる。


 下座には巨大な鍋に麦粥がなみなみと入っており、並んだ者たちに食事を配っている。



「よぉ、お嬢さん。腹ペコだったろうに粥なんかで悪かったな」


 どしんと目の前に座り込んだグリースに眉が寄る。……この男、ここで食べるつもり?


「あら、むしろありがたかったわ。こんな場所でフルコースなんて出されたら困ってしまうもの。……想像以上に味が良くて驚いたわ。あなた、人を見る目があるのね」

「そっか、ありがとな。あいつらにも言っときますよ。ま、一番の調味料は『空腹』って言うからな。ははは、いただきます」


 からからと笑いながら食べはじめるグリース。くっ、さっきのことはお忘れなさい!


「……全く、謁見の間で配給なんて強行して!歴史ある床に溢したらどうするおつもり?」


 キッと睨みつける。


「拭けばいいでしょう。人目が多い所で食わせるのが一番安全なんだ……というか、そこに穴開けた人間が言うのか?」

「~~っ。これは不可抗力よ!ああ、もう!玉座の重みをわかっていない人は困るわ……あら」


 器に目を落とすと、食べ終わっていることに気づいた。……残念、ね。



「はは。ほら。これじゃ足りんでしょう。あいつらにゃ秘密だぞ?」


 グリースが笑ってわたくしの器に何かを乗せ――。


「おい!何してんだ!」


器ごと『ソレ』を放り投げたわたくしに、熊が目を丸くする。


「け、毛虫っ……なによその肥えた毛虫は……いやぁ……!」

「は?」

「虫だけはダメなの!ほらぁこっちにきたわ!」

「食いもんが動くわけねぇだろ!」


 玉座に縋り付くわたくしを横目に「ごちそ~さまでした」と器を置いたミュウが、ヒョイとそれを拾った。


「あっ!これ、キュイです!甘い果物で「いただきましょう」はぁい!」

「早っ!!」



 呆れ顔のグリースが腰のナイフで器用に皮を剥くと、艷やかな緑の実が現れた。


「種も食えるから残すなよ」


 木の枝(今更だけれど、洗ったのかしら?)に刺して渡された果実?を恐る恐る舐める。


「……甘酸っぱい、わね?薫りも悪くないわ……」


 グリースが破顔した。


「だろ?庭園に生えてたから摘んできたんだ」

「わ!ベロがヒリヒリする!すっぱーい!」

「ははは、お子様にゃまだ早いか」


 豪快に口に放る熊と、舌を出すミュウを眺めながら、控えめな甘さを噛みしめるように少しずつ口に運ぶ。



 広間でも食事はほぼ回ったようで、片付けやここまで来るのが難しい者たちへの運搬が始まっている。


 腹が満たされた人間は、少しだけ優しくなる。


 穏やかな顔の民。くすぐられるような心地よさを感じ彼らをぼんやり眺めていると、グリースの低い声が流れ込んだ。


「結局、お嬢さんは何者なんだ?ナリはともかく、偉そうな態度からして間違いなく貴族だとは思うが……名乗らなかったのはわざとか?」



 ゆっくりと首を振る。


「余裕がなかったの……本当よ。わたくしはディア。ヴィルシュ侯爵家の長女よ」


 彼のさして大きくない目と、大きな口が真ん丸に開いた。


()()ヴィルシュ侯爵様の娘ぇ!?じゃああんた『バカ王子の婚約者』か!なんで牢屋に入って……あ、いや?えー、なぜ牢屋にお入りなられて?」

「変な敬語を使うくらいならそのままでいいわ。しょうもない冤罪よ。今日、民衆へのガス抜きで断首される予定だったの」


 ボロボロの囚人服を抓む。……そういえば、裸足のままだったわ。わたくし、頭も身体も麻痺していたのね。


「……そりゃ、なんというか……生きてて良かったですね」



 気まずそうに頭を掻いた彼は、上着を脱いでわたくしの膝に掛けた。肩にはミュウのコート。膝にはグリースのジャケット。あまりにもダサいコーディネートに笑いがこぼれる。


「ふふ、ありがとう。本当に、あなた達のお陰でわたくしの首は繋がったの。……でも、いま何が起きているかわからなくて困っているわ。状況を教えてくれる?」


「……もちろん」



 グリースが指を組み、経緯を語り始め――わたくしは、あきれ果てることになる。

読んでくださった方、ありがとうございます!


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