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スキル『お小遣い』で人生を

作者: 感染者
掲載日:2026/02/12

生まれ変わったことに気づいたのは5歳の時だった。


あまりの空腹に孤児院の院長のすね毛をむしって食べようとしてげんこつを食らった時だった。


前世では耐えるような人生だった。


母子家庭の生活保護。その呪縛から逃れて社会に出ても抑圧的だった生活の延長戦でしかなくお金は使わずに貯金。


しかしいくら貯金すればいいのか、このままの人生でいいのかと一発逆転を狙って仮想通貨に手をだした。


当時話題になったウンココイン。これが未来の世界通貨になるといわれて僕はそれに乗った。


しかし、それは詐欺だった。


仕組みも一般的な仮想通貨と同じで特異性などなく謳い文句だけの商品で価値は1年も経たず下落した。


僕はなんて糞だ。ウンコだけにと笑ってそこからはあんまり覚えてない。


貯金したところで搾取されるだけ、貯金した先の未来だって貯金を切り崩してひもじく生きるだけ。


そんな人生、こんな人生、あってもなくてもかわらないじゃないかと僕は残ったお金で都内のとにかく高層のホテルを借りて、無限にデリヘルを呼び続けた。


ルームサービスもなんか色々頼んでた気がするけど会計までしてないからいったいいくらになったかは知らない。


僕はひたすら、女の子を呼んで人生最後の日にパーティーを行ったのだ。


全員初対面。ぼくの素性なんて知らない。


抱くことなんてしない。ただ今日が誕生日なんだ祝えとカラオケを歌わせたり王様気分で命令してた。


向こうも変わった客だなとしか思わなかっただろう割と彼女たちはノリノリだ。


「さぁ、じゃあ最後のイベントだ!花火だ!上にいこう!」


彼女たちを引き連れながら屋上にいくと僕はフェンスをよじ登って告げた。


「じゃ、サンキューね!君たちには前払いしてるけどルームサービスのお会計まで足りるかしらないから各自逃げるように!!」


それだけ彼女たちに告げて僕はビルの屋上から飛び降りた。


どうせ死ぬならこんくらい破天荒でちょうどいいだろう。


このふざけた世界で真面目に生きる必要も理由も、ないんだよ。ハハハ。




そして今、僕は2度目の人生で孤児院に捨てられ空腹に追い詰められ最初の人生よりも過酷な環境に追いやられている。


「神様理不尽すぎませんかねぇ?!」


僕は孤児院の院長のすね毛をこね回してありんこを作ってむしりながらこの現状を嘆いた。


院長は慣れたもんで無視しつつおかえしにとおならをかましてくる。


「う、くせえ!」


「お前も5歳だ生誕の儀式でスキルを得る。それによっては良い人生を送れるかもしれん。それまでくらいおとなしくせんか」



生誕の儀式。それは誰しもにスキルを与える教会の儀式である。この儀式に参加しなくても大体7歳くらいまでにほとんどの人はスキルが発現するが、早期育成という名目のもと、国が国民のスキルを管理したいという思惑から教会に委託し5歳になった子供たちを集めて一斉にスキルを発現させる。それが生誕の儀式だ。


ちなみに院長のスキルは『鬼子母神』若いころにやんちゃしてたけど、捕まって改心して孤児院の院長になったヤベーやつだ。怒ると本当に角が生えてくる。


昔やんちゃして捕まったけど、今の国王が小さいころ誘拐されてそれを救い出したことから孤児院もらったらしい。


たまに、養子に出した子供がいじめられているって聞くと2,3日戻ってこなくて養子に出した子供を連れて帰ってきたと思ったらいじめてた貴族をボコボコにしてたりしてた。


まぁ、悪い人ではない。だが、そんなことしてるからお金が集まらなくてこの孤児院はいつもひもじい……。






*




生誕の儀式。やることは簡単だ用意された水晶に手を置くと光って与えられたスキルが浮かび上がる。


「それではそこのきみ、次だ、テキパキ頼むんだよね。うん」


教会の司祭に促されて僕も手を置く。



これまでに発現したスキルは剣士だったり鍛冶師だったり、衛兵になったり職人になるのに有意義なものばかり。


今年は当たり年かなんて大人たちが話てるのが聞こえてきた。


てことはだ、前世の記憶もあって、異世界転生してる僕は絶対、120%チート能力でまさか勇者なんて能力だったりするのかもしれない。この世界魔王なんていないけど。


いやはや、庶民たちによるお膳立てご苦労。この僕の異能を目にして驚くがいい。


そんな風に鼻息荒く僕は手を置いた。


キラリと光浮かび上がる文字。


『お小遣い』


周囲の大人たちがざわめく。


なんだ、レアスキルか?周りの大人たちは初めて見たといっている。司祭も顎に手を当てて考えてることから知らないのかもしれない。


 「初めて見るスキルだ、ちょっと使ってみてくれないか?」


 「わかりました『お小遣い!』」


 すると宙からコインが落ちてきて僕は受け止める。


 10ボッキ……。


 日本円でいうと10円くらいの価値だ。


 僕は絶句した。


 司祭はそれでも表情を崩さずに「もう一度できるか?」と言うのでもう一度スキルを行使しようとするが今度は何も起こらなかった。


 どうやらクールタイムがあるらしい。


 そこに来て司祭が苦笑した「10ボッキをスキルを使用するともらえる能力か……一応上には報告しておくが使い道が難しいな……励むように……」


 僕は、この2度目の人生で再び絶望したのだった。


 孤児院に帰ってきて僕はその10ボッキを大切にしまった。


 これでも、積もれば何か買える。僕はため息をついてクールタイムの把握に努めた。時刻の鐘が鳴るたびにスキルを発動し、まだできないまだできないと寝つけずにいると夜中にようやくコインが宙から落ちてきた。


 ……これは1日一回だな。


 1日一回で1か月300ボッキ……串肉買うくらいしかでいないなぁなんて思ってポケットに手を突っ込むと儀式のときに出した10ボッキが無くなっていた。


 まさかと思い翌日夜中0時に昨晩だした10ボッキをみてるとそのコインは0時が訪れるとともに消えてしまった。


 やばい、これは……貯めることもできなければ使っても消えるなら詐欺と変わらんぞ……。


 僕が自分の能力が融通も利かず、ましては貯金もできないとても不便というか、使うと詐欺になることに絶望していると同じ孤児院のタツが話しかけてきた


 「なぁソソリ、スキルはずれだったんだって?見せてくれよ」

 「ほら、10ボッキこれが俺の能力だ、あげるよ」


 タツは幼馴染で同じ5歳。スキルは剣士を発現させて将来は騎士だなんて言われてるエリートコースの子だ。

 くぅ、うらやましい。


 「まじかよ、いくらでも出せるのか??」

 「いや、1日一回だな。しかも1日経つと消える。使えないスキルだな」


 ふーんなんて言いながらじゃぁもらっとこうかなんてタツは言って孤児院のみんなが集まるところに行って「10ボッキ賭けて虫相撲やろうぜ!!」なんて言って悪いやつだなぁなんて思っていたらみんなぞろぞろ集まってなんか始まってしまった。


 

 この世界ではゴキブリが出ない代わりに家の中でカブトムシが突然どこからか現れる。


 子供たちはそれを集めて飼育させておりこうして毎日相撲させたりさせているのだが10ボッキ、たかだか10円だがお金をもらったことのない子供たちは「やる!」っと言って盛り上がっていた。


 明日にはそのコイン消えちゃうのにタツの野郎は悪いやつだ。


 なんて思ってると次の日。


 10ボッキを大事に磨いてるカブトムシ相撲の優勝者のポポの姿を見つけた。


 え、消えるんじゃないのコイン?と思ってスキルを使ったコインをもう1枚ポポにあげてみた。


 ポポも同い年の『集中』のスキルを授かった白髪の男の子だ。


 この『集中』スキル割とチートで勉強でも剣術でもスキル使用中は熟練度、習得速度、能力が上がりどんな仕事にも就けるといわれる万能な能力だったりする。くそ羨ましい。


 「え、いいの?でもどうしよう、せっかくだしこれでまた虫相撲しようかな!ありがとう」


 そう言っていってしまった。そして結局ポポが勝つんだから、虫相撲なのに『集中』でどのカブトムシが勝つかとか選べちゃうんだから万能というよりチートだよなぁなんて思う。


 こうして僕は子供たちの娯楽である毎日の虫相撲景品10ボッキの出資者になるのだった。





*




 どうやら、自分の手を離れたコインは消えずにこの世に残るらしい。毎日使い切らなきゃいけないのが『お小遣い』のスキルのようだ。


 虫相撲だけだとポポが無双しちゃうからちょっと偉そうに批評家になって地面に絵を描いて一番の傑作にコインをあげるとか、紙飛行機を飛ばして一番飛ばした子にコインをあげるとかいろんなことを日々楽しんだ。


 僕は景品を出す側としてみんなにちやほやされて割といい気分だったりする。


 そんなある日いつも通りコインを出すと僕の頭の中で「ポコポコチン」なんて音がなって、その時を境に出てくるコインが100ボッキになった。


 10ボッキだと何も買えないが、100ボッキだとフランスパンみたいなちょっと大きなパンが買えたり、バナナみたいな果物を1房くらいなら買えたりする。


 これを独り占めしても良かったけれど、もう毎日このコインを追い求めて子供たちが群がるようになってきていてやめれなくなっていた。


 ぼくはこの日、銀色の硬貨を掲げて「今日から100ボッキだ」と宣言すると、子供たちの熱狂は頂点に達したのだった。


 あまりの騒ぎに院長が現れて10ボッキなら子供のお遊びで済むが100ボッキは子供にしたらちょっとした収入になるのでこれを機会に剣術、算術、歴史、地理などなど院長が授業を行いその最後に口頭で小テストを行ってちゃんと最後まで話を聞いて点数を取れた子にコインをあげるようにしようと言い出した。なるべくみんなにチャンスがあるように1回もらったら1週間1位を取ってもお休みでポポみたいに『集中』とかで無双するのを防ぐことにしたりもした。


 前世の記憶がある僕としてはまぁ僕の能力で出る硬貨を取り上げるのではなく有効活用しようとしてる大人としてまぁいいのではないかと承諾してやった。


 ただこの日を境にみんな勤勉になり遊び心を忘れていった気もするので院長のすね毛は思いっきりむしってやった。


 そんな感じで7歳になったころにはみんな真面目っこになっていた。


 ん~、真面目に生きても前世面白くなかった身としては遊び心を忘れてしまったこどもたちというのも面白くない。


 僕は「ポコポコチン」というあの音を聞いて今度は500ボッキになったことを誰にも言わなかった。


 毎日100ボッキを景品にして、残りの400ボッキをソソリとポポに100ボッキずつ渡してボディーガードにして毎日1時間づつ王都を練り歩き調査するようになった。

 

 毎日帰りに残りの200ボッキで二人に串肉を買い与えて身体を大きくするにはタンパク質とカルシウムだ!と串肉をあげるかわりにあげた100ボッキでコップ一杯の羊の乳を行商から買ってもらって毎日飲ませた。


 10歳になるころには二人は孤児院では周りと比べても頭一つ大きく身体が成長し、二人ともがっしりとした身体になった。


 子供ながら僕が食べないのに串肉や乳を買い与えてもらってることに恩を感じるのか立派にボデイーガードをしてくれている。


 二人は僕らばかり食べて悪いというが、「大人になって大きくなった身体で出世してそれを孤児院の子供たちに返してくれたらそれでいいよ。というか、それがいい」というと二人とも真面目な顔して受け入れてくれた。


 さて、このままでは真面目な大人になってしまって面白くない。


 この言葉は僕としては全部嘘だ。いい人ぶって忠誠を勝ち取り、彼らには暗躍してもらおうというその駒としての教育である。


 僕は、秘密結社、この孤児院を拠点に組織が作りたいのだ。


 お小遣いで出せる金額が毎日500ボッキ、それで雇えるのは子どもしかいない。僕はこの子供たちを使って「楽で!、定時退社で!、老後まで安心して働ける職場を探し出して就職するんだ!」という目標を持っている。


 子供たちにこの少額の資金で恩を被せて僕の就職の時期になったら一緒に面接に行ってもらい、僕以外の子たちには悪態をついて僕だけが受かるようにしてもらうのだ。


 そして子供たちを使って、いい職場を探し当てるのだ。


 お小遣いスキルの金額がどこまで増えるかわからないが働かないと生きていけないだろうからね。


 



 *



 

 ボディーガードという役割を与えられて、ポポとタツはより一層剣術にのめりこむようになった。


 『集中』のスキルが発動中はポポが圧倒して、それを耐えきるとタツが抑え込むように畳みかける。


 勉強であれば『集中』は長時間維持できるがクールタイムが長く、戦闘などは発動時間が短くなりクールタイムも短くなるスキルだと分かった。


 「『剣士』なんだけどなぁ、『集中』使われるとやっぱその間は負けるなぁ」


 タツが不満をこぼしてポポに向かいあう。


 ポポはそれでも戦闘では発動時間短くなるから短期で試合を終わらせないといけないハイリスクハイリターンだと嘆いてた。


 二人の模擬試合を眺めてると片膝をついて話しかけてくる子供が現れる。


 「ボス、東の鍛冶屋ですが表立って人は集めてませんが今後国からの武具の発注が増えて人を増やす目途はあるようです。鉄の発注を増やしてました」


 僕はそうかと言って100ボッキを手渡した。子供は受け取ると消えるように立ち去っていく。


 僕らは13歳になり、孤児院をでなきゃいけない歳になった。


 僕らは就職をしなきゃならず、僕は子供たちを使って王都の職場の雇用環境などを調査して子供たちが仕事に困らないように動いていた。


 「『器用』のスキルと『鍛冶師』のスキル持ってた子はそこでいいかもなぁ、あとは新興商会の丁稚が今後よさそうではあるけども、調査しないとなぁ」


 今僕は3000ボッキ毎日手に入るまでスキルが成長した。その資金を元手に僕は子供達にスパイのようなまねごとをさせている。


 子供たちに僕は王都をこれまで調査した地図を見せて自分たちが働くことになるであろう雇用場所にマーキングをして「これから僕らが働くであろう場所だ、しかしただ働けるからで選んでいては搾取されるだけだ!ワークライフバランス!年間休日120日以上、子供のうちは朝番、夜勤の無い職場を絶対として選んで就職するんだ!」と子供達にコインをばらまいていやらしい笑みを浮かべて悪役っぽく問いかけたのだ「拾うがいい。お金は好きだろう?」


 それから子供たちは僕からの報酬を求めて王都を支配するようになっていった。


 大人たちと顔見知りになり、情報を引き出し、可哀そうな子供を演じて仕事を手伝って報酬をもらいながらその職場の雇用環境を見極める。


 その情報を資金源である僕に伝えてさらに報酬を得る。


 情報は子供達全員に共有され、優良な職場に就くには下地の勉学も必要ということで子供達は景品である100ボッチとは別に勉強も頑張るようになった。


 勉強が苦手な子には冒険者になるという道もあり、そのために剣術をポポやタツを筆頭に頑張っている。ただ冒険者といっても野営やモンスターの知識なども必要で会話の中からでも博識のポポからいろいろ教えてもらって成長していっている。


 そんな日々で僕は進路としてニートという選択肢が浮かび上がっていた。


 お小遣いが毎日3000ボッキ、月額にすると9万ボッキももらえる。雑魚寝の宿泊施設に2000ボッキだして残りの1000ボッキで飯も雑費も賄えて生きていけてしまう。


 どこまでこのお小遣いが増えていくのか未知数だがこれからまだ増えるならそれならニートしながら増えるのを待っていればどんどん生活が豊かになっていく。


 しかし、100人ほどいる子供達を統べて諜報組織を作ったこれを放置するにも勿体ない。


 自分の進路はどうしたものか、悩ましいな人生はと思うこのごろであった。




 * 閑話:恋のキューピッド


 

 


 「ボス!!死のうとしてる人がいます!」

 「なんだって!!?」


 港を縄張りにしてる子供が情報を持ってきた。

 

 なんでも女性が死のうとして崖をウロウロして今にも飛び込みそうで今はまだ思いとどまってるけど時間の問題かもしれないと。


 なんでも、貴族のおぼっちゃんに甘い言葉で口説かれて遊ばれていていよいよと現実を見せられて振られたらしい。


 まぁよくあるといえばよくあるけども、諜報組織として情報を集めてたら人の幸、不幸も見えてきてしまうから悩ましい。


 放置が楽だなぁと考えているとまた一人子供が現れた。


 「ボス!首を吊ろうとしてるおっさんがいます!」


 「またかよ!!」


 今度は商業街を縄張りにしている子供から情報が上がってきた。


 それは就職先にも好条件と判断していた新興商会の商会長だった若くして立ち上げのかまだ30代半ばだ。


 なんでも婚約していた幼馴染の女性が貴族と良い仲になり婚約を反故にして音信不通になったとか。


 幼馴染のためにがむしゃらに働いてきた彼にとってそれは絶望だったのだろう。そういった話も聞いていた。


 僕はため息をついてそこに集まっていた子供達に号令をかけた「呼び声と歌姫を送ろう」と。


 


 商業街が騒がしくなった。「人が首を吊ってるぞ!助けてあげなきゃ!」子供の声だった。

 港で子供達が泣きべそをかきながら漁師たちに船を出してほしいと詰め寄る。人が海に飛び込んだと。


 呼び声の実行役の子供達は大人を経由して二人の死を防いだ。


 二人は各家に運び込まれ安静にするようにと大人たちに怒られていた。


 僕らはまず二人の命を救い、歌姫を送った。


 彼らの窓から見える位置で子供達が円になり歌を歌う。


 幼馴染のために働いてきた苦労を、遊ばれているとわかっていてもどこかで信じていたその葛藤を。


 この歌が自分自身の歌であり、何故自らの人生を知っているのかと二人は窓の外を眺める。


 「救われた命に意味はある。神はすべてをみられている。明日の出会いに祝福を♪」


 そう歌い終わると子供達は散り散りに走っていく。


 不思議な体験に二人は困惑して眠りにつく。そして朝を迎えると二人の家の玄関がノックされる。


 そこには誰もいない。ただ頼んでもいない新聞が置かれている。


 それを広げると水に一度濡れているのか滲んで読めないが、一つの記事は読める状態で新規開店するカフェを紹介する記事だった。


 そこを読み終わったときにふと二人の耳に子供達の声がきこえてくる「開店間際は混んでるから昼過ぎがいいなぁ!!」。


 不気味だった。しかし、昼過ぎまで家で過ごしているとまたノックがして扉を開けると誰もいない。そのかわりに広場で遊んでる子供が「あ~そび~ましょ~!」と大声で叫んでいる。


 不気味だった。それでも、二人は身支度をして外に出ることにした。そして記事にあったカフェに向かった。


 その道中だ、子供たちが目の前を歩いてるのに気づくとその子たちは大きな声でこちらに聞かせるように話を続ける。



 「昨日自殺しようとした人がいるんだって!しかも二人!二人とも酷い振られ方をしたんだって!」


 

 二人は目の前でしゃべる子供達が自分のことを喋ってることに恥ずかしい思いもありつつもう一人そんな人がいたのかという興味が沸いていた。


 そしてカフェにつくと、まだ若い子供のような従業員に案内されるままカウンターに男は案内された。

 そのあとについた女性もなぜかその男性の隣のカウンターに案内された。


 席は空いているのに二人は隣同士に案内されたことに沈黙で答えたがここでカフェの外に歌姫達が現れる。


 それは二人の生きざまを紹介するような出会いの歌だった。


 一人の男は幼いころの恋の約束を果たすべく仕事に貪欲に取り組み一代にして一財を築いた優しい男であったと。

 もう一人の女性は一途で将来旦那を支えるために勉学に励んできた美しい女性であったと。


 しかし、その二人のそれぞれの恋は儚く終わってしまったと。


 そんな二人が今日出会った。奇跡の翌日の出会いである。我らはこれを祝福する。


 女性は涙ぐむがそれを見て察した男は振り返って外で歌を歌う歌姫たちの正体を掴むべく立ち上がる。しかしそれを見計らうかのように歌姫たちは街の中に溶けて消えていってしまった。


 男は席に戻ると横を見た。ハンカチを手に俯く女性。


 男性は声をかけた「もし私でよければその涙の理由を僕に支えさせてもらえませんか」と、女性は言う「あの歌の通りなのです」と、男はそれを聞いて困った顔になりでも正面を向いて「奇遇ですね、私もあの歌のような生き方をしてきました」というと彼女は彼を見つめてこれまでの、昨日死のうとしたこともお互い語り始めるのだった。


 




*



 僕は進路を冒険者ギルドに絞ることにしたしかしなんと年間休日90日。ブラックである。


 契約内容は最長3年間の試用期間で給料は月額11万ボッキ。社宅である寮はある。食費としてまかないもある。制服も貸与される。しかしまぁ普通にブラックだ。


 大手の看板と引き換えに低賃金で人を働かせる暴挙である。許すまじ。しかし、これには理由があったそれはポポとタツが15歳にならないと騎士の試験を受けれないのでそれまで冒険者で下積みをするから。


 冒険者ギルドは子供たちだけでは情報を集めるのに何枚か壁があるそれを僕自身が中に入って理解して子供達に流布しポポとタツが円滑に冒険家業を遂行できるように手助けする。


 このようにブラックなのでこれならばと冒険者になってしまう孤児院の先輩方ばかりだったので僕の代で内側にも人を送り込むべきだろうと判断してワークライフバランスと言いながらブラックに部下を送るのは気が引けるので自分から飛び込んだ形だ。


 休みこそ少ないが9時~17時の仕事で朝と夕方以外は新規の依頼受付以外仕事は無い緩い職場であると調べがついている。まぁ大丈夫だろう。

 

 他にも外回りの営業として受注クエストをもらってくる仕事もあるがそれはちょっと先の話だろうか。


 それにしても、100人の子供が本気で諜報活動をするとエネルギーがすごいもので、子供が諜報活動してるなんて思わないもんだから大人はベラベラしゃべるし、そのたびに報酬を僕がださなきゃいけないわけで、3000ボッキじゃ足りなくなってきていて明日払うね……なんていう情けない日もでてきたのだ。1つの情報で100ボッキ、1つの実行役で100ボッキ、なんだけどそれでも足りない、困ったもんだ。


 だから僕は早くおこづかいスキルを育てるためにお金を消費し続けなければいけないというのと、得た情報の有効活用。そして新たな報酬のために優良雇用であるギルドの斡旋クエストを用意してそれを子供達に割り振れるように活動しなければならない。100ボッキの代わりにそれよりも報酬が大きくて割のいい仕事を子供達に斡旋するのだ。


 今後は新興の情報誌として情報を生かして新聞社を立ち上げたりもしないとなぁなんて考えて、せっかく『お小遣い』っていう働かなくていいスキルを手に入れたのに最初のお小遣いの使い方から始まって手をひけなくなってしまった。悲しい。


 

 「本気で冒険者ギルドに入るのか??」


 「あぁ、仕方ない。冒険者ギルドを経由していい仕事でも持ってこないと孤児院は潤わないし子供たちの飯も満足に用意できないし。ここまで手広くしてしまったからな……。数年で子供でもできるいい仕事用意してそのあとはニートにでもなるかなぁ……」


 「せっかく働かなくていい能力を手にしたのに投げ出したって誰も文句は言わんだろうに」


 ポポとタツがあんなに働きたくないと言っていた僕が働こうとしてることに懸念を推す。


 

 僕としてはせっかく遊びで秘密結社を作ってその初代ボスなのだ、2代目を用意して権限を委譲するまでは、その運営にかかわる運営費を賄えるようになるまでは用意してやりたい。


 この王都にある孤児院を統べて優良雇用にしか優良人材を送り込まれなくなれば人材不足で悪質な商会は淘汰されていく。


 それはつまり健全で質の高いサービスが市場で当たり前になるということで、僕がお小遣いでニートするのに健全な社会であり続けるということ、そうこれも僕のためだ……。そう言い聞かせて僕はブラック企業に就職するのだった。





*




「いらっしゃいあぁせ~」「こちらのクエストはCランクでせえぅ~Dランクのパーティーはうけれまてぇん」「魔石の買い取りせっすねぇでは計測しあっすのでこちらの番号札でおまっちくださぁい」


 僕は真面目(適当)に働いていた。


 受付として働いている。いやしかし辛い。女性職場でもまぁいけるだろうと思ったがなんていうかね、同僚に敬語を話すとキモがられるというか、ある程度なれなれしく逆にしないと舐められるというか、勘違いされるというか、これが無敵のイケメンとかならどんなムーブでも「きゃーかっこいい」ですべてを受け入れてくれるんだろうけど女性と働くのって難しい。平凡な顔に生まれたことがここにきて障壁になるとは悲しいものだ。しくしく。


 まぁでも男の受付のほうが気軽にこれるっていうんで常連の冒険者パーティーもついてきてちょっとうれしいこともあったりする。


 「忙しそうだなソソリ」

 「はいこれ山ウサギの血抜きしたやつ、今日は5羽だね」


 ポポとタツも僕の受付の常連だ。


 初心者でも安全かつ効率よく稼げるクエストを調べて斡旋している。


 近場の山にウサギが巣にしている場所があり、みんながいくと淘汰されてしまうが1パーティーだけいくとちょうどよく効率的に儲かる場所がある。


 この王都のAランクパーティーが最初のころにやっていた金策の資料を見つけて紹介したのだ。


 だいたい1羽2000~3000ボッキ。血抜きも教えてあるので品質もいいので2500ボッキは査定が確実である。


 二人で大体毎日1万5千ボッキ程度稼いで宿に1万ボッキ使って5千ボッキで食費や装備、雑費を整える生活だ。


 二人には一か月外に出るクエストを待ってもらって装備を僕が5万ボッキづつ用意するまで待ってもらってクエストを受けてもらった。


 そのおかげでたまにゴブリンがでるが無傷で毎日クエストを遂行して帰ってきてくれている。


 「お、今日は大ぶりなウサギだね。きっと査定高いなこれ。」

 「『集中』がすごいんだよ。一撃であの早いウサギに石を投げて当てれちゃうからな」

 「いやいや、ゴブリンが出てきたときいつも僕より倒す数が多い安定感でいったら『剣士』もすごいよ」


 タツが褒めてポポも褒める。二人は良きライバルであり良き友のようでなによりだ。

 

 「そういや、護衛依頼で犯罪奴隷を運ぶのが増えてるらしい」

 「ほう、それってつまりは……祭りかい?」

 「あぁ、俺たちの仕事先が増えるもんでありがたいが裏が取れればなにか生かせそう?」

 「あぁもちろん、王族の催しなんて言ったら一番儲かる話だからね。ありがとう」


 僕はすぐにギルドの裏口に出ると「いるか?」と問いかけると「ここに」と子供が現れる。


 「犯罪奴隷が王都から連れ出されているらしい。鉱山送りか、王都に他国の王族でも来るのかもしれない。調べてくれ」

 「わかりました」


 10000ボッキを小銭で渡すと子どもは駆け出していった。


 僕の周りで待機してる子供たちは連絡役兼指示役であの10000ボッキを使って様々に子供に指示を出していく。その裁量はもうすでに子供達に任せていてポジションごとに子供たち自身で後継や教育を任せている。


 基本的な諜報組織の仕組み、手法は全員で一度共有し、そこから自助によってできるだけ動く形にした。


 「いずれ僕はニートになるからね」


 僕は2代目に誰を据えるのかを思案するのだった。





* 閑話 高速思考のペチャパ



 王都の酒場、床下に下水道からつながる子供しか入れない空洞がある。


 そこにペンと紙を握る子供が常に一人、二人、時には集団で存在して耳を澄ませていた。


 「なんだかきなくせぇ、数年かけて武具の発注が増えてると思ったらここにきて獣人連合国の王族がうちにおいでなすった。いったいなんの話だろうなぁ」

 「戦争だろう。聞いたんだがな連合国の獣人たちが帝国の獣人奴隷の扱いを見てキレたらしい。その中にはもともと獣王の家系で政争の冤罪で追い出された獣人がいたんだと。それがやばかった。もともと支持していた獣人たちもいたわけでその元親分が悪く扱われてるときいてそのほかの獣人奴隷も含めて助けるんだって躍起になってら」

 「帝国と獣人連合国か……うちに協力の要請かね……、うちは戦争する理由がないよな」

 「長期戦になるからね、その間人族の国として中立でいてくれるか程度の確認じゃないかねぇ?あぁ見られるとまずいからうちの国の犯罪奴隷もなんだか隠してるらしい」

 「そうか、まぁ俺らは上の指示に従うだけだな……」


 ……紙に走り書きした内容を子供はもう一人の子供に手渡しその子供は走り出した。


 そして孤児院についたそこには各縄張りから集められる情報を精査して真偽を確かめる役割『思考加速』を持つ少年に手渡された。


 「ふむ、各縄張りから集められた情報とも整合性が取れますね。獣王国と帝国の戦争は確実でしょう。これを新興商会のテンゲ商会に流して一儲けと行きましょう」


 少年の名前はペチャパ、ボスであるソソリが組織の仕組みを作り、報酬の流れを作ってあとは各自の裁量で動く中今はこの少年が中心となってこの組織は回っていた。


 以前自殺をしようとしていた商会長を助けた折に子供達は一斉就職をしていた。


 商才は確かで誠実な恋を実らせてる彼の職場に15人の丁稚としてこどもたちがすでに働いている。


 そこを通して情報を彼にあげて動いてもらう。


 情報を元に稼いでもらってその潤った資金でさらに僕らを雇ってもらう。ソソリが起点となった勉強会もあり孤児院の近年の人材は教養があるということで彼は重宝してくれた。

 なにより、恋仲の二人を近づけてくれた見覚えのある子供達が面接にきていると気づいて何も言わず便宜を図ってくれているのである。自殺を止めてくれたのも孤児院の子供達だと彼は気づいている。


 

「さて、ようやく我々の悲願である新聞社を立ち上げる時が来たのかもしれません。王都すべての孤児院を支配下に置きましょう。ソソリさんや先に働いている先輩方からの資金調達を「穏便」にお願いしてください」


 ペチャパの周囲で判断を仰いでいた子供達は一斉に散っていく。


 今この孤児院に属する子供達は卒業生も含めて仕事情報の提供や世の中の情報、出世に役立ちそうな情報、技術を提供する代わりに孤児院に金を集めている状況であった。あとは見合いというか、街で偶然出会った人と恋仲になるように演出してあげたり卒業生が家庭を持つ手伝いなんかもしている。一人それぞれ3000ボッキから10000ボッキくらい任意の毎月の徴収だがソソリにいたっては給与も『お小遣い』のスキルででるお金もすべてこの組織に渡していた。自分で稼いだお金であっても使うことによって『お小遣い』スキルが伸びるかもしれないからだ。


およそそれで集まるのは毎月40万ボッキ程度


 

これで王都全部の孤児院を釣るには足りない。しかし後払いを匂わせてでも子供達を教育し、手足として動かさなければならない。


少しづつ、使える子どもを増やして優良な仕事に斡旋し、収入を増やして影響力を広げていく。


テンゲ商会にて丁稚として働く先輩方に新聞社を任せてもらえるように情報を練り上げるペチャパなのであった。





*



 「ふむ……結局、戦争か」

 「えぇそうみたいです!」


僕は制服の洗濯を孤児院の子供にお願いして毎日1000ボッチを支払っている。今は今日の当番の子供が集めた情報を手に冒険者ギルドの寮に洗濯や1時間程度の家事に来ていた。

衣食住は冒険者ギルドの福利厚生で整うので生活の質をあげるには家事を手伝ってもらうのがありがたかった。


 「ペチャパくんがこれを商機として新聞社の資金にしたいって言ってました」

 「そっか~ペチャパが……『高速思考』だともう見えてきてるんだなぁ……」


もっと先だと思っていたけれど組織として永続的な資金源が見つかって何よりだなぁなんて考えていると。


 「ボスもお見合いなんてしたらどうですか??私たちがんばりますよ?」

 「……え??」


 部下から今後の人生について心配されているようだ。僕のスキルは『お小遣い』この能力で生きるには独身が都合いいのだけれどそれを説明するのもなんか9歳の女の子相手に違う気もするし、まぁ機会があればねなんて話を変えることしかできなかった。


 「はい、今日の1000ボッキ。あ、スキル上がった」

 「まぁ、おめでとうございます」

 「うん、ありがとうね」

 

 『お小遣い』のスキルが一日5000ボッキになった。いよいよお給料より『お小遣い』スキルのほうが多くなってしまった。


 ここらで全権をペチャパに渡してみようか……。僕は女の子を孤児院に送るついでにペチャパに会いに行く。


 孤児院につくと一番奥で机に張り付いて書類仕事をし続けるペチャパがいた。


 「やぁペチャパ。僕は引退しようと思う。今後の運営の全権を君に任せたいとおもうんだがどうだろう?」


 『高速思考』を持つはずのペチャパが固まってしまった。そんなに変なことを言っただろうか。

 

 「そんな、まだ新聞社もまだ立ち上げてないですし、給与全額預けてくれてるソソリさんがいなくなったら今動いてる組織の報酬が回らなくなってしまいます!」

 「あぁ、まだ2年は冒険者ギルドで働くつもりだからそれ以内で資金源を確保してくれればいいよ。僕はそのあと旅人にでもなろうかと思ってね」

 「そんな!ソソリさんは戦う素養がなかったはず!護衛は、まさかポポさんとタツさんですか?二人はついて行ってくれるのですか?」

 「これから話すつもりだけどね、まぁ二人とも騎士になるだろう。僕は僕なりにやってみようかと思うんだ」

 「そんな、孤児院の環境が良くなったのはソソリさんのおかげです!今後数年で今度はこちらからお支払いできるものもあるかと思います。王都でゆっくり人生を過ごされるのもいいのではないですか?」

 「スキルがあるからねぇ、僕の人生はもうお金には困らないと思うんだ。この影響力を持って君たちが自立してくれたらそれで満足だよ僕は」


 ペチャパはそこから黙ってしまったが「わかりました。影ながらその人生を応援させていただきます」と言って頭を下げてくれた。


 子供なのに『高速思考』があると大人になっちゃうんだなぁなんて思いながら僕は立ち去った。


 

 後日ポポとタツにも組織の代表としては引退してあと2年冒険者ギルドを勤めたら独り立ちすることを伝えた。

 二人はついていくと言い出したが二人が王宮や軍に影響力を持つことで子供達の役にたつこともあるだろうと答えた、特に仕官学校に入ることができればエリートコース、権力に触れられる。


 二人にもあとは後輩のこと任せたよなんていいながら、僕はそこから2年。王都にある孤児院全体の子供達が日銭を稼げるように仕事を受注してまわる営業をすることにしたのだった。

 




*




 「いえいえ、そこは子どもですからもっと単純なものでないといけません」

 「いえいえ、私が子供のころにはもうすでにお手伝いとしてやっていました。この程度できないで仕事は発注できません」


 僕は14歳になり、いま王都にある薬屋にて営業スマイルで土下座しながら顔だけあげて仕事をもらおうと踏ん張っている。


 薬屋に仕事は無いかと問い合わせたところ安価な毒草を大量に発注してそこから検品して状態のいいものだけを選別して抽出することによってポーションが作れるのでその検品なら子供たちでもできるだろうと言ってきた。


 ただし、毒草である。まんがいち子供達の発育に影響がでないかと渋ってると「扱い方さえ間違えなければ体内に入ることはありません!」と「過保護すぎます!」と言われた。


 いや~、過保護と言われると困ったもんだが子供達にはもっと安全な形で働いて欲しいものだなぁと思ってると


 「孤児院に仕事を斡旋するのは私も良いことだと思います。しかしこちらも商売なのです。慈善事業はできません」


 そういわれると困ったなぁと思いながら、それでも報酬は最大限一日一人1000ボッキ実働1~2時間程度時給で言えば大人と変わらない報酬。その代わり短時間で毒草という懸念もある。


 孤児たちの空腹を満たすためには十分な報酬、仕方ないかと毒草を数枚拝借してギルドに持って帰った。


 「どう思います?」

 「いや、受けたほうがいいだろう。この毒草は食ったりでもしない限り安全だ。遊びや度胸試しでかじったりしない限り平気だろう。ちゃんと報酬もしっかり支払えるいい仕事を発注してくれてると思うよ?」


 ギルドマスターに相談するとその毒草について知っていてそこまで危険ではないとのことでこの仕事をギルドから子供達に斡旋することにした。


 なんでも世間では街を管理する役人が着服をして孤児院を含む福祉行政への予算が減らされているという噂で持ち切りでそれに思うところがある経営者、商人たちがこぞって社会貢献にと孤児や浮浪者に仕事をギルドを通して斡旋するようになっていた。


 この情報について孤児院で調べてもらったがまぁそんな話ばかりですねなんて返されて子供たちはあまり教えてくれなかった。


 引退したらもうこの扱いである。世知辛い!!


 しかもなんでも教会にお祈りする人も増えたとかで、善行を積むとかならず良いことが起きるとか、不思議な体験をしたとか言う人が増えて王都中で善人ムーブが流行り?となっていた。


 いやぁ~……孤児たちも自分たちの仕事増やすためとはいえ世論を動かすまでに組織を動かせるようになったかとしみじみ思う。


 明らかに子供達の仕業だろう。


 この一年で孤児院から卒業する子供達も増え、彼らの就職先を斡旋した組織はまた資金を調達する資金源を得た。

 そしてテンゲ商会が戦争をきっかけに儲けを出してついに新聞社を立ち上げた。

 

 その代表になぜかまだ11歳のペチャパ君が着任し各孤児院から数十人単位で雇用を行っている。


 もちろん僕もその新聞を購読しているが、ここ1年で着服の形跡があると書いてあり、逆にこれは着服にこの一年で誘導させて既成事実を作ったのを見張ってたうえで告発したのではないかとも考えられる。


 いや~恐ろしい。自分たちのために一人の官僚を犯罪者にしてそれを正義の立場で断罪しスクープにして世論を獲得し購読者まで増やす。


 ファンゼ新聞社は新興でありながら王都の筆頭新聞社まで追い上げてる状況だった。


 僕が引退してから2年という約束だったが1年でもう資金源を確保したペチャパ君の手腕は見事である。


 そんな風に思っていると孤児院から子供たちが花束を持って寮に訪れた。


 「ボス!今までありがとうございました!運営が軌道に乗りましたのでボスからの資金提供は今日までで大丈夫です!僕らを育ててくれてありがとうございました!」


 花束を受け取ると子供たちは去っていった。


 僕はいま毎日1万ボッキ『お小遣い』スキルで資金を調達できるようになっていた。これだけあれば毎日それなりの宿に泊まってもお釣りがくる。


 そうか、子供たちも巣立って僕も独り立ちの時期かと考えさせられる。


 さて、じゃぁ仕事を辞めてどこへ行こうか……僕は辞表届を書いて明日に備えるのだった。




*



「辞表だと?!正規雇用するつもりだったんだがな?!」


 翌日辞表届を出した僕にギルドマスターは止めようとしてくれた。各ギルドで推薦して入る冒険者ギルドの運営に纏わる学校にも推薦したいとも言われたが僕は断ることにした。


 だってその資金を提供してくれるスポンサーがテンゲ商会っていうね。子供たちは僕の将来についてお膳立てをしてくれているようだった。


 なんていい子たちなんだろうと思いつつ僕は即日で辞めて寮を引き払って宿に移った。


 いや~、外で外食なんて初めてだからウキウキしてると若いカップルが横に座って「この店はボアのステーキが一番おいしいんだ」なんて僕に聞こえるように教えてくれる。


 どうやらペチャパ君の「陰ながら応援させていただきます」とは諜報組織の活動の一環として僕の人生をまさに応援してくれる形らしい。これは王都を出ないと彼らに迷惑をかけ続けちゃうなぁ。


 なんて思っているとボアのステーキが運ばれてきた。ギルドのまかないはバランスはいいけれど肉は少なかったのでかぶりつくように食べて食べ応えは抜群だった。周りの食事をみてもこれが当たりなのはわかった。




 宿に戻って自分のスキルについて考える。このスキルはどこまで『お小遣い』が増えるのだろうか。


 5000ボッキを宿代に使って3000ボッキを食費に使って、2000ボッキが毎日の遊ぶお金だったり細々として衣服を買ったりしている。余ったお金は夕方に最後教会のお賽銭箱に全部突っ込んでしまうようにするようにしていた。

 しかしこれを日々繰り返してるとまたお金が増えるのかもしれないし、毎日1万ボッキだけでも普通に働いてる人よりももらっていたりするのだけども、僕は疑問を解決するために翌日図書館へ向かうとこにした。

 

 王都最大の図書館に着いて入館料を1000ボッキ払うとまず思ったのはどこから手をつければいいのやらという歴史書の山だった。


 僕が知りたいのは歴代各国の王族のお小遣い。もしかすると僕の『お小遣い』の上限はこの世界で行われてきたお小遣いの上限が当てはまるのではないかという仮説からだった。


 さて、どうしようと思っているとふわりと香水の匂いが鼻をくすぐる。横をみると司書のような人が通り過ぎて歩いて行った。


 僕は「優秀だなぁ」と思いながらそのあとをついていく。すると今度は初老の男性が同じ香水の匂いをさせて僕の前を歩いていく。僕はそれを黙ってついていくだけだ。おじさんが途中で本を手に取るとこんどは上品そうな子供が香水の匂いを振りまいてこちらをちらっと見てきた。僕はその子についていきその子が本を手に取った場所を調べてみると昔の王族をたとえ話にした絵本が棚に陳列されていた。


 諜報機関でやり取りをするための一つである香水を使った味方への道の誘導の仕方。本人たちは指示通りに動いてるだけで導いてる自覚はない。一連の行動に関係性を見出されると足がつくのでこの流れの中でこの誘導を理解してるのは僕を見てきたこの少女だけだろう。あとは香水をつけてもらい特定の条件になったら指示通り動いてね程度の意図がわからない内容のはずだ。


 組織はしっかり使いこなしてるようで卒業した僕としては誇らしい限りだと満足する。


 さて、絵本だが金のネックレス、金のブレスレット、ていうか、全身金色で装飾してる王様が描かれてる絵本がもう目の前にあった。


 僕が探してるのはこれだろうって?


 正解だよ優秀だなぁペチャパ君たちは……。


 なんて思いながら手に取ると、わかったことは少なくとも関連書籍も調べてもと少なくても1.5億ボッキ。日本だと1.5億円程度毎月お小遣いをもらってる王族がこの世界で存在した。大昔に巨大な火山の噴火でその土石流で山ができたとき、そこに生き埋めになった魔物たちでできた魔石の鉱山があったらしい。その資源を活用してその王国は死ぬほど儲かっていたそうだ。まぁ、勘定がバグったせいで資源の枯渇に伴い繁栄は一時のものだったらしいが。


 もし『お小遣い』の基準がこれまでの歴史だとすれば僕の能力は王国経済をバグらせるほど影響力を持つようになるかもしれない。


 いつかどこかで線引きが必要な能力のようだ。


 さて、どう使っていこうか……。


 なんて考えながら図書館を練り歩いて僕は……ふと手に取った小説達にハマってしまったのだった。




*



 僕は15歳になった。僕はあれから図書館にハマってしまって宿と往復して過ごしてたら普通に1年という時間が経ってしまっていた。すごい健康的なニートの爆誕である。

 

 『お小遣い』はいま毎日5万ボッキ手に入るようになっていた。

 

 いや~びっくりしたよね。1万ボッキの次は5万ボッキでした。


 がちでお小遣いの上限1.5億ボッキかもしれない。

 

 これはヤバイ。

 

 治安の良い王都を出るのは止めることにした。

 

 この能力がバレたら捕まえられて一生お金生み出すマシーンにされちゃう。

 

 僕はスキル的に貯金ができない性質上仕方なく賃貸じゃなくて高級宿に連泊している。

 

 洗濯もしてくれるし、浴槽もあるし不満はない。


 この1年宿のフロントに仕入れられるファンゼ新聞は毎日目を通していたけれどなかなか子供達は手広くやっているらしい。

 

 ブラック企業である工房でしごかれた丁稚たちに出資して雇用環境を整えたうえで孤児院から適正のある人材を投入して土台ができたら新聞で広告をだして王都中の商店、工房を裏から掌握してる最中に見える。


 子供達の諜報力で人間性もたしかな丁稚たちが選ばれており技術よりも人間性を重視したリーダーの選抜を行っているようだ。


 それ以外は王城への活動を広げていると見える。


 フェンゼ新聞社が独占して王宮からの情報を発表している。これだけで商人たちはファンゼ新聞社は必読の対象となっているだろう。


 そんな子供達だが僕が図書館と宿を往復してるだけともあり近頃は何もしてこなくなっていた。まぁいつまでも付き合ってられんだろうしね。それでいいんだけども。


 と、考えていると宿に王宮からの使いが現れやがった。


 なんの用かと若干びくついていると初老のおじいさんが出てきて「ローテー侯爵と申す。内密の話ゆえ来てほしい」とのことだった。


 なんのことだろう?ここ1年おとなしいもんだと思ったんだがなぁ。


 連れられてきた王宮の一角にはちょこんと座る身長130cmくらいの豪華な服を着たおじさんがいた。ていうか多分王様だろうな。なんて思いながら「こんにちわ」と言ってみる。


 周囲の人間達は無言だ。ちょっと間をおいて「こちらがソソリ様です」とローテー侯爵が紹介してくれる。そしてやっぱりこの人この国の王様だった。


 「ソソリよ、そなたは何を望んで居る?」


 「は?」


 急に連れてこられて何を望んでるか、まっすぐな瞳で僕を見つめる王様に僕も澄んだ瞳を向けて答えた。


 「ニートになりとうございます」


 「……は?」


 お互い同じ反応だ。悪くない。


 「ニートとは……、魔王か何かか?」


 「いえ、働かず、動かず、人生を謳歌する心美しい優しくある人間のことを指す言葉でございます陛下」


 「ふむ……そうか……」


 「バイブー陛下、おそらく当人なぜ連れられてきたのか理解してないようでございます」

 

 「おぉそうか……実はな、毎月のように王国の領内における汚職事件をファンゼ新聞社が内密に密告してくれるのだ……それでな……穏便すぎて事を収めようとすると彼らは酷評してその汚職を一面の記事にして王宮の対応に対して尻を叩くような事をするようになったのだ。もう王宮は手が回らなくなってな、新たに文官を雇おうとしたらなんか変な奴らばかり集まるようになってだな、まともそうなのもいるなと採用してみるとほとんどが孤児院生まれの、そう、そなたら達の息のかかった者たちばかりが採用されてしまっておるのじゃ……」


 「……なるほど」


 僕は無関係です!!っとまず先に答えた。


 王宮もこの事態を重く受け止め孤児院出身の文官達を絞ってみた。しかしみな口が堅く、堅いどころか孤児院で紹介されたから応募したのであって何かの組織には属したことがないと言って本当に自覚がないようであったという。


 僕はふむとうなづき、組織としてうまく自覚ないまま動かしてる人材も集めてて諜報組織として一人前だなぁと思って関心していた。


 この場合親や婚姻者、または子供など身近な人を使って諜報をされていて属しているつもりでなくても重要な情報を組織に提供している形になる。


 「で、陛下は私を呼び出してどうしたいということですか?」


 「即刻止めさせてほしい……そなたが創始者なのであろう?」

 

 「……いえ、私はただの孤児院出身の一人の平民でございます」


 あ、なるほど、と。最近子供達が僕に近づいてこなくなったのはこれを気取られないためだったのかと僕は納得した。


 さてどうしたもんかと思っていると陛下がなにやら物騒なことを言い始めた。


 このまま幽閉して人質にしてもいいのだぞと。


 いや~それは困るって思ってると陛下は急におびえだした。


 「ローテー侯爵……そなたまさか……」


 「この方に害を及ぼすとなるとわが家と王家は対立することとなります」


 ローテー侯爵がものすごい顔してバイブー陛下睨んでた。


 うぁお、もう王宮に手を仕込んでるからこそ創設者と王家の顔合わせを演出したって感じだろうか。


 まさかのローテー侯爵味方だった。


 いや~それにしても、この状況で王家はもう力を失っている状態なのかもしれない。


 近衛も動く気配がない。いったいどういう根回しなんだろう……僕の知ってる諜報組織をいよいよ超えてきたのか……。


 「陛下、ちなみに私何も知らないのは本当なんですけど王家を譲るように強請られてるとかそういうことですか?」


 「いや、そんなことはないのだが。実はな……王家の暗部が取り込まれたようなのだ…。こんな美しい諜報組織は見たことがないしそれを作り上げたのが子供だというのが信じられんと正義は子供達にあるとまで言われてな…」


 現在、この王国はペチャパを筆頭にして王家ではなく子供達によって支配されているらしい。


 王宮の暗部もすぐさま根絶を図ろうとしたが逆に先読みされてこの組織がなんたるかを、街の行く人々が仕事と生活を両立し、仕事を斡旋してもらい、出会いまでも組織が囲うことで人生を謳歌している姿を見て協力的になってしまったという。


 孤児や浮浪者をはじめとして国がすべき富の再分配を情報を武器にして子供達が弱者を救済しそれぞれの人生に火を灯した。


 その事実が王家の表も裏も見てきた彼らが認めてしまった。そして今の王家は圧政こそしないが何もせず、国民自ら生きようともがく火をただ奪って寄生しているだけに見えるといわれたという。


 「このままでは王家はもうおしまいじゃ……」


 「ふむ、であるならば今ある資産を価値を担保できる商品に変えて民主主義国家、立憲民主国家として生まれ変わらせて王家は資産を活用して不労所得として正々堂々寄生虫をされたらば良いですね」


 「み、民主主義国家じゃと……」


 「ローテー侯爵、法の改正に伴い元いた貴族や王家の資産をある程度保証できるように動けますか?」


 「こちらに民主主義国家に向けた草案がございます。陛下、ご一読ください」


 なんだ、最初からこの流れか。前いた地球と同じ流れだなと思った。


 王家の怠慢、それを暗部や平民自らが改革し王家の必要性を必然とはく奪する。


 それが民主主義が生まれる、または諜報史における根本の姿だ。


 「陛下、ちなみに僕、これを承諾しない場合の彼らの行動なんてまったくわからないので前向きに検討してくださいね?また呼ばれても僕困りますからね??知らないですもん本気で、草」


 それだけ言い残して僕は王宮から宿に帰ったのだった。




*




 あれからファンゼ新聞は民主主義国家に向けて選挙の案内といった記事を立て続けに公表した。


 王宮はもとより地方貴族も何事かと一時混沌とした世界になった。


 貴族、王家は企業、商会、工房、といった経済活動をする触媒もしくは賃貸契約を主とする不動産といった形であれば三代に渡って資産を保証し、それ以降は相続税を課すとの告知のもと王国はバブルともいえる好景気に見舞われるのだった。


 貴族たちは貯めこんだ資産で賃貸住宅を建設し自らの不動産として資産を確保するために建材が高騰し、知恵ある貴族は株式として出資を行ったり自ら商いを起こす者たちも現れ一機に国内のお金が動き出したのだった。


 僕はそんな世界を横目に小説を読みながら今日もニートを謳歌する。


 って、思ってたら客が来たそれはとても久しぶりででもなんか申し訳なさそうな顔をしてるペチャパだった。


 「どうしたんだい図書館まで、忙しそうにしてるね」


 僕から声をかけるとペチャパは少し息を吐いて「力を貸してほしいのです」なんて言ってくる。


 いったいなんだろう…?


 ついていくと新聞社の地下には真っ白に塗られた床、壁、天井で秘密基地になっていた。


 「ここで情報を精査、立案をしてるんだ。どうでしょう、ソソリ先輩も驚く形になってきてますかね?」


 ペチャパはちょっと自慢気にでもどこか元気なく教えてくれる。


 ふむ、新聞社の地下というのは安直すぎてもっと禁則地とか隠れ蓑になるような場所じゃないと今後はダメかもねとも言いつつ僕は秘密基地はやっぱかっこいいと褒めておいた。


 「で、なにがあったんだい?」


 「それが、民主主義国家になろうとするのを帝国が好機と判断して攻める準備をしてるみたいなんだ」


 「それはすぐなのかい?」


 「ううん、今から準備をはじめて数年後って話だよ」


 「そんな初期段階の構想を掴んだのか、すごいね」


 「だから逆に攻めて帝国を併合して大陸で一番の民主主義国家を樹立させようと思って、その攻め手にソソリ先輩の『お小遣い』スキルを使いたいんだ、帝国の通貨もだせたりしない?」


  ーーチャリン

 

 「……出せたね」


 「よかった!今日からソソリ先輩は民主主義を樹立させるための砲弾ね!」


 「まじかぁ~」


 ペチャパは最初情報戦で周辺国に誤情報を掴ませて帝国対周辺国の連合で囲むように戦線を展開することを計画していたらしい。しかしテンゲ商会がその物流を担うには遠方すぎる土地もあったり、円滑に戦争を運ぶには障害も多いという話になり、別の案になった。その結果僕の『お小遣い』スキルによる経済戦争(圧)という案が浮かび上がった。


 使うのはスキル倍化の腕輪を両腕に、スキル倍化のネックレス、スキル倍化の指輪を10個。


 消耗品といはいえダンジョン産の高価なものをありったけ集めたらしい。


 ざっと現状で一日4億パックリの帝国通貨を発行できてしまう。日本円で2億くらいだ


 そして僕はスキルを使うたびにスキルが上がる感覚が襲われるのだった。


 一日一回、そして倍化のアクセサリーは一回、もしくは数回使うと壊れてしまうのだがそれを加味しても日々算出する通貨の発行量が増えてトラック一台分の白銀貨を生成できるまで伸びてしまった。


 ペチャパは想像以上の破壊力に「もう大丈夫、ありがとう」なんて言ってざっと数十兆円ぶんの帝国通貨を元手に今王国で高騰してる建材と食料。優秀な移民を募って帝国の弱体化を図って動き出したのだった。


 テンゲ商会の流通網を基盤に周辺国にも帝国通貨をばら撒き、周辺国も帝国から資源を買いあさる。


 一時は帝国は好景気に見舞われるが次第に食うための小麦や芋までもがいくら金を積んでも買えない状況になった。


 帝国の貴族たちは好景気とため込んだ通貨がゴミになっていると気づいたときにはもう遅く、農民たちから作物を接収しようとするがそれは農民たちが冬を越すための貯蓄であり納税のために売られ流れた市場の作物はすべて王国を含めた周辺国に買いあさられた後だった。

 

 それでも帝国内では無理やり接収して冬を過ごそうとした貴族、耐えようと切り詰めるしかなくなった貴族。いずれであっても軍の維持もままならず軍や農民が反旗を翻し、規律を無視した通貨発行による弊害だと帝国を、官僚を、中央銀行を断罪し帝国はクーデターによって民主主義国家へと変わることになった。その時に王国通貨を代替通貨として民衆が使い始めたこともあって別国家でありながら王国に倣った民主主義による法治国家となった。


 


*



 僕は18歳になった。ちょっとした戦争のお手伝いをしたら『お小遣い』スキルが爆上がりしてしまって今では毎日500万ボッキまで生成できるようになってしまったよ。


 そう、歴史上のお小遣いの例にあった毎月1.5億円だ。


 これが上限なんだろうか。とりあえずもう使い切ることもなく節度を持って生きている。


 王国で一番のホテルには泊まるし、一番高いコース料理を毎晩食べたりはするけども、それでも経済を狂わすような真似はしていない。


 僕は節度を持って生きている。いや~充実したニートライフだ。


 そんな僕はファンゼ新聞を優雅に眺めてコーヒーを噴き出して目を見開いた。


 「ウンココイン、帝国で起きた信用不安を未然に防ぐ安全資産!ステーブルコイン」


 僕は朝市で新聞社に乗り込んでいくのだった。


 「おい、ペチャパ!このウンココインってなんだ!」


 涼しい顔で書類にペンを走らせながらペチャパはにっこり笑いながら教えてくれた


 「なんでも北国で提唱した人がいるとかで学会でも有効な手立てと話題になり今後流通するだろうといわれてる通貨システムらしいです」


 いやまてまて、この世界にブロックチェーンなんてないしどうやって通信技術の乏しい世界で通貨価値を正確に測ろうとするというのか、絶対!!詐欺だ!!


 「いや、ペチャパこれは俺を信用してくれ、断言する。これは詐欺だ!」

 

 「そうなんですか?私も詳しくは調べてないのですが、著名な方々がお墨付きとのことでしたので記事にしたのですが」


 「……その名だたる連名の人達が金銭を受け取る契約もしくはすでに受け取ってるか調べれるか?」


 「……できますが……まさか??」


 「学者なんて、大した研究費ももらえずひもじい思いしてるやつも多いだろう魔が差すこともあり得ない話じゃない」


 翌日、ファンゼ新聞は大陸全土にウンココインが眉唾であり関係者は全員共犯で詐欺により資金を調達をしてとんずらをする計画があったと発表した。


 各国からステーブルコインと称して品質の低い硬貨と交換して流通が上手くいけば儲けもの、基本は交換した各国の通貨を持ってとんずらする予定だという記事だ。安全資産などほど遠い。


 「先輩。詐欺の片棒を担ぐところでした。こんな適当で杜撰すぎる詐欺に乗っかる学者がいるなんて……。ありがとうございます」


 「いや、なんか人間何故か信じてしまう魔力を持った嘘っていうのに脅かされるもんなのさ。結局、蓄財したってもしかしたら奪われるかもしれないし、騙されるかもしれない。何が起こるかわからない。であるならば一定の預金や投資こそすれど人生を楽しむ分のお金っていうのはちゃんと毎月活動費として使うべきだと思うんだ。安全資産なんてその先に考えることだ。僕はそれで一度失敗したことがあってね。『お小遣い』っていうスキルはそう考えると僕にとったら救いのあるスキルなのかもしれないな毎月使い切らないといけないって状態だったからね」


 「先輩そんな失敗してましたっけ?」


 前世の話だけどもまぁ言ってもしょうがないなと話しを変えた。


 「結局このウンココインの発案者ってどういうやつなんだ?名前は?」


 「ション・ローという今まで無名だった北国の学生だとか、すごい弁舌の上手い青年ですでに北国ではステーブルコインの造幣局を出資を受けて開設していて今回の騒動で流通しなくなったこの造幣局の負債をどうするか争ってるそうです」


 ……まさか前世で騙してきたやつまで転生してきてるとかなんて世界だ!いや、ウンココインに巻き込まれた哀れな転生者Bの可能性もある……被害者なのか、加害者なのか見極めなければいけない。


 「引き続き続報楽しみにしてるよ」


 *



 僕はファンゼ新聞社の応接室で、ペチャパが集めた資料の山と向き合っていた。

 

 北国の新興企業、その代表であるション・ロー。彼の経歴はあまりに不自然だった。

 

 貧民街の出身でありながら、突如として高度な金融知識をひけらかし、言葉巧みに貴族や商人を取り込んでいく手腕。そして「ウンココイン」という、前世の僕を地獄に叩き落とした悪夢と同じネーミングセンス。


 「ペチャパ、この男の動向は?」

 「はい、先輩。我々の新聞記事によって『ウンココイン』の信用は失墜しました。帝国の市場からは締め出され、資金繰りに詰まっているはずですが……どうやら、起死回生の一手を打つために、この王都へ向かっているようです」


 王都へ?


 僕は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 奴が来る。僕の前世を終わらせたあの絶望が、形を持ってやってくる。


 「目的はなんだ?」

 「『新規魔導鉱脈の開発プロジェクト』への出資募集だそうです。なんでも、北の未開の地に巨大な魔石の鉱脈を発見したとか。その開発資金を一口100万ボッキで募り、半年後には倍にして返すという触れ込みで」


 僕は天を仰いだ。


 ポンジ・スキームだ。


 典型的な投資詐欺。鉱山なんて存在しないか、あってもクズ石が出る程度の穴だろう。


 先行して出資した人間には、後から出資した人間の金を「配当」として渡し、信用させたところで巨額の資金を集め、ドロンする。


 前世で何度もニュースで見た手口だ。


 「……鉱山の裏取りは?」

 「現地に『耳』を飛ばしていますが、深い霧と魔物の巣窟で正確な位置は不明です。ただ、ション・ローは『幻影魔法』の使い手を多数雇っているという情報があります」

 「なるほどね。ないものをあるように見せるわけだ」


 僕は決断した。


 この男だけは許しておけない。


 僕の安寧なるニート生活のためではない。これは、前世の僕という敗北者への、せめてもの弔いだ。


 「ペチャパ、全面戦争だ。新聞社、商会、孤児院ネットワーク、すべてを使え。奴が王都で一ボッキたりとも騙し取れないようにする」

 「御意。……ついにボスが本気を出されるのですね。この国の経済の守護神として」


 違う、私怨だ。


 だが、訂正している暇はない。



*



ション・ローが王都に乗り込んできた際、彼は自らを「北の彗星」と称し、豪華な馬車と幻影魔法で着飾った騎士団を引き連れていた。彼が狙ったのは、王都の富裕層だけではない。手っ取り早く大金を集めるため、将来への不安を抱える中産階級までもターゲットにしたのだ。


僕は新聞社の秘密基地で、ペチャパと共にモニター(魔導通信)を眺めていた。


「ボス、ション・ローが市内の劇場を貸し切り、第一回投資説明会を開催しています。サクラ(偽客)を100人動員し、熱狂を演出しているようです」

「ペチャパ、『耳』たちの配置は?」

「完璧です。会場内のすべてのスタッフ、給仕の子供、さらにはション・ローが泊まっている宿の清掃員まで、すべて我々の組織の人間です」


僕は笑った。ション・ローは、自分が包囲網の中にいることに気づいていない。


「まず、奴が語る『鉱山』の嘘を徹底的に暴く。ポポとタツを呼んでくれ。彼らには『幻影破り』の特訓を積ませたはずだ」


作戦開始:熱狂への冷や水


説明会の最高潮、ション・ローが水晶玉に映し出された「輝く巨大魔石鉱脈」を指し示し、「これこそが人類の未来だ!」と叫んだその時だった。


給仕として潜入していた子供たちが、一斉に特別な香水を会場に撒いた。それは感覚を鋭敏にさせ、魔力回路を一時的に乱す「真実の香り」だ。

さらに、観客席に紛れていたタツが立ち上がり、剣士のスキルによる凄まじい威圧感を放ちながら叫んだ。


「その鉱山、俺たち冒険者ギルドが調査した未踏の死地じゃないか!魔石なんて一欠片も出ない、ただのドブネズミの巣だぞ!」


同時に、ポポが『集中』の極致で放った魔導具が、ション・ローの背後に浮かぶ幻影を貫いた。

キラキラと輝いていた鉱山が、ノイズと共に消え失せ、映し出されたのはただの岩場にペンキを塗っただけの無残な映像だった。


「な、なんだこれは!妨害だ!卑劣なライバル企業の陰謀だ!」


ション・ローが喚き散らすが、時すでに遅し。ファンゼ新聞の号外が、劇場の出口で一斉に配られた。


【緊急速報】ション・ロー、その正体は稀代の詐欺師。北国での負債を踏み倒し、王都を食い物にする計画が露呈!


「さぁ、追い込みだ。ペチャパ、奴の隠し資産をすべて差し押さえろ。名目は『被害者救済のための仮差押え』だ」



*



数日後、ション・ローはすべてを失い、裏路地を逃げ惑っていた。


金も、名声も、協力者もいない。残ったのは、彼が「ウンココイン」と名付けてせせら笑っていた無価値な紙屑だけだ。


逃げ止まった行き止まりの壁。そこには、一人の青年が立っていた。僕だ。


「……誰だ。お前が、あの新聞社の黒幕か?」


ション・ローの顔は、前世で僕からすべてを奪ったあの男の、傲慢な表情そのものだった。

確信した。こいつは、あの時の詐欺グループの主犯だ。


「ション。お前は、自分が騙した連中の顔を覚えているか?」

「は?そんなもん、負け組の面なんていちいち覚えてねぇよ。世の中、騙される方が悪いんだ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中にあった最後の手加減が消えた。


「そうか。なら、お前も『負け組』になるのが正解だな。……この世界には、お前が知らない『搾取』の形があるんだよ」


今回出したのは通貨ではない。


ペチャパの『高速思考』によって編み出された、特殊な「債務契約書」だ。


「お前が北国とこの王都で積み上げた負債、合計で800億ボッキ。それをすべて僕の組織が買い取った。お前にはこれから、その金を完済するまで働いてもらう」


「ふざけるな!そんな大金、一生かかっても返せるわけないだろ!」


「安心しろ。死ぬまで働ける場所を用意してある。お前が『ある』と嘘をついた、あの北の魔石鉱脈だ」


そこは、僕がギルドのコネを使って「強制労働施設」として再生させた場所だ。


幻影ではなく、本物のつるはしを振るい、地道に岩を砕く日々。詐欺で稼ぐ才能など一ミリも発揮できない、筋肉と汗だけの世界。


「さようなら、ション・ロー。前世の僕の分まで、せいぜい地道に生きてくれ」


*



事件は解決した。


ション・ローは厳重な監視のもと、北の極寒の地で毎日規則正しい(過酷な)労働に従事している。


おかげで、彼がでっち上げた「魔石鉱脈」からは、副産物として質の低い建築用石材が大量に採れるようになり、王国の住宅事情がさらに改善されるという皮肉な結果になった。


僕は、王都で一番高いホテルの最上階で、ふかふかのソファに身を沈めていた。


「ボス、いや、ソソリさん。今回の件で、王都の投資家たちは皆、実体経済の大切さを学びました。そして、70歳定年制の国民皆保険制度の財源も、差し押さえたションの資産で完全に整いましたよ」


ペチャパが、お茶を淹れながら報告してくる。


18歳になった僕の『お小遣い』は、今や安定して毎日500万ボッキ。


もはや一生遊んで暮らせるどころか、小国の一つや二つなら買い取れる額だが、僕はそれを使わない。


「ペチャパ、これからは本当のニートになるからね。もう大きな事件は勘弁だ」

「ふふ、どうでしょう。ボスの周りには、いつも面白いことが集まりますから」


窓の外を見ると、王都の街並みは活気に溢れ、子供たちが元気に走り回っている。


僕が作った諜報組織は、今や「国民の幸福を守る互助組織」として、民主主義の根幹を支えている。


前世でウンココインに泣いた僕は、もういない。


今、僕の手の中にあるのは、毎日決まった時間に空から降ってくる、ささやかで(巨額な)お小遣いと、信頼できる仲間たちとの穏やかな時間だ。


「あぁ、幸せだなぁ……」


僕は、読みかけの小説を顔に乗せ、幸せな昼寝の海へと沈んでいった。


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