第7話 陽キャと陰キャとホーンウルフ
「おーい、こっちこっち!」
八王子ダンジョン1階層。人混みの向こうで手を振る一人の男がいた。
「あっ、昨日の......。よろしくお願いします、宮田誠です!」
「よろしく。如月燈矢だよ」
──なんだこの爽やかさは。
笑顔、清潔感、目力、歯並びまで完璧。まさに“陽の者”。なるほど、どうやら別世界の人間だな。男とは話せたが、教室に女子のみになった瞬間勉強してたチー牛の俺とは全く違うようだ。
ダメだ、これがバレてはいけない。組めなくなる可能性を最小限にするためには、俺も陽キャの皮を被ろう。被り方はわからんけど。
「じゃ、軽く狩りながら行こうか。ちなみに、経験歴は?」
「に......週間......(真実)」
......沈黙。
俺はすべてを悟った。
これ、終わったやつだ。
エリート揃いの天下の冒険者大学生の中からゴミカス初心者を選ぶ奴なんて居るはずがない。同じ価格帯に超優良物件がぞろぞろあるのにわざわざ事故物件を選ばないのと同じだ。
「......まあいいや。とりあえず見てみよう。何事も経験だからね」
えっ、寛容すぎない!?
どうやら相手は実力主義なようだ。よかった......いやちょっと、待て!!
......だったらなおさら無理ゲーだ!!
◆◆◆◆◆
僕、如月燈矢は混乱していた。呆れたとか失望とかじゃない。ただ混乱していた。
経験歴1ヶ月だから受付から剣を借りた──そこまでは想定内。
だが。
(......なんだこの状況)
一匹のスライム相手に、五分以上かかっている。
いや、倒せてないどころか、一度も命中していない。
レンタルナイフは軽量合金製、切れ味良好、小型で初心者向け。
......にも関わらず当たらない。
剣の重心とか面で斬るとかそういう次元ではない。まるで初めて使ったようだ。なんならそこら辺の中学生の方が上手く使える気がする。自宅から持ってきたであろう短剣も同じだ。
その上、背中には弓。初心者に向いてないことで有名な弓を何故背負っている?ネタなのか?流石に初対面でそれをやる勇気はないだろうからそうでは無いはずだ。
(いやいや......ここまでとは.......)
仮説①:初心者ゆえの不慣れ──まあ妥当。一ヶ月なら仕方ない。
仮説②:弓だけは上手い──だけど、背中に背負っているのに一発も撃たないから、その線は無い。とすると、───
仮説③:天才パターン──いや、スライムにすら当たらない天才っているのか?そもそもリーチが全然足りて無いし、武器に合った魔物と戦わないなら、ただの馬鹿だ。けど、馬鹿と天才は紙一重って言うしな......
(......わからん。マジでわからん)
コイツが何者なのか1mmも見当がつかない。
ただ一つ言える。今のままじゃまともに活動どころか、ゴブリンにすら殺される。
それでも──
(......見捨てたくない)
そう思った瞬間、低く唸る声が聞こえた。
「ガルルル......」
茂みの先に現れる、四足の影。尖り切った一本の角。
(ホーンウルフ!? なんでこんなとこに......!)
Eランク帯。その程度になってようやく勝てる相手だ。
あいつには到底無理だ。不可能だ。エリートである冒大の一年でも勝てない奴はごまんといるレベルだ。
「──チッ!」
考える前に、走り出していた。
アイツを守るために。少しでも間にあうように。
◆◆◆◆◆
(......これ詰んだな)
とても軽いナイフに振り回されながらスライムを狩っている俺・宮田誠はそう感じていた。
受付で軽い・長い・鋭い、の売り文句がついた人気No.1のナイフをレンタルしたきたにも関わらず、体力が小学生並みの俺の元ではそこら辺の木の棒と変わらない。
師匠から貸してもらった短剣は鉄パイプと変わらない、というよりかは鉄パイプそのものと化してたから、リーチはあっても使うという選択肢はない。こっちは物理的に振り回されるからな。
それでも、致命傷を与えたのはいくつかあったが、これにおいては何にもならない。
何せスライムだ。一発で殺して当然だ、と言われたからこいつを狩ってるのに、地面を這っているゆえ一匹も倒せない。ただ、それを含めたとしても倒せて当然だと?
この状況を見ろよ!如月さんはすでに困惑してるぜ?俺だって困惑してる───
グサッ
「痛っ!!!」
スライムの逆襲だ。後ろからの奇襲攻撃で、肋骨と肋骨の間を突き破って俺の肝臓がツノに......ツノ!?
そんな訳はない筈だ。スライムにツノなんかあってたまるか! だとすると......
恐る恐る後ろを向くと、そこには狼。しかもツノ付き。
「いってぇぇぇ!何すんだコラ!こっちはスライム相手にすら苦戦してんだぞ!空気読め!」
怒りのままナイフを投擲。勢いをコントロールできなかったが、角を抜いて一撃離脱しようとするホーンウルフに奇跡的に刺さる。
よし、反撃の準備だ。まずはナイフで......あ、、、手元にナイフがない......
「......ナイフ、ないじゃん」
いや、ナイフって投げたら消耗品なの?ゲーム的システム?戻ってくるもんなのはゲームだけか。いや、そんな時用に短剣があるんだ。身体を斬る!───
ガンッ!
胸を斬る前に角が短剣を弾き飛ばす。強く握ってなかったから、いとも容易く、そしてホーンウルフの後ろに飛ばされる。
終わった......取りに行けない......
焦ってポーチを漁る。出てくるのは小腹用のプロテインバー。
「いや、食料はいらねぇぇ!」
グルルと唸る狼。
「待て待て待て!俺まだチュートリアルなんだって!」
つい叫んだが、ホーンウルフに日本語が通じるわけが無い。
所詮、全落ちに言葉の壁は壊せない......学があったところで壊せないことに変わりはないが。
「──っ! もういい、奥の手だ!」
背中の弓を引き抜く。そう、昨日もらったやつ。
……ただし、矢のつがえ方がわからない。
(え?右手?左手? いや逆? おい誰か説明書──!)
狼が飛びかかってくる。
「ぎゃあああああああ!」
肩を角で刺され、その拍子に肝臓の痛みも思い出す。
「ぐはぁっ……俺のレバーが……!」
肩の痛みを紛らわすために、肝臓の痛みを思い出させて紛らわせる。余計に辛くなったが、気の所為だと思うことにしよう。
その瞬間、狼の肩が目に入る。刺さったままのナイフ。視界が暗転しながら、必死に手を伸ばす。
「せいやぁぁぁぁぁぁ!」
肩から引き抜き、狼に振り下ろす。背中に突き立ち、悲鳴とともに一歩退いた。
その隙に、俺は崩れ落ちる。
「ははっ......今の俺、主人公っぽくね......?」
ドヤ顔で気絶しかけた、そのとき。
「おい!助けに行くぞ!」
100m先から如月さんがダッシュしてきた。
(遅い! いや、間に合ってよかったけど!)
次の瞬間、腕に何かが走る感覚がした。未知の感覚だから何かは分からない。力?エネルギー? よくわからないけど、確かに“何か”が目覚めた。
弓に手が伸びる。矢をつがえ、引く。その瞬間──
ギュンッ!
バチバチッ!
雷光を帯びた矢が狼を貫き、ドサッと倒れた。
静まり返る空気の中、俺は呟く。
「......これが......俺の魔法......?」
初めての“魔法”。
正真正銘自分の力で出した初めてのそれは、雷を纏った一矢だった。
申し訳ございません
昨日投稿するのを忘れていました
というのがないように、次から予約投稿システムにします




