第4話 武器選び
「ただ、まだ買う必要はないよ。今日は“武器の種類”を軽く決めるだけ。購入はもっと後でいい」
「なるほど……じゃあ、仮決定ってことですね」
「そんな感じかな。迷ったら変えてもいい。そんなに身構える必要はないよ」
師匠はそう言って、道場の奥へ引っ込んだ。
かと思ったら、ガチャガチャ音を立てて戻ってきた。
両腕に抱えているのは剣、木刀、槍、ナイフ、その他もろもろ。中には、俺の知識にもない謎の武器まで混ざっている。
「まずは両手剣。基本にして王道。振ってみな」
剣を受け取り、鞘を抜いた──瞬間。
(......重っ!?)
手首、肘、肩、全部が一斉に悲鳴を上げる。
試しに一振りしてみたが......逆に振り回された。完全に剣が主役で俺は付属品。1キロの鉄の塊は俺にはまだ早すぎたようだ。
「......重いです」
「だろうね。じゃあ、これは?」
次に渡されたのは木刀。剣に比べればだいぶ軽い。
振った感触も悪くない──けど、なんか違う。
「重心がブレます。細かい動きが難しい......」
「なるほど。ならコイツはどうだ?」
「いや、これも重いです。あとリーチ長すぎて制御できません」
「ふむ......じゃあこれは?」
「え、これ何ですか? 見たことないんですけど」
知らないなら却下だな。使うイメージが湧かないと武器を扱うのは難しい。次いくぞ」
──そんなやり取りを延々20分。
時間にすると短いと思うだろうが、1分に2、3個使ってるので合計50個ぐらい試しているのである。あら、多い!
気づけば俺は、体験版の武器屋でひたすら武器を切り替えるプレイヤー状態になっていた。
「......残りはこれしかないな」
師匠が差し出したのは弓。
意外とずっしりしてる。もっと軽いもんだと思ってたが。
「的に向かって一発。撃ってみな」
言われるままに矢をつがえ、狙いを定め──放つ。
──シュッ。
──カン。
矢は的の端をかすった。
想像以上に、いい感じ。悪くはない。
「どう思う?」
「......弓を選ぶべきかと」
それ以外に選択肢がないも同然だからな。一択ならそれを選ぶしかない。
そう思っていたら、師匠はあっさり首を振る。
「弓だけじゃ近距離が無理だ。詰められたらそこで試合終了だ」
「うっ......」
「短剣くらいは持て。長剣より若干短くて、片手で持てるからな。そんな重くはないはずだ」
確かにそうだ。
弓って結局、“遠くから安全に撃てます”が売りなだけで、近くの安全性は皆無に等しい。
俺が短剣の必要性を渋々飲み込みかけた、その時。
ふと当たり前の疑問が浮かんだ。
ここは現代日本だ。剣や弓みたいな古代武器以外にも武器は存在する。
「......銃とかないんですか?」
師匠は一瞬止まって、
「もちろんあるぞ」
「え、あるの!?」
あるのかよ!
じゃあ最初からそれでいいじゃん。
俺はファンタジーよりも実用性重視だからな。剣とか弓とか文明退行している場合じゃない。
だが、師匠は顎に手を当てて少し考えてそうな顔で言う。
「確かに、免許取れるのが18だからな。今から始めても遅くはない」
......ん?
「免...許......?」
俺の脳が止まった。
免許?
魔道具に?
「当たり前だろ。魔力が込められているだけで銃は銃なんだから」
おい!ロマンもなくて使用困難な武器なんてもう興味ねぇよ!!
銃刀法がダンジョンに介入してきたらそれはファンタジーじゃねぇんだよ!!!
師匠は肩をすくめて続けた。
「それにかなり高いぞ。銃の金属と火薬自体が特殊だからな」
「特殊?」
「ダンジョン由来の火薬が必要だからな。普通の銃と違ってな」
なるほど。確かに入試で覚えた気がする。
「それにトレーニング場が少ないから、施設使用代も高い。貴族の道楽だな、あれは」
「なるほどな……確かにそれはキツいな」
金がかかる。
結局そこか。
現代も異世界も、強さには金が要る。
師匠はさらに追い打ちをかけるように言った。
「あと、トレーニングにかなり時間がかかるぞ」
「時間?」
「なんせ火薬の爆発に加えて魔力の爆発まで起きるんだ」
爆発が二重。
確かに難しいな。
「魔力の込め具合と反動のコントロールを同時に習得するまで最低半年はかかる。そこでようやく免許が取れるんだ」
「半年……」
(半年でようやくスタートライン!?)
俺は弓を握りしめたまま遠い目になる。
銃は免許制で金持ち専用。
現実は厳しい。
厳しすぎる。
やっぱりファンタジーを目指さないといけないのか。
師匠は俺の顔を見て、少しだけ笑った。
「まあ、初心者が最初から銃に手を出す必要はない。地道にやれ」
「地道に......」
地道。
英雄が一番相応しい冒険者という単語から最も遠い響きがした。
「もう一つ、試しておくべきことがある」
「......まだあるんですか?」
答えの代わりに、師匠は道場の戸をガラリと開ける。
「行くぞ」
「えっ、どこに!?」
「決まってるだろ。ダンジョンだ」
「……今から!?」
「“今から”だ。武器を選んだら、あとは実戦あるのみ」
俺はチラッと時計を見てすぐに叫ぶ。
「食後のデザートみたいに軽く言うなよ!?
今16時だぞ!? せめて昼だろ!!帰ってきたら20時過ぎ確定!!こんな遅くに帰ってくるなんて不健康だ!!」
普通の高校生なら行くのかもしれないが、俺は普通ではない。
なんせ9時に寝ないとHPが回復しないタイプの人間だ。
すると、師匠はこちらを少し笑いながら見て、
「なら前例を作るんだよ。誠は世界最強を目指してるんだろ?」
別に深い意味があって言ったんじゃない。
サッカーやってる小学生が日本代表を目指すのと同じだ。
......だけど。
ここで引いたら負けな気がする。
「......最強を目指します」
「よし、それでこそ私の弟子だ」
適当に言っただけで強い思いがあるわけでもないのだが、師匠の中で勝手に話がデカくなっていく。
怖い。ダンジョンなんかより師匠が一番怖い。
「大丈夫。初心者用の訓練ダンジョンだ。命は取られない……はずだ」
「“はず”って言わないでくださいよ!」
「まあまあ。その体力じゃキツいかもしれんが、見てから決めろ。百聞は一見にしかず、だ」
──こうして俺は。
人生初の「ダンジョン突入」へ向かうことになった。




