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第3話 冒険者大学

 桜が咲き、卒業式も終わり、地獄のような修行生活からなんとか生還した俺。

 そして、ついにこの日がやってきた。


 ───冒険者大学、入学式。

 

「いってらっしゃーい」

「行ってきます」


 師匠に手を振りながら家を出る。……いや、正確には“家”じゃない。道場だ。

 なぜなら俺はこの春から、師匠の道場に下宿生活を始めたからだ。地獄のトレーニング付きで。


(……あれを“修行”と呼んでいいのか、疑問は残るけどな)

 

 とはいえ、この2週間はずっと肉体トレーニングのみだ。筋トレ、体幹、ランニング。全部筋肉しか使わない。

 魔法はどこだよ!!!!!


 そんなことを考えながら大学の正門に着いた瞬間、俺は固まった。


(な、なんだここ……)


 入試の時にしっかりとは見てなかったが、とにかく広い。左右には体育館を何個も重ねたような巨大訓練場で奥にはコロッセオみたいな円形闘技場がいくつもある。 さらに、大ホールや憩いの広場、大学のランドマークとも言える展望カフェテリアがある17階建てのビルまである。

 近未来とファンタジーの融合、みたいな光景だった。


「冒険者大学」──通称“冒大”。


 国の制度が整うより前に設立された、日本で数少ない二年制にも関わらず“大学”を名乗れる私立冒険者養成校。


(なんだこれ.....絶対に合わないような建物の組み合わせだけど違和感がないな......)


 俺の視点はどこかズレていた。が、そんなのを知る余地もない。

 受験校にも関わらず全くと言っていいほど冒険者大学に興味がなかった俺はただひたすらぽかーんと眺めている。

 見上げていた俺に、いきなり声が飛んできた。


「あ! 一年生だ!」

「へ?」


 振り返ると、おそらく二年生の先輩が全力疾走で近づいてきて──満面の笑み。


「ねえねえ、パーティ興味ある!?」

「え、パーティ……?ナンパですか?」

「違う違う! ダンジョン探索チームのこと! 一緒に組まない?」


 パーティ勧誘!?

 いや、単語は知ってる。入試のために死ぬほど暗記した。

 けど実際に言われると、反応に困る。


「い、いや……まだあまり分からなくて」

「大丈夫!私が色々教えるから!!あ、君経験歴何年?」

「......2週間です」

「あ......ありがとね〜!」


 猛スピードで去っていった。仕方がない、2週間だもの。これは一瞬で人を遠ざける魔法の呪文だ、そうに違いない。

 と思ったら、次の人。


「じゃあ俺と組もうよ!」

「えぇ……」


 答える暇もなく連絡先を一方的に渡されてまた去っていった。


(なにこれ......ナンパスポットかよ......)

 

 入学式は、まあ普通だった。話が長い学長とひたすら元気な教授たちの紹介。

 だけど、それが終わった頃には俺は完全にオーバーヒート。

 

「おかえり、どうだった入学式?」

「いや……“パーティ”って、やっぱりあれでした。探索チームのことですよね?」

「お、よく知ってんじゃん」

「一応、入試勉強で。冒険者協会の定義とか、ランク制度とか、ほぼ暗記してます」

「頭だけは優秀だな」

「“だけ”って言いましたよね?」

 

 永瀬さんは畳を叩いて座れと合図。

 ここからが問題だ。


「ほら、実際に説明してみ?」

「えっと……冒険者は世界シーカー協会に基準を認められた人で、世界ギルドに登録することで正式に活動可能。ランクはFからSまで、F・Eが新人、Dがプロの入り口、Cが中堅、Bが高位、Aがエリート、Sが伝説級……合計19段階です」

「うん、模範解答。点数つけるなら100点」

「でしょ? 受験勉強で覚えましたから」

「でも3キロしか走れなかったのはどこの誰かな?」

「そ、それは......黙秘します」


 都合の悪いことは黙っていく、これテストに出ます。社会人全員が使っている魔法の言葉だからね、俺が使っても問題ない。

 

「で、パーティ勧誘についてだが──あれは“冒大の洗礼”だ」

「洗礼……?」

「入学式当日に先輩たちが新入生をスカウトしまくるんだ。なんでかって? 二年しか在籍できないから」

「あ、そうか。二年制……」

「そう。別にパーティなんて大人になってからでも組もうと思えば組めるが、冒険者活動の単位を落とすと即留年。ソロかパーティかを選べるが、ソロは高ランクになることが求められる。に対し、パーティはそこそこのところで単位がもらえる。だから、二年生は一年生を死に物狂いで勧誘する、ってわけ」

「なるほど……。つまり俺が狙われたのは、実力じゃなくて“新入生なら誰でもいい”ってことですね?」

「そういうこと。実際、誠みたいに体力ゼロでも知識だけ詰め込んだ奴だって混ざってるしな」

「体力ゼロは余計です」


 つまりは、青田刈りってところか。実力不足でもとりあえず勧誘されるんだから。その先はどうなるか知らんが.......

 

「で、問題はこれからだ。パーティに勧誘されてもされなくても決めるべきことだ。

 お前は何を使う?」

「......武器ですか?」

「そう。武器選び。知識じゃなくて、実際に触ってみないと意味がない。

 ──机上の空論で終わらないようにしないとな」

 

 あ。やばい。

 俺、昔ちょっとだけ冒険者やってたから、武器は触ったことある。けど──


(……今の俺でも扱える武器なんて、存在するのか?)


 筋力ゼロスピードゼロ精神力ゼロ。こんな俺が使える武器なんて罵詈雑言くらいしか無さそうだ。

 俺の冒険者生活、入学式から早くも絶望の予感である。

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