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第19話 地獄の合宿5 危機一髪

 お願い、死なないで宮田誠!

 あんたが今ここで倒れたら、世界一になるっていう師匠との約束はどうなっちゃうの?

 方法はまだ残ってる。ここを耐えれば、オークジェネラルにも勝てるようになるんだから!


 次回「宮田誠死す」! デュエルスタンバイ!!




 ……とまあ茶番はここまでにして。

 さて、どうしようか?


 一つ手があるとすれば、この状況が作為的に作られたものだという点だ。自然にこうなったわけじゃない。師匠が意図して仕向けた状況だ。

 師匠に頭を下げて短剣を返してもらう、という方法もある。だが……それは癪だ。試練を投げるのは俺のプライドに、いやポリシーに反する。


 となると弓か。

 とはいえかなり難しい。半径30m以内にオークが6頭。難しすぎる。弓は本来、至近距離で動いている相手を狙う武器じゃない。そこを魔法で補うはずなのに……今は魔力がない。


 だが、そう考えても手段がこれしか残っていない状況は変わらない。

 ものは試し。よし、矢で撃ち抜くか。


 ギィィ


 弓を弾いたと同時にオークが走ってくる。だが、遅い。


 パァン!


 弾かれた矢は、走り始めたオークの肩に突き刺さる。呻き声を上げながらその場でしゃがむ。1分くらいは戦線離脱してくれることを祈る。


 そして、ダッシュ。

 このままの距離だとオークに殴られて死ぬ。途中途中で近くの木を障害物にして距離を稼ぎ、20mくらいを保ちながらダッシュしている。この距離は矢が当たるギリギリ、かつ持久戦になっても耐えられる距離。

 弓を引いて、後ろを向いて、放つ。走りながら、だ。


 シュッ!


 残念、外した。

 ……というか放つ瞬間以外オークの方を見ていないからどこに矢が飛んだのかすらわからない。音で判断しているだけだから、呻き声を出さずに倒れた可能性もある。ないに等しいが。

 続けて、


 シュッ! グサッ!


 よし、上手くいった!!!あと4頭。


 そして朗報が一つ。魔力が回復した。一発くらいなら撃てる。不幸中の幸いだ。


 だが、この作戦も限界が近い。オークとの距離が迫っている。あと10m。気を抜いた瞬間に追いつかれる。


 師匠のハンドサインは、っと……見えるわけがない。

 そもそも師匠すらかろうじて見える程度なのにハンドサインが見えるわけない。


 そして、矢を手に取った瞬間に気づく。


 ───残りが一本だ。

 この一本で一頭倒せたとしても、残りは4頭。上手く殺意マシマシの4頭を撒くか、魔力がかなり回復するまでマラソン選手並みのロングマラソンをするか。この2択はゴミだ。普通に不可能すぎる。


 その瞬間、俺に一つの考えが浮かんだ。

 戦局を覆すほどではないが、多少は変える。

 いけるか……?いや、これを試さないと後で絶対後悔する。


 ふう……よし!


「フラッシュ!!」


 復活した魔力のほぼ全てを使ってこれを撃つ。

 閃光で目眩しをさせた後、オークの後ろに猛ダッシュで回り込む。

 弓は?使わずに矢だけだ。根元ギリギリを握って、先端で喉を斬る。

 スッと血管に触れるだけで、鏃の鋭さによりあっという間に血管が斬れる。


(いくらやったところで、やはり魔物を殺すことには慣れないな)



 ……そんなことを思っている暇はない。急いで次だ。時間短縮のため、足の血管を狙う。

 重要な血管の位置なんて知らないが、とりあえず浮き出ている両足の血管だけを斬ればいい。


 あと3頭か……ヤベっ!そろそろ目眩しが解けてきてる!


 俺を視認して襲いかかってくるオークを猛ダッシュで避けて、脇腹を突く。


 ボキッ


 筋肉で覆われた硬い脇腹に矢が負けた。

 その音に気づいた時、全てがスローモーションになった。

 残っていた矢は一つ。その矢が折れた......



 真の絶望が俺に押し寄せてきた。




 ◆◆◆◆◆


(さて、どんな感じかな?)


 宮田誠の師匠、永瀬陽菜はそう思っていた。魔力切れの時に短剣を奪うのは少し酷な気もするが、これも訓練。多分あっている。

 自分は独学でここまできたから、師匠の訓練が一般的にどんなものかは知らんが、多分あっているはず。


 で、今の宮田はどんな感じだろな。

 双眼鏡を取り出し、覗いてみると……


(嘘だろ……?)


 矢を槍がわりにして的確に敵を撃破する誠の姿がそこにはあった。急所を素早く攻撃し、少しずつ戦線離脱させる……か。確かにいい戦い方だ。まあ、もっといい方法もあるはず───


 バキッ


 誠の握っている矢が折れた。


(ここで、後ろの矢を素早く……ない?ないぞ?何で矢筒に矢が0本?......あいつこのまま死ぬぞ!)


 マズいぞ、誠が危険だ!!


 だが、大丈夫。

 私は走りもしないし、死ぬとも思わない。

 何故かって?私だったら助かるからだ。あの状況くらい切り抜けないと世界トップレベルなんて到底無理だ。

 私にできることぐらい誠にもできてもらわないとね。


 よし、傍観しよう。




 ◆◆◆◆◆


(クソッ、早く魔力の回復を......)


 オークに押し倒されかけて、いや押し倒されている俺。逃げ出せないように3頭で囲むオーク。

 逃げ場はないし、絶体絶命。1人の無抵抗な人間に複数のオーク。

 ……これは同人誌かな?


 いや、そんな冗談言っている暇はない!

 魔力は……あと1分あればフラッシュが撃てる。だが、目眩しをしたところで、その間に倒す術がないから、逃げるぐらいしか有効打がない。

 そして、3分も持つ自信がない。


 ……ガチかよ、俺死んだやん。


 せめて格闘技の経験があったらここから抜け出せたかもしれないのに。


 グゥン!


 オークが押す力をさらに強める。

 非力な俺が耐えられるほどの力じゃない。

 全神経を集中させて、力を保つ。クッ、このままじゃ……師匠!!!助け……





 ◆◆◆◆◆


 <師匠視点>


 あー、この合宿終わったらアイス食べたいなー。原宿に美味しそうな店できたらしいし。



 今日も師匠は呑気だった。

 誠の戦いなどもう見てもいない。




 ◆◆◆◆◆


 ダメだ、かろうじて見えた師匠の目は虚だ。助けに来る気配などない。


 地面に抑え込まれた俺はどうにか両手で殴ったりともがいている。文字通り、死に物狂いだ。

 だが、そんな俺の奮闘虚しく目の前の鬼気迫るオークが抑え込まれた俺の胸を殴ろうとする。

 拳を振り上げたその時、



 カラン


 服の内側から金属と金属が当たる音がした。


 それに気づいた瞬間、身体が勝手に動いた。

 無意識のうちに足を跳ね上げてオークの腰に蹴りを入れる。

 身体が浮いて体勢が崩れたその一瞬を見逃さず、胴体を捻って位置をずらす。


 それが決まった瞬間、こっちを向いたオークの目を目掛けて


「フラッシュ!!!」


 少し魔力が足りず威力は小さい。だが、至近距離で閃光を浴びたオークに目眩しをさせるには十分だ。


 すぐに転がって距離を取り、服の内側のナイフへ手を伸ばす。

 オークが俺を視認するより遥か前に、ナイフを取り出し、


 シュッ!!


 刃を頸動脈に沿わせて斬る。鮮血が散る前より先に残りのオーク3頭の方へ走り出す。


 一連の動きに呆気に取られているオークに距離を詰め、肩から袈裟斬りをする。

 もう一方のオークが背後から襲おうとしているが、振り向きざまにナイフを投げる。

 流石に近距離過ぎたこともあり、正確に腹に当たる。

 もう一本を服の中から取って最後一頭のオークに投げる。それを避けた隙に、中に入り込んで、太ももを斬る。



 ふう……12頭討伐完了っと。


 今のうちに解体しとくか。

 ナイフで周囲の肉を割き、魔石を取り出す。


 そこにようやく師匠が来た。


「お疲れ様。悪くはなかったな」


 手には俺から奪った短剣……はない。おそらくマジックバッグに入ってるのだろう。


「どこが良かったですか?」


 師匠は少し考え、


「抑え込まれてた状態からのキッキングエスケープは良かったな。あれはかなり凄いぞ」


 ……あれってそう言うんだ。

 柔道みたいな技か?


 ただ、と師匠は付け足して


「そんな状況になるまで粘ったのは完全に判断ミスだ。撃退ではなく離脱がベストな選択肢だった。

 いくらお前でも1000m走るのなら並のオークには負けないからな。オークを含め、大半の魔物が短距離向きだからな」


 確かにそうかもしれない。

 というか、魔物が短距離向きなのは初めて知った。

 確かに自然界の動物ってかなりそうだよな。こういう情報を知らなければならないのか。


 そして師匠は続ける。

 ここからは俺も考えたことがなかったことだった。


「お前が最初に狙ったのは、若いオークだ」

「……でもあれ大きかった気が」

「皮膚のシワが少ない。だからアレは若いオークだ。

 そして、二番目に矢で撃ったのは子供のオークだ。親は同じ群れにいるからな。子を殺された瞬間は見られたしな」


 なるほど、そういうことか。

 だから死に物狂いで襲ってきたのか。


「そこら辺が甘かったな。あと魔力配分にも気をつけろ。魔力切れなんて起こさない方がいい」


 確かにな。

 全部俺のミスだ。思ったよりまた甘かったか。

 後半は魔力回復してから魔力を貴重に使わねば。


「じゃ、残り44頭行ってこい」


 そういうと師匠はくるりと背を向け、近くの木にもたれかかりに行った。


 俺はすぐさま止める。


「ちょっと待て!!!」


 師匠は振り向きながら、


「どうした?頑張ってね、が欲しいのか?」


 甘い声で子供扱いしようとする師匠を無視して、


「ポーションは!?」


 俺の願いを全力で無視し、まるでさも当たり前かのように、


「あるわけないだろ、魔力切れしたのはお前のせいなんだから」


 まあそうだけどさぁ……


「あと、魔力切れの時は実はポーションが使えない」


 ふむふむそうなのか.......え!?


 驚く俺を見ながら師匠はこう続ける。


「そもそも魔力回復ポーションは使用者の魔力を媒体にしているから、魔力切れの時には使えない。ある程度の量の時に使わないと効果が出ないからな

 お前はさっきのフラッシュで限りなく魔力がゼロになったからな」


 ポーションは魔法だけど摩訶不思議の力じゃないんかい……

 てっきり万能な魔力回復ポーションかと思ってたぜ。

 なんか思ったよりも薬品感というかリアリティがあって今ガッカリしている。


 まあポーションが使えなくても、


「短剣は?」

「無理だ。扱いやすい片手剣に慣れすぎると片手剣対策をされた敵に勝てないからな」

「なら矢は!?」

「弓矢だと遠距離攻撃ができるからな。それで残り44頭全部アウトレンジから仕留めたら弓の練習にしかならん。

 無しだ」


 クソッ…最後の案が消えた。

 あれ、ってことは?


「つまり……近接のみってことですか?」


 師匠はうんうん、と顔を振りながら、


「よくわかってるじゃないか!」


 ああ絶望だ。

 この世に神はいなかったのだ。

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