第18話 地獄の合宿4 オークが1匹、オークが100匹
「よし、2日目を始めようじゃないか」
元気に司令官の真似をしながら喋るは師匠。
一方その横で、全く寝れずに寝不足で疲れ切った俺。うむ、見事な対比だ。
昨日の夜は師匠もかなり話していたのにな。どうやら俺には夜更かしはまだ早すぎたらしい。
……茶番はここまでにして。
今日は何が来るかだ。
これによって今日一日の地獄度絶望度哀愁度諸々が全て変わる。
「そろそろ気になっただろう。今日のトレーニングは……」
頭の中でドラムロールが鳴り響き……いや、そんなのどうでもいい。
内容だ、内容。
「オークの討伐だ」
え……それだけ……?
いや、オークの上位種の可能性がある!
師匠がただのオークを討伐させるわけがない。3ヶ月いただけでもわかる。こいつは常識を知らないスパルタだ。
「上位種ですか?」
「いや、普通のオークのみだ。上位種は明日だ」
スパルタ師匠がこれだけしか頼まないわけがない!え?優しい線は疑わないのかって?
無理に決まってるだろ!!!
とすると何だ……?
あ、数か!
「何頭がノルマですか?」
「そうだな……100頭でいいだろう」
やっぱり……。
14時間動くとして、1時間に7頭、8分で1頭……か。
……かなりキツいぞ。
てか14時間も動けるわけないな。そんなブラック企業に勤めた覚えはない。8時間だとしたら……12頭か。
───絶望だ。
「ポーションは何本支給ですか?」
「あー、ポーションか……」
ポーションによってだいぶ変わる。
ポーションが1本か2本かで、辛さは何倍にも変わるからな。
あわよくば制限なしかも……。
一抹の希望を抱いてそう言ったが、現実は残酷だった。
「ないに決まっているじゃないか!」
◆◆◆◆◆
神はこの残酷な世界を救ってはくれなかった。
別に迷子のオークを見つけて狩ればいい、なんて考えるかもしれない。
そうだったらよかったな!
そんな訳ないだろ!同じ階層に100頭も迷子のオークがいる訳ないだろうが!
オークが1頭、
オークが2頭、
オークが3頭、
オークが4頭……。
これを子守唄だと思ったかい?
違う。
目の前にいるオークの数だ。
あーあ、絶望絶望。とまではならないか?今の俺にとっちゃ───
「スパーク、ライトボルト!」
2頭を少し足止めさせた隙に、短剣で足を切る。間髪入れずに、
「エアカッター!!」
───希望だね!!
使える中で最強かつ唯一の攻撃型風魔法。
第ニ階梯の中ではかなりの威力を誇るゆえ、残りのオークの足の筋肉に当たるとすぐに斬れる。
ただし、魔力消費も他の魔法に比べて激しいし、コントロールもあまり効かないため当たること自体難しい。メリットもデメリットもかなりある魔法だ。
ハイリスクハイリターンの技だ。
動きが遅くなったオークを弓とナイフを使って確実に倒す。魔石回収も忘れずに。
ようやくこれで50体。ついに折り返しまできた。
今は何時だろ......あ、もう13:00か。
そろそろ昼食だ。
このオークを丸焼きにしたら昼飯完成っと。
合宿を始めてから3食全部オークの丸焼きだが仕方ない。それしかないし、美味いんだもの。
「誠、そろそろ半分くらい狩れたか?」
ここで眠そうな師匠がやってくる。
……こいつ、ずっと寝てたな?
「はい、ちょうど50頭です」
「ならよかった。残り50頭はキツいと思うぞ。思ったよりもな?」
魔力のゆとりとか集中力が切れてきたりと か、ってことか?
魔力はまだ四割しか使ってないし、集中力は受験で鍛えられた。
何より師匠のスパルタ特訓の成果が効いている。
思ったより楽だ。
あと50頭で終わり。
……早く終わらせるために10頭ぐらいの群れに飛び込もっかな?
そう思い、大きい群れだけを探し始める。既に迷子のオークは狩り尽くしたからこの手しか残っていない。
もしオークの情報収集能力があったら100頭以上の巨大な群れで俺に反撃するかもしれないが、そんなことがあるわけがない。
まともな思考回路がないからオークなのであって、賢いオークはオークじゃない。
そうして、10分ぐらい探しているとようやく見つけた。
えーっと、12頭か。
ちょうどいい。
近くの木に身を潜め、弓を弾き照準を真ん中の静止しているオークへ定める。
ギィィィ……
シュッ
パァン!
───ヘッドショット!!!
木の影から放たれた高速の矢は弧を描いてオークの頭へと吸い込まれていく。
舐めるなよ、俺は毎日11時間スパルタ師匠にやられてんだよ!
こんなの余裕だぜ!!!
……すみません嘘つきました。普通にマグレです。再現性はないし、この距離で当たっただけでも凄いんです。
狙いのオークに決めると、周りのオークが慌てて俺を探し始める。ただ、遅すぎた。
パァン!パァン!
適当に放った何本かの矢でもう2頭に当てる。
そこで居場所がバレる。
無傷のオーク全てが雄叫びを上げてダッシュで向かってくる。
差し詰め包囲したいんだろうが、そうはさせない。俺は急に向きを反転させてダッシュでオークの下へ走りながら、
「ミスト!!」
こちらに向かっていたほとんどのオークが一斉に動きを止める。
それもそのはず。いきなり足元に目の前に濃い霧が現れたんだ。
この状況で俺の姿はおろか、味方の姿も完全には見えない。
それと同時に服の内側からナイフを取り出して投げ、記憶を頼りにオークの胴体に当てる。オークの絶叫と当たった奇跡に驚きながら、別の一頭の足の動脈を走りながら斬る。
残り7頭。負傷したものも含めれば10頭。今のうちにさらに減らさなければ。
にしてもこれ不便だな。俺も見えないもん。馬鹿だな、次から使うのやめよ。
やべっ、そろそろ俺の位置がバレる。
霧が晴れる前に、もう一頭───
カンッ!
目の前のオークの足を掻っ切るはずだった短剣は、突如何者かによって横に吹っ飛ばされた。その次の攻撃用に左手で持っていた短剣も、だ。
どこだ?
いや、誰だ?
まさかオークメイジか?魔法を操れるオークメイジだったらかなり厄介になるぞ!
ただ、真相は違った。
むしろオークメイジの方がマシだったかもしれん。
「……何で?」
───師匠だ。
師匠が俺に魔法を放って、2本の短剣を吹き飛ばしたのだ。
マジで何してくれてんねん!!!
なぜ、そんなことをした?ただ、今その情報に価値はない。
「大丈夫か?よそ見をして?」
「え?」
ウォォォ!
霧が十分に晴れ、俺の位置はあっという間にバレる。
倒すはずだったオークは雄叫びを上げながら起き上がり、飛びかかってくる。
「ちょっ!タンマ、タンマ!」
まずい。
目の前のオークの目と顔つきが異常だ。
明らかに、俺は餌ではなく敵だ。つまり第一目標は、
───殺すこと。
……が、
弓を弾く時間はないし、短剣は吹っ飛んでいるし、腰のフックにかけたナイフは数に限りがある。
それに今は包囲されているから近接戦に持ち込むのは無謀だ。
……師匠の助けか?
そう思って師匠の方を見ると、
うん、自分で頑張れって顔だな......じゃねぇよ!!
かわいい弟子が死ぬところだぞ!救けろや!
まあ、言っても無理なことはわかっているので、
「エアカッター!!」
ジュンッ!目の前のオークの首を真っ二つ、とまではいかなかったがそれに近しい程度まで斬る。
いつもよりも多くの魔力を注ぎ込んだだけあって、効果はバツグンだ。
ふう、助かった。
よし、残りを倒すか……
とりあえず、
「ライトボルト、ライトボルト、ライトボ……」
あれ、魔法が撃てない……
しまった。魔力切れか!!
残された手段は短剣しかないことに気づき、慌てて短剣を拾いに走る。
だが、
短剣はそこにはなかった。
まてよ、まさかとは思うが……
嫌な予感がして、師匠の方をおそるおそる見る。
そのまさかだった。
───師匠が短剣を持っていた。
武器無しでやれ。それが師匠の言ったキツさの本当の意味だった。




