第16話 地獄の合宿2 オークジェネラル
目の前には一回り、いや二回り大きいオークジェネラルが大地を踏み抜きそうな勢いで立っている。筋肉の塊みたいな体躯に、ジェネラル特有の口から生える牙。手にした大剣は俺の身長と大差ない。
そんな怪物が俺を睨みつけていた。
「さて、どうするか……」
逃げたい、ところだが残念なことに足を負傷している。いくら痛みを感じにくいとはいえ、遅くなったことに変わりはない。どうあがいても逃げ切れる自信がない。
そして、さっきの特大攻撃で俺の魔力は4割、それ以外で2割ぐらい使った。
よって残りは4割だ。そして長期戦に持ち込んだ瞬間に魔力が少なすぎて足らない自信しかない。
先ほどのように余力を残して長期戦は不可能。とすれば全力の一撃を額か頸動脈、あとは脳幹あたりにクリティカルヒットさせるのがいいのか?
よし……
俺は弓矢を両手で持つ。そのままオークジェネラルに向かって走り出す。そして……
「エアブースト!」
ダン!と響いた直後、3m上に浮遊する。加速した勢いを保ったまま背後に回り込む。
正直、この魔法をあまり練習していなかったから成功する確率は5割を切っていたが、成功すればそんなの関係ない。くじの中から当たりを引いた事実は同じだ。
師匠に何故か覚えさせられたが、ようやく意味がわかった。
一瞬でオークジェネラルの頭を越える。その間に弓を番え、そして、───
「サンダーショット!!!」
身体中の魔力という魔力が手の中に吸い取られ、矢に雷が帯電し発光した瞬間、
ギュン───ガン!
───その矢は後ろを向いたオークの剣に吹き飛ばされた。
理解が遅れる。背中越しで、剣で弾いた。偶然なわけがない。あれは確実に感知している。
矢はオークの頭にクリティカルヒットするはずだった。そのはずだったのだ。確かに一瞬で番えて威力が弱かったとはいえ、矢は矢だ。それも帯電しているのだ。防げない筈なのだ。
しかし、現実は残酷だ。今持つ技術の渾身の一撃をオークジェネラルの剣でそれはいとも容易く弾かれた。
残存魔力の殆どを使っても無理なら……
(逃げろっ!)
今の俺には倒すことが不可能だ。1%とか0.1%とかの話じゃない。絶望的だ。無理だ。こんなとこで粘って終わるタマじゃ俺はない。
だから俺は逃げる。
最後の力で目眩し用のフラッシュを2つ撃った隙に猛ダッシュ。足の感覚が徐々に戻ってきて少しずつ感じる痛みを忘れよう、なんて考えることもせずにがむしゃらに走った後、振り返るともうオークジェネラルは見えない。
息を整え、落ち着いたあと一言。
「こんなもん二度とやんねーよ」
「はは!!どうだった?いけたか?」
誰からも返ってこない筈の独り言を空に向かっていうと、何故か隣にいる人間から返事が返ってくる。そう、師匠だ。
気づいたら目の前にこれを仕向けた張本人がいる。
俺は迷わず怒りをぶつける。躊躇いはない。
「無理だろ!オークの上位種が出てくるなんて聞いてないよ!あと、騙すな!」
「安心しろ、最初からアレを倒せるとは思っていない。わざわざあそこに行かせた甲斐があったよ」
死ぬかもしれないミッションに甲斐なんてあってたまるか。
なんていう俺の感情を無視して師匠は続ける。
「見てくれたと思うが、この合宿の最終課題がアレに打ち勝つことだ。それが終わり次第、合宿は終了だ」
なるほどね……え!?これに勝たないと合宿終われないの!?先に死ぬぞ!?多分。
「死ぬ、とでも思っているだろうが安心しろ。死ぬことはない。死なせないように、オークジェネラルに勝てるように合宿中に特訓をさせるまでだからな」
なるほど、さすが根性論者だ。訓練まで根性論という脳内お花畑の実験場に染まっているようだな。
そんな芸当を俺ができるとでも?
「あ、言い忘れてた。オークジェネラルに勝つためにはざっとCランクの実力は必要だ。常人ならそこまで辿り着くには少なくとも3年かかる。頑張れよ」
……希望ないじゃん!!その「常人」より体力ない俺が4ヶ月で倒せるわけないだろ!?俺をなんだと思ってるんだよ!?室伏◯治か!?吉田沙◯里か!?
まあ、これが本当なら、思ったよりシビアだな。内容は内容だけにな。
でも俺の目標はただ一つ。とりあえず勝つだけ、だ。
と、ここで疲れが溜まってきた。そりゃそうだ、たった5分で全魔力を使う死闘をしてきたんだ。疲れないわけがない。
一旦、休憩して……
ダンジョンの草原に大の字になって寝ようとした瞬間、
「休憩はさせないよ、この3日間で勝ってもらわないと困るんだから(ニコッ)」
肩を掴まれ休憩を阻止するのは師匠。その笑顔の奥には恐怖が見える。
「ほれ、ポーションだ」
わーい!傷が治るぞ!
師匠からひったくってポーションを一気飲みすると、
「言い忘れてたが、それは4時間は多少の傷を自動修復する優れものだ」
ほーん、凄い良いってこと......ん?ちょっと待てよ?
なんか不味い気がする。
「つまり訓練し放題だ。良かったな、誠」
良くなかったぁぁ!!!!
絶望の淵に立たされたような感覚を抱いていると
「じゃあ、まずは剣捌きだな」
ん?相手モンスターじゃないのか!?
確かに殺される可能性は皆無で心配無用だが、その代わり半殺しにされるんよ。キツイって。
俺が脇に差してる短めの剣を2本取って、振る。
「よし、じゃあ模擬戦するぞ!」
「え?早くないですか?」
「何言ってんだよ。お前の今の最重要目標は、オークジェネラルを倒すこと。そしてそのあとは来年の四大学冒険者杯の校内予選勝ち抜き。ジェネラルも冒険者も止まってはくれないぞ」
確かにそうだな。実戦を意識すると、動きながら当てないといけない。だからこそ模擬戦、か。
俺は剣を構えて、そのまま師匠に攻撃する。
師匠も剣を2本構えて守る。
「遅い」「剣筋がブレてる」「上半身に無駄が多い」「一撃が軽い。こんなんじゃ長剣使いの一撃でやられる」「体幹がなってない」「攻撃をいなせ。何でもかんでも本気で打ち返すな」「いなしすぎだ。いなすことばかりしてると突かれるぞ」
始まって30秒で怒涛の口撃を仕掛ける師匠。指示が多い......
ジェネラルよりも難しい相手だな。
と、思いながらも指示に従う。そうすれば上手くなるから。
(くそ......疲れてきた......)
最初から全力で打ち合っていたから、段々バテてくる。
すると、
カンッ
師匠が俺の剣を両方とも弾き飛ばす。
「お前がリーチが長い剣ではなく、それより短い剣を2本持たせている理由を考えろ。
一撃じゃない。手数だ。
今のお前は長剣の意識で振っている」
地面に転がる剣を見つめる。確かに俺は“当てる”ことばかり考えていた。重い一撃を通そうとして、動きが大きくなっていた。軽い分手数が多い利点を自分で潰していたわけだ。
目的は単純だ。リーチが短いなら距離を詰める。威力が軽いなら回数で削る。相手の剣圏内に長く留まらない。刺して離れる。その連続。
それが二刀の役割。
「なるほど……」
剣を拾って振り返ると、師匠が大の字になって寝ている。
(……え?)
何事かとは思ったが、師匠の訓練が終わりだ。
もう大丈夫。安心して寝れる。今日はいい夢を見そうだ。
そう思い、俺も大の字になって草原に寝る。
次の瞬間、
ビュン!!
2本の石製の剣が俺の方向へ飛んで来る。
(えっ!?!?!?)
俺が石剣から自分を守りながら戦っていると、
「誰が休んでいいと言った?」
師匠が休んでいるからだろ......
すると師匠は寝ながら言う。
「世の中にはいい魔法があってね、」
知らねえよ!早くこの剣消せよ!
「───自らに攻撃した対象へ反撃する魔法がある」
え……ちょっと待てよ、つまり……
「お前が最初に弾かなければ、攻撃されることはなかったな」
あぁぁぁぁ!!!!!!しくじった!!!!!
熾烈な攻撃をしてくる2本の剣を恨みながら戦っていると、
「頑張れよ、誠。じゃ、私は寝るから」
解除しろ!、っと言おうとしたがもう遅い。既に熟睡した師匠を呼びにいけるほど俺に余裕はない。




