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第10話 3人目

「ここでストーンウォール、からの──払いっ!」


 ドゴォン!

 鈍い衝撃音とともに砂煙が上がる。


 今、俺たちが何をしているのかというと──

 そう、2ヶ月前に俺が受けたあの地獄の“実力テスト”を、今、速水が受けているのだ。


 そして俺はというと、

 ───観察者(ただの見学)である。


「......俺の時よりホーンウルフ増えてない?」

「別にホーンウルフはテストじゃなかったけどね」


 ほなスライムがテストだってことか......


 じゃあ俺が死にかけたのはなんなんだよ!?

 テスト外!?

 ふざけんじゃねえよ!!



 あ、でもホーンウルフは倒したからな。え?スライムはって?10分かけたさ!!


 でも、目の前では。


(......え、普通に強くね?)


 速水の動きは、圧倒的だった。

 ホーンウルフ5頭。

 俺なら開始3秒で「助けてください」案件。


 なのに速水は土壁を迷いもなく展開する。


 群れが分断される。

 その瞬間、連携が命の獣達が、“ただの1匹”に落ちる。


 そこから先は速い。


 一歩。

 一閃。

 一匹が沈む。


 3秒にも満たないその一瞬で、一匹を狩る。その次の瞬間には別の一匹を刈る準備をしている。


 無駄がない。

 冷静すぎる。

 まるで全てが自らの手の内に転がるよう。


 それはまるで──死神。


「速水! 後ろ!」


 とは言え、無敵というわけじゃない。

 死角もあるから奇襲もされる。


 現在進行形で猛突進で速水の背後に迫る一頭のホーンウルフ。


 まずい。

 慌てて声を張り上げるが、速水は前方に集中していて、振り向く気配がない。


(.......なんでだ?)


 記憶が蘇る。

 あのときも、俺は怖くて、何もできなかった。


 ───いや、助けを求めていた。

 結果的にうまくいったが、最初から如月の助けを求めていた。


 確かにあの時は新入りだ。



 でも───今は違う。

 体が勝手に、前へ出ていた。

 ホーンウルフが速水の背後まで迫ったその瞬間──


 速水は───笑った。


 そして振り向きざまに叫ぶ。


「テラバレット・クエスタ!!」


 バンッ!

 乾いた破裂音


 土が爆ぜて、親指大の礫が連射される。

 高速で撃ち出された石弾が、ホーンウルフを叩き砕く。

 砂塵が落ちた向こうに、速水が立っていた。


(......強ぇ)


 呆然と立ち尽くす俺。その隣に、遅れて如月が歩いてきた。


「......せめて走ってきてくれない?」


 苦笑しながら言う速水に如月は当たり前のように返す。


「速水なら大丈夫でしょ」

「まあそうだけどさ」


 速水は肩をすくめていう。


「で、このパーティに入っていい?」


 そりゃ......という感じで如月は生き生きと即答する。


「もちろん!」

「よっしゃあ!!」


 こうして、俺たちのパーティは三人になった。

 問題児を一人増やして。




 ◆◆◆◆◆


 ──その帰り道。


 速水と別れて、夕暮れの街を歩いていたとき、ふと考える。


(そういやさ……あの“魔弓”みたいなやつ、どうやって撃ったんだっけ?)


 あの一撃。

 あれが今の俺の限界点。


 けど、もっと上がある。もっと強くなれる。

 あれは明らかに不完全な状態だ。完全な状態にすればさらに強くなる。


 だって──夢は世界最強だ。

 言葉にしたからには、やり遂げる。それが俺のモットーだ。


(えーっと......構えて、引いて......いや、違うな。魔力は後? いや、その前か......?)


 ......うん、まったくわからん。

 おぼりげながら覚えている記憶如きじゃ再現不可能だ。

 こういうときは、頼るべき人がいる。





「ただいまー」

「おかえり。怪我は治ったか?」


 永瀬師匠。俺の人生における“地獄担当官”である。

 ニコニコしながら弟子を瀕死にさせるスタイルの人だ。

 もはや愛とかそういう次元じゃない。そのくせ、大抵忘れて笑顔で誤魔化してくるのでとんでもない人間性を持つ人だ。


「バッチリ。で、ちょっと2ヶ月前の話なんですが、質問いいですか?」

「ふむ。では講義の時間だな」


 始まりました。

 永瀬師匠の魔法講義──別名、無慈悲レクチャータイム。

 これが始まると大抵訓練という名の体罰が起きます。




「......なるほど、魔力宿りか。ずいぶん早いな......」


 だが、師匠は続けていう。


「───本物だとしたらね。残念だが誠、お前には到底無理だ」 

「ちょ、開口一番で希望ゼロ!?」

「正確に言うと、あれは“半・魔力宿り状態”だ」


(半......ってなんだよ)


「魔力宿りとは、物体に使用者の魔力を封じる高度な技術だ。

 魔素の九割を閉じ込め、必要なときにだけ放つ。制御力がバケモノじゃないとできない」

「じゃあ俺のは?」

「魔力の“逃げ道”を、別の魔力で力づくで塞いだ。つまり、乱暴な魔力宿りだな」


(雑だけど......ちょっと天才っぽくね?)


「でも、それ効率悪くないですか?」

「うむ。良いわけがない」

「.......つまり、全部できてないってことですね?」

「その通りだ。自覚があるのは良いことだ」


(褒められてる気がしねぇ!)


「そりゃそうだろ。あの魔力量だったらCランクの魔物なら軽く吹き飛ぶよ。あのコントロールでよく生きてたな、誠」


 軽く言うな!!

 結構危険な技じゃねぇか!


 コントロールが低いなら使わせんなよ!先に説明しろ!!あんた一応保護者として冒大に登録してんだぞ!


(あのトレーニング……死にかけたのは伊達じゃなかったか)


「ちなみに、速水はC-行くか行かないかくらいだ」

「強っ......」


 だが、と続けて師匠はいう。


「だが、お前の一撃は、それを上回る資質がある」

「おぉ……!」


(やっぱり俺、天才なんじゃ──)


「だが、魔法全体では如月の下位互換だ」

「でしょうね」


 即落ち2コマ。


「確かに一般人よりは上達は速いが、その程度だ。強引な半魔力宿りは、今の誠じゃ三回も使えない。普通は全部の攻撃にするものだからな。あれに頼るのはやめろ」


(うん、天才じゃなかった)


 所詮俺は「できる初心者」なだけで天才でも秀才でもない。

 でも、少しだけスッキリした。

 自分の“課題”が見えたから。

 千里の道も一歩から──そういうやつだ。


「というわけで、お前の魔力制御を鍛えるため、例のアレをやるか!」

「え、ちょ、待っ──」

「第一問! 魔力制御で最も大切なのは!?」

「ギャアアアアアアア!!」


 ……こうして、俺の“強化年間”が始まった。

 たぶん、いやきっと──強くなっていく。

 (※なお心身の保証はない模様です)

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