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01話 始まり

 ───この世で最も敬意を集める職業は何か?


 政治家?スポーツ選手?宇宙飛行士?


 どれも違う。

 強大な恐怖から人類を守り、夢を語り、希望を灯し、まだ見ぬ世界を探し求める。


 人々は敬意を込めて彼らをこう呼ぶ。



 ───冒険者、と。




 ◆◆◆◆◆


 まだ2月下旬。合格発表まであと2週間ある───はずなのに見なくても分かる。


 ───落ちた。


 最後の受験校を出て駅へ向かう道すがら、俺はもう結果を知っていた。


 受験期間ど真ん中にインフルエンザに直撃し、四十度の熱を引き共テは受験不能。

 朦朧とした意識の中で私立受験に突撃した結果さらに悪化して全落ちルート一直線不可避。


 え、別日受験?ああ、その日も風邪だったね。人生ってそういう時は徹底的だ。


 そりゃそうだ。意識が飛んでる時に微分積分ができるわけない。

 高校生活全てを賭けた受験という名の博打に失敗した、というのが今の俺だ。


 共テなしの俺には私立しか受けれず、その受験日すらも朦朧とした頭で受けなきゃ行けないからな。当然と言えば当然の結果だ。


 というわけで俺は晴れて一足先に浪人生の仲間入り。

 今からでも受けれる大学ありますか? あるわけないだろ!!!


 だがどんなに楽観的に振る舞おうとしたところで悲惨な現実は変わらない。時間が経つほど、楽観は削れ、悲観だけが積もっていく。


 すべてがどうでも良くなって俺は人混みの中を流されるまま歩いた。


(俺の夢って......何だったっけ?)


 改札前。

 ふと視界に飛び込んできたのは、駅構内の壁一面を使った大きなポスターだった。


 ───冒険者募集。

 ───次代の“最強”を、その手に。


 ダンジョン、魔法、武器を構える冒険者達。その中心に、見覚えのある顔があった。


 ミヒャエル・シュナイダー。

 元世界ランク一位。


 かつて、俺が少しだけ足を踏み入れた世界の頂点。そして俺の憧れだった人だ。


 その瞬間、胸の奥に沈んでいた記憶が、音を立てて浮かび上がる。


 初めてダンジョンに入った日の空気。

 武器の重さ。

 魔物を前にした時の、あの高揚と恐怖。


(……そうだ)


 思い出してしまった。


(俺は......世界最強になりたかったのか)


 何かがある状態では無理だっただろうこの無謀な夢を追いかけるのも、全てを失った今の自分だからこそ目指せる。


 そのポスターから視線を離した瞬間、胸の奥がすっと冷えた。

 いや、冷えたというより──余計な迷いが抜け落ちた感じだ。


 やることは、もう決まっている。


(……問題があるとすれば)


 脳裏に浮かぶのは、両親の顔。

 反対される未来が、あまりにも鮮明だ。


(まあ、そうだよな。普通に考えて賛成するわけがない)


 受験全落ち直後に「死ぬかもしれない冒険者になります」なんて言われたら、俺が親でも止める。


 それでも。


 だからといって、ここで引き返す理由にはならない。


 逃げ場のない今だからこそ、胸を張って選べる道がある。


 ──なら、やることは一つだ。


 まずは、両親を説得する。

 話はそれからだ。




 ◆◆◆◆◆


 何やかんやあったが、結果として説得はできた。おかげで気持ちが幾分楽になった。だが、説得中に一つ、それも致命的なことが発覚した。いや、わかっていたことではあるのだが。


 今の俺は───体力が壊滅的にない。


 そりゃそうだ、

 青春全てを捨てて授業が終われば即帰宅、運動と無縁の生活を3年間送ってきた窓際勉強族の鏡だ。そんな生活で体力が勝手に出てくるわけがない。おかげで体力テスト学年最下位だ。

 世界最強を目指していた少年の末路がこれである。


 ......ダメだ、冗談にしてもキツすぎる。これが現実か......



 という現状を踏まえて、冒険者を目指すことを許された代わりに親から出された条件が一つ。



 ───冒険者大学に行く。


 これだった。




 ◆◆◆◆◆


 冒険者大学とは何かを説明する前に、まず「冒険者」とは何か説明する必要があるだろう。


 1968年の秋、突如としてソレが地球上に出現した。大手マスコミは騒ぎ立て、常人ではおかしいと思うような宇宙人侵略説まで出てきた。だが、ソレは公害の影響でも、突貫工事のオブジェでも、ライブハウスでもなかった。強いていうなら宇宙人侵略説が一番近かった。


 ───ダンジョンだった。


 ダンジョンの定義も曖昧だが、とりあえずダンジョンと呼ぶことにした。調査をすると、中には、ファンタジー顔負けの魔物がいる。となれば、話は早い。自衛隊やら米軍やらソビエト赤軍やらが機関銃で直ぐに駆逐するだろう。


 ところが、そう話は簡単じゃなかった。機関銃が効かないのだ。別に操縦士の腕が悪いわけでもなく、品質が悪かったわけじゃない。効果が著しく少ないのだ。機関銃を使ったとてオーガは倒せないし、ミサイルを使ってもドラゴン相手に決定打にならない。そういう次元だ。

 理由は単純だった。


 現代兵器には魔力が一切含まれてなかったのだ。火薬もミサイルにも魔力など当然含まれていない。ただ、当時は誰もそんなことなど知る由もない。


 一方で魔物は、火を操り、雷を放ち、風で吹き飛ばし、土で壁を作る。もはや魔法? いや、魔法そのものだ。このあり得ないほどの銃火器耐性と魔法攻撃で人類は手も足も出なかった。


 ここまで来ると、増税と賄賂ばかりしているお偉いさんも真っ青になりながらお仲間さんと対策を練りだす。だが時すでに遅し、人類は絶滅......にはならなかった。そうじゃなきゃ俺は生きてないからな。話が思わぬ方向に進んだのだ。


 ───冒険者の誕生だ。


 人類の中から魔力を持ち、魔法を扱える者が現れ始めたのだ。それによって戦況は一変し、対ダンジョン戦線は圧倒的不利から人類有利まで逆転する。


 それから数ヶ月が経って、新たな発見が見つかる。


 ───魔石のエネルギー化だ。


 死んだ魔物を解体すると、中には魔石といういわゆる心臓部があった。ただ、正確には生きている間の心臓ではなく、死んだ後の心臓が魔力を豊富に含んだ魔石となる。これを研究した結果、これを特殊に分解すると二酸化炭素など出ない、魔力とエネルギーになるクリーンな資源、と分かった。すると、これを確保するためにダンジョン探索はより進んでいった......


 となる前に一枚噛もうとする人々がいた。民間の冒険者だ。ダンジョン関連を全て独占していた政府に抗議し、ダンジョン探索の自由を提唱。魔石を多く流通させたい政府はこれを了承。これを皮切りにダンジョン産業は一気に拡大する。


 そして───

 エリート冒険者育成機関として設立されたのが冒険者大学、通称:冒大。

 二年制ながら、日本のトップランカーの3割はここ出身。

 冒険者版・東京大学。そういってもいいぐらいだ。



 そこを俺は目指す。

 さっき調べたら締切は偶然今日。昨日だったら詰んでたがな。チャンスがあるなら掴むしかない。


 カタカタカタ......


 申し込み完了、っと。

 よし、対策開始だ。


 まずは、冒険者社会の歴史。とりあえず、勉強から。その次、冒険者社会の時事。知っとくに越したことはない。最後に冒険者組織。各国の有名クランから、魔石流通組織まで。





 一日16時間勉強をして早5日。思ったより時間はなかった、なんて次元じゃない。短すぎなんだよ!!入試対策5日間なんて舐めてる所業だからな!! まあ、仕方がない、もうすぐ2月が終わるんだ。こんな遅くまで願書申し込み日を設定してくれた大学側に感謝だ。


 あとは受けるだけ。




 ◆◆◆◆◆


「試験始めっ!!」


 おー!分かる!分かるぞ!!全てが分かる!!!



 Q.冒険者ギルドの上位組織は何ですか?


 A.世界シーカー協会(World Seekers Association)


 Q.1968年のダンジョン出現時にはナイフでの攻撃では魔物に一切攻撃が効かなかったものの、現代の冒険者にはナイフ使いが存在します。魔力宿りを使わない場合でも、何故現代ではナイフで魔物に攻撃が通るか簡潔に答えなさい。


 A.冒険者用ナイフにはダンジョン由来の鉱石が含まれているため。



 なんだとっ!!!スラスラ解ける!!!


 だが、座学にはダンジョン関連以外も入っている。そう、一般教養だ。

 だけど、問題ない。青春を捨てて勉強に打ち込んだ俺なら満点阻止問題すらも簡単だ......いや、思ったより難しいな......マズイぞ?


 鉛筆の音だけが響く会場に俺の焦りは木霊する。そして......



「試験終了です!!!」


 ふう、何とか終わった。後は野となれ山となれ。今回は結果はまだ分からない。流石にね、ここで落ちてるのが確定したらもう詰んでるよ。




 ◆◆◆◆◆


 それから2週間ぐらい経った、ある日の朝のことだった。

 リビングのテーブルの上に一つに封筒が鎮座している。

 ───そう、試験結果だ。

 高まる興奮が早く中を見ようと僕を急かす。


 ふう......ビリッ!!

 ......よし開いた。これすらできなければ体力不足の次元に収まらないからな。体力面は一安心。


 その前に一旦試験構成について説明しておこう。

 普通の大学で聞かれるような問題の総合教養、体力魔力などの冒険者活動に必須である能力を測る冒険者素養。それぞれ100点でその合計点数、場合によっては片方の点数のみで合不合が決定する。

 では、この5日間という短い時間で冒険者素養をどうやって対策したのか?答えは、


 ───何もしてない、だ。


 それでよく試験に臨んだな、と思うだろう? では結果をお見せしよう。



 ───合格。


「よっしゃ!!!」


 思わずガッツポーズ。

 だが、これだけじゃ合格の秘密は分からないだろう。ということで点数内訳を見せよう。


「総合教養 100点/100点」


 よし!!!これはデカかった!!!

 よく見たら偏差値76だ。よほどの事がないとこんな偏差値は取らないんだけどな......

 これは俺が賢いのか、みんなが馬鹿なのか......多分両方だろう。


 では、皆さんお待ちかねの体力・魔力だ!

 せーの!


「体力・魔力 7点/100点」


 うん......仕方ない。体育で3までしか取ったことないんだ、しょうがない。むしろ、天下の冒険者大学の入試でよくここまで取った。


 とはいえこれだけじゃ偏差値28.3。合計で半分ちょっとじゃ受からない......わけじゃなかったんだよな!!!

 この抜け道に気づいたのは奇跡といっていいだろう。流石神様、たまには話が分かっている。


 よーく合格の条件を見てみると、


 【以下の3条件のうちいずれかを満たしているものは合格とする】


 1.2科目で130点以上を取る

 2.どの科目も60点を下回っていない


 と、その下に、



 3.片方の科目が満点を取る



 ほらね!!総合教養で満点取れば合格なんだよ!!ざまぁ大学!! 受験はルールを読んだ者勝ちなんだよ!!!

 おそらく広報が「体力・魔力で満点を取る」と書き間違えたんだろうが、そんなことは知ったこっちゃない。

 書いてある事が全てだ。


 ありがとう、冒険者大学。

 そして、これからよろしく、冒険者大学。

 正々堂々勝負が出来て嬉しかったよ(※彼はもうおかしいです。ただの抜け道を使っただけです)


 てか、よく見たら合格基準ゆるゆるじゃねえか!!両方とも61点以上取れば合格って簡単じゃね!? あ、もちろん俺は無理だぞ。まともに勉強して冒険者してた奴なら、って条件付きだが。

 天下の冒険者大学にしては随分と門戸を開いているようだ。


 ......ん?

 封筒の中にもう一枚紙が入っているのを見つける。

 とてつもなく嫌な予感がするが、そうでないことを期待して読んでみる。


「来年度の試験合格条件の欄を修正しておきました。学校生活を楽しみにしていてください。 by冒険者大学学長」


 ......やられた!! 期待が外れてくれたらよかったのに!

 この学長、手強いな。まあいい、受かった事実は消えない。あとは退学にさえならなければ大丈夫。


 よし、目をつけられないように最低限の体力はつけよう。




 ───では、特訓の時間だ。

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