第8話 遺跡なのに気分は修学旅行
第8話 遺跡なのに気分は修学旅行
遺跡を少し進んで広間に入った瞬間――
私はなぜかテンションが爆上がりしていた。
「うわっ……! ねえユリオ見て見て! 天井キラキラ! 壁ピカピカ!これ絶対、お宝とかスイッチとか宝箱とかあるやつでしょ!」
「……落ち着け。まだ入口から二十歩しか進んでいない。」
ユリオは相変わらずの冷静沈着っぽい顔をしていたが、
私の小さな歩幅にわざわざ合わせてくれているあたりが優しい。
というか、優しさがダダ漏れで逆に照れる。
(こういうの……無自覚系って言うんだろうなぁ。)
私は壁の模様をぺたぺた触ったり、床をのぞきこんだり、
修学旅行でテンション上がりすぎて先生に止められる子供みたいに楽しくなっていた。
だって遺跡だよ!? ファンタジーだよ!?
本当にRPGの世界だよ!?
そんなテンションのまま壁の紋様に手を近づけると、
ぽわっ。
「ひゃあああああっ!? ひ、光った! 絶対なんかスイッチ踏んだやつでしょこれ!!」
「……落ち着け。ただの魔力反応だ。」
ユリオは何事もなかったように前へ出て、
自然な流れで私を後ろに隠すように立った。
(あれ……守られた……? 今……完全に守られたよね……?)
心がいっきにぽわぽわしてくる。
(え、ちょっとユリオ……さりげなくカッコよくしてくるのやめて……!
心臓が二重跳びしちゃうでしょ……!)
光はすぐに消え、また静けさが戻る。
私は大きく息をついたが、ユリオがふいにこちらを見てきた。
「……楽しそうだな。……怖くはないのか?」
その声が少しだけ低くて優しい。
不意にくる優しさ、やめてほんと。
「え? いや、怖いけど……なんか進まなきゃいけない気がするというか……導かれてる感あるというか……説明しづらいんだけど」
言いながら「あれ、わたし何言ってる?」と自分で不安になる。
ユリオは眉をひそめ、だけど次の瞬間、少しだけ表情を緩めた。
「……なら、いい。無理はするなよ。」
その声がやさしい。
けど恥ずかしくて顔は見られない。
(あーもう! なにその声! 気にしてるけど照れ隠しみたいな声やめてぇ!)
胸がまたぽわっとした。
◆ ◆ ◆
通路を進むほど、雰囲気は一気にホラー方向へ向かった。
「え、待って……さっきのファンタジーきらきら遺跡どこ行ったの?
急に肝試し遺跡編に変わってない?」
「遺跡とは元々こういうものだ。」
ユリオは淡々と言ってるけど、歩くスピードがさっきよりほんの少しだけ速い。
(……これ、絶対ちょっと怖いでしょ。かわいいな……!)
そんなふうに思った瞬間――、ザリッ……ザリ……。
「ひゃぁっ!? い、今の何!? 影!? ゴースト!? 足音!? やっぱ魔物!? いや魔物は嫌!!」
「……落ち着け。風だ。」
「今ので落ち着けって無理じゃない!?わたしの心臓いま五段階ぐらいレベルアップしたよ!?」
わたしの情緒は忙しい。
胸に手を当てながらユリオの背中を見る。
黒髪が揺れ、背中は思ったより広くて、なんか心強い。
(こういうの……ずるいよユリオ……安心感+ちょい照れ要素って……)
すると前を向いたまま、ユリオが言った。
「……前に立つ。何が出ても、俺が守る。」
その言葉は、静かだけど強かった。
「うん。頼りにしてるよ。」
「……そう見せているだけだ。」
照れたように小さく言う。
(なにそれ!! それどういう意味!??強がり×素直じゃない×シャイのコンボは心臓に悪いんだけど!?)
◆ ◆ ◆
やがて通路はふわっと明るくなり、部屋の中央に光の粒がふわふわと舞っていた。
「わぁ……なんか……天の川が迷子になってここに来ちゃったみたい……」
「例えがよくわからん。」
「わたしも今言っててよくわからなくなった。ははは。」
粒子はゆっくり回転し、空気が柔らかく震える。
(この先になんか……すごいのある気がする。)
怖いのにワクワクする。
遺跡なのに気分は修学旅行、いやそれ以上。
胸がどきどきしてるのは怖さか、楽しさか、それとも……隣の黒髪少年のせいか。
「よし……行こう、ユリオ!」
「……ああ」
短い返事だけど、声が少しだけ震えていて――でも優しい。
(あ、これ……緊張してるんだ……わたしと同じなんだ……)
そう思ったら、胸がまたぽわっと温かくなる。
二人は光の粒の部屋へ踏み入れた。
怖くて、でも楽しくて、わくわくして、胸が忙しい。
(いやほんと今日のわたし、情緒のジェットコースターなんだけど!?)
光の粒が道を照らす。
私は思わず笑ってしまった。
ユリオと一緒なら、進める気がする。




