第7話 遺跡
第7話 遺跡
遺跡の入口に入った瞬間――
リリアはまず、隣に立つ少年をじろりと観察した。
(え、ちょっと待って……ユリオくん、暗がりだともっとイケメン寄りになるタイプじゃない?)
茶色見がかった黒髪が遺跡の薄明かりでふわっと揺れ、
目元は涼しげで、なんかこう……「物静かな美少年感」がすごい。
でも、近くで見ると――、
表情がほんのり不安そうで、妙に幼い。
(この……ギャップ……反則では?
怖いのかな……かわい……え、ちょっと落ち着けわたし。)
自分の内心にツッコミを入れつつ、遺跡の冷気を吸い込む。
◆ ◆ ◆
リリアは気持ちを切り替えてこの遺跡みたいなところについて、ユリオに聞いてみることにする。
「ここってどーゆうところなの?」
「なんてことのない普通の遺跡で、奥に記念石っていうのがあるから、それを持って帰ると村長が報酬に何かくれるんだ。食べ物だったり、物だったりさ。まぁ子供達の度胸試しか訓練の意味か、そんなところだね」
小さい子供の度胸試し……、って私か!と思った。
リリアとユリオは、遺跡らしき石の階段をゆっくり降りていった。
ひんやりとした空気が肌を冷やし、遠くで風が細く鳴っている。
遺跡内部は想像以上に暗かった。
壁や床はうっすら光ってはいるものの、雰囲気は完全にホラー系。
「……いや暗くない? ファンタジーってもっとこう……
美術館みたいにライト当たってるものじゃないの?」
「声を落とせ。響く」
「……すみません」
(こんなに響くなら、さっきの独り言とか全部バレてる可能性があるんだけど!?)
足元を照らしてくれた導きの光は階段に入ると同時にしゅんっと消えた。
(ガイドさん!? 職務放棄!?)
心の中で抗議した瞬間、リリアの足が滑る。
「わっ……!? ちょっ……重力ッ!!」
ズザーーッ!! と実に恥ずかしい感じの音が響き渡る。
「だ、大丈夫か!?」
ユリオが驚いて駆け寄り、リリアの手を慌てて掴む。
その焦った表情が、思っていた以上に必死で、胸がちょっとだけ熱くなる。
「……痛いけど大丈夫。ありがとう……情けない初遺跡です……」
「無事なら……よかった」
安堵したユリオの表情は、ほんの少し赤かった。
(これ……照れてる? え、これ照れてるよね?
いや違う? わたしの勘違い? でも耳赤いよ!?)
◆ ◆ ◆
立ち上がったリリアは壁の古い紋様に目を奪われた。
「うわ……なんか遺跡感すごい。こういうの読めたらかっこいいのに……!」
と、感動していたところで、
ぐぅ~~。
洞窟中に、とても元気な音が響き渡った。
「これ、絶対魔獣でしょ。今の音、五メートル級でしょ」
「……腹の音だ」
「……すっっっっごい申し訳ないです。はい……」
(わたしの胃袋の存在感強すぎない!?)
ユリオは小さくため息をつき、腰のポーチを探ると干し肉と硬いパンを取り出した。
「……ほら。食べるといい」
「え、いいの!? えっ、あの、わたし遠慮しないタイプだけど!?」
「知ってる……いや、知ってはないけど……見ていて分かった」
視線をそらすユリオ。
照れなのか気まずいのか分からない、ちょっと可愛い。
リリアはさっそくパンにかじりつく。
「……硬いけど、おいしい!」
「見回りではよく食べる。……慣れれば悪くない」
ユリオの口元が少し緩んでいて、リリアの心もほぐれた。
◆ ◆ ◆
パンを食べつつ歩いていると、ユリオがふいに尋ねた。
「それで……リリア。どうして遺跡へ?」
「金色の光を見たの。
ふわ~って漂ってきて……こっちって言われてるような気がして」
ユリオの黒い瞳が揺れた。
「……君も見たんだな」
「えっ、ユリオも?」
「ああ……遺跡で導きの光が出るのは本当に珍しい。昔から、特別な時にだけ現れるといわれている」
「じゃあ……やっぱり何かあるんだ!」
「……導くとして、どこへだと思う?」
「それは……あの……未知数です!」
(でも未知数って言い方すると強そうに聞こえる。よし。)
ユリオはふっと笑い、そして真剣な目で言った。
「危険な場所だ。普通はひとりで来るものじゃない」
「じゃあ、ユリオ……一緒に行ってくれるの?」
ユリオの耳が再び赤くなる。
「……仕方ない。ほっといたら……たぶん後で後悔する」
(完全に優しいツンデレじゃん……!)
「ありがとう」
リリアはそっと手を差し出す。
ユリオは驚きつつ、ぎこちなく手を握り返した。
その温かさに、胸の奥がじん……と温かくなる。
◆ ◆ ◆
その瞬間、天井の割れ目から――
ふわぁぁ……と金色の光が舞い降りた。
二人の手の隙間を通り抜け、奥の通路へ吸い込まれていく。
「あ……また光った」
「うん。導いてくれてる気がする」
(いや、演出完璧すぎない!?
恋と冒険の始まりですって雰囲気出してくるのやめて!?)
でも――暗い遺跡の中で、胸の奥は不思議と暖かかった。
(分からないことばっかりだけど……
ユリオとなら、怖くないかも。)
二人はゆっくりと遺跡の奥へ歩き出した。
黒髪の少年と、導かれる少女。
その足元に、淡い金色の光がふたたびぽっと灯った。




