第6話 柱の陰
第6話 柱の陰
石柱が並ぶちょっと薄暗い空間。
リリアは足音をなるべく忍ばせながら、一歩一歩を慎重に進んだ。
「……絶対いたよね、あの影……タヌキとかじゃなかったよね……?
え、タヌキってここにいるの? いや絶対違うでしょ……!」
心臓がバクバクする。
それでも足は止まらなかった。
少し先、割れた柱の上で金色の光がふわっと揺れた。
まるで「こっちへおいで」と誘うように。
「……また出た。なんなんだろ、あの光……」
怖いのに、どこか惹かれる。
その淡い輝きに導かれて、リリアは柱の角をそっと覗き込んだ。
そこに――
少年がいた。
柱の陰で布袋を抱えたまま、壁にもたれて休んでいる。
年齢は自分より少し上に見える。
茶色の髪は所々跳ねていて、ちょっと不機嫌そうなのに、どこか線の細い、慎重でシャイな雰囲気が漂っていた。
(わ……なんかちょっとカッコ……いやいや今はそれどころじゃない!)
少年がゆっくり顔を上げた。
目が合った。
ビクッ!
リリアも少年も、同時に体をこわばらせる。
少年はサッと視線をそらし、そしてまた戻し、もじもじしながら一歩だけ近づいてきた。
「……お、お前……だれ……?」
声は低いのに、なんかちょっと震えていた。
強がってるけど、シャイ。
そんな空気が伝わってきてリリアの緊張も少しだけゆるむ。
「わっ、私!? わたしリリア! 危害は加えないよ! たぶん! いや、ほぼゼロで!」
少年は目をパチパチ瞬かせた。
「……へ、変なやつ……」
小声。
ちょっと赤い耳。
シャイ確定。
「君こそ誰なの? ここで……休んでたの?」
少年は返事しようとして――なぜか一瞬固まる。
「お、俺は……その……ユ……いや……」
「ユ?」
「……ユリオだ」
最後だけ小さな声。
自信なさげ。
目線はまたそらされる。
(シャイか! この子シャイな子だ!!)
リリアの心の中で静かにだが強く、ベルが鳴りまくる。
「ユリオ! いい名前! よろしくね!」
「よ、よろしくって……別に……無理に仲良くしなくても……」
(シャイだ……!!)(二回目)
照れてるのか、ユリオは耳の端を赤くしながらリリアを見ないようにしていた。
その瞬間――
ふわぁ……と、金色の光が二人の間を漂い、柱の上へ昇っていく。
「またあの光……」
リリアが見上げると、ユリオもその光をちらりと目で追ったが、すぐにそらした。
「……変なとこだ。光が出たり消えたり……」
「ユリオも見えるんだ?」
「あ、当たり前だろ……」
素っ気ないのに、言い方だけちょっと照れてる。
目が泳いでる。
(ほんとにシャイだ……!)
リリアが笑いをこらえていると、ユリオは少しだけ眉を寄せた。
「……で、お前……ひとりで来たのか?」
「う、うん。気づいたら森にいて、気づいたら迷子で、気づいたら転んでた……」
「転んだのは気づけよ」
「いや、気づいたら転んでたの! 冗談じゃなくて!」
「そ、そうか……」
クスッと小さく笑った。
シャイゆえの、ほんの少しの緩み。
それがリリアには妙に嬉しい。
しかしその直後――
ひゅるるる……と、不気味な風が階段の奥から吹きあがってきた。
石の隙間から、小さな金の光がまたこぼれ出し、階段の方へすうっと消える。
ユリオの表情が固まる。
「……ここは危険だ。長くいる場所じゃない」
「やっぱり!? なんか光すごいもん!」
周囲には依然として光の粒子がただよっているのが見えた。
「俺はもう行く。その……お前も、ついてきたければ……」
視線が宙をさまよい、言いにくそうに――
「い、いい……ぞ」
(ちょっと恥ずかしがってる!? 可愛い!!)
「行く行く! ぜんぜん行く!」
リリアが勢いよく答えると、ユリオは耳まで真っ赤になった。
「べ、別に……嬉しいとかじゃないからな……。ただ……その……危ないだけだ……ここが……」
「うん! 一人怖いから助かる!」
ユリオは恥ずかしそうにそっぽを向き、ぽそっと言った。
「……なら、遅れるなよ」
「が、がんばる!」
「……ほんと、面倒くさいやつ」
口ではそう言いながら、声はどこか優しかった。
二人の頭上を金色の光がふわふわと漂い、まるで道先案内人のように進んでいく。
ユリオがちらりと視線を上げて、
「……行くぞ。あの光の方へ」
「うんっ!」
こうして――
ちょっとシャイなユリオと、ドジで元気なリリアの旅の最初の一歩が、静かに始まった。
導く光はゆっくりと彼らを誘い、
新しい出会いと小さな冒険の始まりを照らし続けていた。




