第5話 さあどうしよう
第5話 さあどうしよう
朝の森は、昨日よりちょっと優しい顔をしていた。鳥たちがチュンチュンと歌い、川のせせらぎが静かに耳をくすぐる。
川のほとりで立ち尽くし、周囲を見渡す。目に映るのは、木々、雑草、そして川。文明の気配? ゼロ。スマホ? ゼロ。Wi-Fi? もちろんゼロ。
気付けばいつも使っていたスマホも持っていなかった。
「この世界、不親切すぎる! チュートリアルもヘルプもないじゃん!」
リリアは両手を振り回しながら叫んだ。
「攻略本もないし、せめて体力ゲージくらい見せてよ!」
でも文句を言っても始まらない。昨日のサバイバル1日目で、それは身にしみていた。
「よし、動こう……生き残るために!」
太陽の位置から北を確認しようとするが、すぐ混乱する。
「え、右が北? 左が東? うわー、方向音痴Lv.100、発動中!」
キョロキョロとしてみたところで、木の枝に頭をゴンッと打ち付けた。
「痛っ! ちょ、朝からこの仕打ち!?」
バタバタしていると草に足を取られ、転びそうになる。
「ひゃあぁぁ!? 転がるな私ー! こんなことを恒例行事にはしたくない!」
……ころんだ。転んだまま空を見上げると、青空が広がっていた。
「はぁ、まあ……泣いても転んでも、進むしかないよね」
気持ちを切りかえて立ち上がり、歩き出すと、視界の端にふと赤いものが目に入った。
「ん? あれ、何か赤い……?」
近づくと、小さな木に赤いちいさな果物が実っていた。見た目は甘そう。
「……えーと、食べてみる? 毒じゃないよね?」
匂いをかぐと少し青臭いけど、悪くはなさそう。
「いっちゃえ!」
パクッと口に入れる。
「……うん、酸っぱい! でもフルーツ感ある! 森のご褒美って感じ?」
小さくガッツポーズを決める。
「よし、ちょっと体力回復……かも!」
リリアは数個だけ実っていた実をパクパクと食べた。
さらに歩くと、遠くに石造りの柱が数本そびえているのを発見した。
「……あれ、人がいた跡!? 文明の匂いがする!」
胸が高鳴りながら近づくと、柱のそばには地下へと続く苔で覆われた古い石の階段がちらりと見えた。
「な、なにこれ……階段!? ちょっと怖いけど近づいてみようかな」
リリアは足を止め、階段をじっと観察する。風が木々を揺らし、ざわざわと不思議な音を立てる。
「……あれ、今、声? それとも風のせい?」
森の奥で、かすかに“金色の光”が揺れた気がした。宙を漂う光の粒が、ちらちらと揺れながら漂っている。
周囲を見わたすと、
「え……!? あれ、なにかいる?」
ふと、別の柱の陰に小さな影がチラリと見えた。人か……それとも、森の動物? いや、動き方が妙に人間っぽい……?
心臓がドキドキする。怖い……でも、ワクワクする。
「さあ、どうしようか……決まってる。進むだけよ!」
リリアは小さく拳を握り、チラリと見えた何かに向かって、ふんすと息まきながらも慎重に近づくことにした。
昨日とは違う、少し自信の混じった足取りで進む。
「方向音痴Lv.100でも、なんとかなるって信じたいよね!」
柱の陰で、光の粒がふわりと揺れ、風に消えかける。リリアは知らずに、次の出会いの予感を胸に歩き出す。




