第23話 光に飲まれる瞬間
第23話 光に飲まれる瞬間
――白い。
視界が全部、白に飲まれた。
え……どこ……? さっきまで、村で……魔獣が……。
音も消えた。風も、魔獣の咆哮も、ユリオの声も。
ただ、わたしの右手だけが、
脈を打つようにドクン、ドクンと光っていた。
白い空間の中で、光の粒がふわふわと漂っている。
ここ……どこ?
手を伸ばして光の粒に触れてみるとパチッ!っと弾ける。
そのとき、どこからか さざ波のような声が聞こえた。
――き……こえる……?
――ひ……かり……めざめ……
聞き取れない。けれど、なぜか懐かしいような、不思議な感覚。
紋様が呼応するように揺れ、わたしの胸に響いてくる。
やめて……怖い……でも、逃げちゃ……。
「リリア!!」
ユリオの声が、遠くから響いてきた。
その瞬間、白がぱっと弾け――わたしは現実へ引き戻された。
◆ ◆ ◆
「リリア! しっかりして!」
ユリオの顔が目の前にあった。
息が切れていて、でも必死でわたしを支えている。
「ごめ……ん……わたし……光に……」
説明しようとしても言葉にならない。
だって――現実のほうが、もっと衝撃的だったから。
◆ ◆ ◆
巨大な魔獣が目の前にいた。
四本の足の一本だけで家の屋根くらいの大きさがある。
黒い結晶が背から突き出し、全身から瘴気が滲み出ていた。
赤い目は、怒りと苦しみでねじ曲がっている。
……これ……倒すの……?
正直、膝が笑いそうだった。
◆ ◆ ◆
魔獣が吠えた。
――グオオオオッ!!
その咆哮だけで、村の結界がバリッ!と破れた。
かろうじて村の結界は残っているようだった。
「結界が!」
「もうもたん、下がれ!!」
魔術師のおばあさんが杖を握り、顔を青ざめさせる。
冒険者たちが攻撃魔法を放つが――
「っ……消える!?」
「瘴気が濃すぎるんじゃ!」
魔法が近づいた瞬間、黒い霧に飲まれて消えてしまった。
(……え、これ……無理ゲーでは?)
でも泣いてる余裕はなかった。
◆ ◆ ◆
魔獣が地面を蹴る。
ドガァン!!!
村が揺れ、地面に亀裂が走る。
「リリア、逃げ――」
「……逃げないよ」
怖かった。本当に怖かった。
でも、胸の奥がそれ以上に、強く熱く震えていた。
(守りたい。……絶対に)
その瞬間――右手の紋様が弾けた。
◆ ◆ ◆
光が、吹き出した。
「……っ!?」
わたしの小さな体から、信じられないほど強い光が周囲に広がる。
風が巻き、
瘴気がギャッ!と悲鳴を上げるみたいに弾け飛び、
村全体を包むように光が溢れ出ている。
「リ、リリアの光が……瘴気を……!」
「浄化してる……!? そんな……!」
地面の黒ずみが薄れ、空気が澄んでいく。
(これ……わたしが……?)
驚く暇もなく、魔獣が突進してきた。
◆ ◆ ◆
「リリア!! 危ない!」
ユリオが飛び出そうとする。
でも、わたしの体が先に動いた。
(守れる……!)
右手を前に突き出すと――
バシュッ!!
矢のような光が走り、魔獣の前足に突き刺さった。
「効いてる……!」
「リリア、すごいよ!」
魔獣が体勢を崩す。
ユリオが横から斬りかかり、注意を逸らす。
「リリア、次くるよ!!」
「分かってる!」
魔獣が跳びかかる。
その瞬間――
(守る!)
右手の前に、
透明な光の壁がバッと展開された。
魔獣の巨体がぶつかり、
ガァン!!と大きな衝撃波が走る。
けど、光の壁は割れない。
「リリア、今の……!?」
「わ、分からないけど……できた!」
(わたし……こんなこと……できたんだ……!)
◆ ◆ ◆
光の壁が消えると同時に、
魔獣がよたよたと後退した。
「今だよ、リリア!!」
「……うん!!」
右手を魔獣の胸へ向ける。
(お願い……!)
光が集まり、ひとつの紋の線になって放たれる。
――パリンッ!
魔獣の胸にあった黒い結晶が砕けた。
瘴気がシュウ、っと霧のように散っていく。
巨体はどさり、と崩れ落ち、
もう赤い目ではなく、苦しさから解放された穏やかな色に戻っていた。
「倒した……?」
「……リリアが、浄化したんだ……」
村人たちの息が止まり、そして――
ゆっくりと歓声が上がり始めた。
◆ ◆ ◆
「リリア、大丈夫!?」
駆け寄ってきたユリオに支えられ、
わたしはふらりと膝が折れそうになる。
「ちょっと……疲れた……」
右手を見ると、紋様が形を変えていた。
(また……?)
胸の奥に残る感覚は、熱くて、暖かい。
だけど同時に――なにか大きな気配が、まだ森に残っている気がした。
遠い森の奥で、風が低くうなった。
(わたし……何を呼び起こしてるの……?)
答えはまだ分からない。
けれど――戦いは、まだ始まったばかりだった。




