第17話 ゆらぐ森とはじめての依頼
第17話 ゆらぐ森とはじめての依頼
まぶたの裏がほんのり明るい。
……どうやら朝だ。
(ユリオの家で朝を迎えるなんて、転生二日目にしてイベント感すごくない?)
ぎゅっと伸びをして布団から起き上がると、外からは村の喧騒が少しだけ聞こえてきた。
昨日のスープのいい香りがまだ残っていて、なんだか落ち着く。
「おはよう、リリア。よく眠れたか?」
外からユリオが顔を覗かせた。朝の光を浴びた笑顔が爽やかすぎる。
「う、うん……。ユリオの家、なんか落ち着くね」
「そうか? 何もない家だけどな」
(いやいや、落ち着く理由はユリオの優しさだよ……とは言えない)
靴を履いて外に出た瞬間、わたしは空気の違和感に気づいた。
「……なんか、村がざわざわしてない?」
「うん。朝から魔獣の話が多くてね。森の浅い場所でまた目撃されたらしい」
昨日よりも近い場所。
村の人々の会話の端々から、不安がにじみ出ていた。
「ユリオ! 来てくれ!」
慌ただしい村人が駆け寄ってきた。
「村長さんがお前たちを呼んでる!」
「あ、わたしも?」
「もちろん!」
(絶対いい話じゃないやつだよ思う……)
◆ ◆ ◆
村長の家へ行くと、村長は眉間にシワを寄せて待っていた。
「昨日はご苦労だったね、二人とも」
「いえ……そんな……」
とお腹が鳴りそうなのをこらえながら頭を下げる。
「さっそく本題なのだが……旧遺跡周辺の様子がおかしい。魔獣があの方向から逃げ出してきているようなのだ」
その言葉だけで背筋がぞわっとした。
「つまり……?」
「うむ。旧遺跡の入口だけでよい。様子を見てきてほしい」
「えっ」
リリアの脳内に危険アラートが鳴り響く。
(昨日浅い遺跡であれだけ大騒ぎしたのに!? 旧遺跡って絶対もっとヤバいでしょ!?)
でも隣のユリオが、落ち着いた顔で小さく頷いた。
「分かりました。行ってきます」
わたしも、自然に頷いていた。
「わ、わたしも行く。昨日だって……なんだかんだできたし。少しは役に立てると思う」
村長は安心したように微笑んだ。
「危ないと感じたら、すぐ戻りなさい。それだけ守れば十分だ」
◆ ◆ ◆
旧遺跡へ向かう準備をしていると、村の人たちが自然と手伝ってくれた。
「リリアちゃん、これ持って行きな」
おばさんが、香ばしいかおりのする焼きたてのパンを渡してくれた。
パン屋さんのおばさんらしい。ユリオが代わりにお礼を言ってくれている。
「盾は重くて無理だろう。こっちはどうだ?」
鍛冶屋の親父さんは古い小盾を見せてくれたが――
「重っ!! む、ムリです~!」
「はっはっは! じゃあ布袋だけ持ってきな!」
村全体のみんなで行かせる感がなんだか心にしみた。
「リリア、大丈夫か?」
「う、うん! 大丈夫……たぶん!」
(気持ちは大丈夫だけど心はちょっとHP削れてる)
◆ ◆ ◆
村を離れ、昨日いたところとは逆側の森の奥へと歩いていく。
昨日通った道とは雰囲気がまったく違う。
「……静かすぎない?」
「うん。いつもは鳥の声がするんだけど」
地面を見ると、小さな魔獣の足跡が村へ向かって走っている。
「逃げてる……のかな?」
「たぶん。魔獣がなにかから逃げるなんて滅多にないんだけど」
(なにか、ってなんですか……やめてよ怖いなぁ……)
息を飲みながら進むと、ついに視界に巨大な石柱が見えてきた。
◆ ◆ ◆
そこが、旧遺跡の入口だった。
「……なんか、思ってたより怖いんだけど!?」
崩れかけの石碑。ひび割れた壁。
足元には大きなひっかき傷。
木々が不自然に倒れている。
「ここだけ……空気が違う」
ユリオがそう言った瞬間――
右手が、じんわりと熱を持った。
「っ……」
「リリア、大丈夫!?」
「う、うん……なんか、手があつ……」
光りそうで光らない。
脈打つような感覚だけが手のひらを走る。
「今日はここまでだ。これ以上は危ない」
「う、うん!! 完全に同意!!」
二人で引き返そうとしたそのとき。
森の奥から風が吹き抜け――
「ギギ……ギギ……ギィィ……」
聞いたことのない、不気味な鳴き声が響いた。
「な、なに今の……!!?」
「分からない。でも、戻ろう!」
二人は急ぎ足で村へ戻った。
◆ ◆ ◆
村長に報告すると、村長の顔が一気に強張った。
「封印が……弱まっているのかもしれん」
(封印? 弱まる? ちょっと待って、そんなホラー展開聞いてない!)
村人たちの間にも緊張が走り、空気がずしんと重くなる。
「リリア、怖いだろ? 今日はもう休もう」
ユリオが優しく声をかけてくれる。
「……ありがとう」
◆ ◆ ◆
その夜。
ユリオの家で布団に包まりながら、右手を胸に当てる。
(わたし……この力に向き合わなきゃいけないのかな。昨日みたいに、誰かを守れるなら……)
そう思いかけたとき――
「ウォォォォォ……!」
森の奥から、低く震えるような咆哮が微かに響いた。
「っ!? な、なに……!」
村全体がピタリと静まり返る。
……何かが動き出す。そんな気がした。
リリアは小さく息を飲み、窓の外の闇を見つめた。




