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転生少女リリアの魔法の旅  作者: amya
2章

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第16話 初めての村

第16話 初めての村


 遺跡の出口から差し込むオレンジ色の光が、緊張に縮こまっていた体をふっと緩ませてくれた。


「はぁぁぁ……生き返った……!」


わたしは地面に手をつき、大げさでもなんでもなく本気のため息を吐いた。魔法弾の嵐、妙に凶暴なハムスター魔獣たち……初冒険でこれは難易度高すぎる。


「そんなに疲れたか?」

横のユリオが苦笑している。


「疲れたよ!! 怖かったよ!! 心のHPはもう残り1!!」

「でも、ちゃんと倒してただろ。光も出てたし」


「いやあれはほぼ偶然だから! 泣きながら撃っただけだから!!」

言いながらも、少しだけ胸の奥がふわっと温かくなる。褒められ慣れてないせいか、照れくさいけど嬉しい。


「ねぇ……お腹が空いて動けない……何か食べたい」

「う~ん。そうだなぁ。手持ちの食べ物は無いし、俺の村に行くか?」


「行く!! 即決!!」

もしかして、この世界で好きな言葉ランキング1位は「ご飯」かもしれない。


 


◆ ◆ ◆


 


 森を抜けて村へ向かう道を歩く。木漏れ日の間から見える家並みに、胸がそわそわした。

転生してからバタバタしていたけど、ユリオに出会えてよかった。


「村あったんだぁ~」

「そういえば、リリアのこと村のみんなに伝えるからね」


「伝えるって、何を?」

「森で出会った迷子の女の子って。……実際そうだし」


「う……確かに。否定はできない……」

転生なんて言っても信じてもらえるわけないし、そもそも自分でもまだ整理できてない。

でも、ユリオが隣にいると、不思議と心が軽くなる。


そうこうしているうちに村の入り口に到着した。

「おお、ユリオ帰ってきたか!」

見張りのオジサンが嬉しそうに手を振る。


「怪我はないか?」


「怪我はないけど心のダメージは大きいです! でも元気です!」

ユリオの返事に村人は苦笑した。


「どういう状態なんだそれは……」

村の人たちの明るい笑い声が、じんわり嬉しい。とリリアは思った。


「ところでその子はどこの子だい?」

「森で出会ったんです。迷子らしいです」


「あ~そうなんだ。大変だったねぇ~。この森はたまに迷子の人が現れるんだよな。記憶がないとか。お嬢さんもその感じかい?」


他にも似たような人がいることに、リリアは少し驚いた。

(転生のバーゲンセールかな?)と内心思う。


 


◆ ◆ ◆


 


 村長の家に行き、遺跡の記念石を渡すと、村長は目を細めて頷いた。


「今日は遺跡に行っていたのか」


ユリオが村長へ簡単にいきさつを説明する。

わたしは何か食べ物をいただけないか……と思いながら、ぼんやり話が終わるのを待っていた。


「リリア、これが今日の遺跡の記念石の報酬だったよ」

ユリオはそう言って、布袋に入った銀貨と、干し肉・蜂蜜・ジャムなどを渡してくれた。

「わあ……! 異世界で初のお給料……!」


ほっぺが緩むのを止められない。


「それから――そちらがリリアか。森で見つかったんだってね」


「はい……記憶もあまりなくて。ご迷惑かけるかもしれませんが……」

「困ったらすぐ言いなさい。ここは小さな村だが、人の手の温かさだけは大きいからね」


胸の奥がじんとした。

こんなふうに受け入れてくれるなんて。


 


◆ ◆ ◆


 


「じゃ、うちに行って何か食べよう!」

「やったー!」


体の幼さに気持ちが引っ張られているのか、無邪気な返事が出てしまい、少し恥ずかしくなるリリアだった。


ユリオに案内され、村の端にある小さな木の家へ向かう。


「ここ……ユリオの家?」

「うん。まあ……誰もいないけどね」


「誰もいない……?」

思わず訊ねると、ユリオは少し戸惑った顔で視線を落とした。


「リリアには……まだ言ってなかったけど。

俺、小さい頃の記憶がほとんどないんだ。気づいたら森の中で倒れていて……村の人たちが助けてくれた」


空気が一瞬だけ静かになる。


「それからずっとここで生活してる。両親とどこで暮らしていたのかも、分からないんだ」

「……ユリオ……」


「でも、村の人達が少しずつ世話してくれてさ。

 ご飯も、日替わりで誰かが置いていってくれる。だから誰の家でもないけど、いまは俺の家なんだ」

その言い方が、なんだかすごくユリオらしかった。


「今日はパン屋のおばさんがスープを置いていってくれた日だ。温めるね」

鍋が火にかけられる。

ぐつぐつとスープが温まる音が、妙に心に沁みる。


ユリオに何て声をかけたらよいのか分からないリリアだった。


 


◆ ◆ ◆


「いただきますっ!」

スープを口に入れた瞬間――

「……天国の味がする……!!」

「大げさだって」


「いや違う! 生きてて良かったって思う味!!」


ユリオは笑いながら、少し安心したように肩を落とした。


お腹が落ち着いた頃、二人で家の前に出た。

夜風がとても気持ちいい。


「……さっきの紋様。やっぱり、リリアの力だと思うんだ」

ユリオが静かに言った。


「わたし、あれ……全然制御できてないんだよ。……でも、ユリオを守ろうとして光った。だから悪いものじゃないとは思うんだよね。」

ユリオに聞かれて、リリアは胸の奥がぽっと熱くなった。


「……これからも、助けてくれる……かな?」


ユリオは、軽く冗談めかして言いつつも、視線がすっと横にそれて、耳の先がほんのり赤く染まっている。

(完全に本気で聞いてるときの声だ……!)


リリアは思わず笑みがこぼれた。

「もちろんいいわよ!」

胸をふんすと張って答えると、ユリオはかすかに息を飲んで、小さくうなずいた。


「……そ、そうか。なら……よかった。」

その言い方が、どこかほっとしていて、

でも少し照れていて——

リリアの胸もあたたかくなるのだった。


◆ ◆ ◆


 


 村広場に戻ると、ざわざわした空気が漂っていた。


「魔獣が出たらしいぞ」

「最近、妙に凶暴だ」

「森の手前で見たって人もいる……」

寒気が背中を走る。


「浅い遺跡の魔獣でもあれなのに、もっと近くって……!」

と村人が言っていた。


あのかわいいやつのこと?ひっくり返っていたあれのこと?

凶暴だったけど強いのか弱いのかはリリアには分からなかった。

(あれも元々は穏やかなのかも……)とリリアは思った。


村長が険しい顔で冒険者風の人たちに指示している。


「旧遺跡の魔力が漏れてるって噂もある。……本格的に変だ」

ユリオの声が低い。


その瞬間、わたしの右手が、またじんわりと熱を帯びた。


 


◆ ◆ ◆


 


夜。ユリオの家で借りた布団に入り、天井を見上げる。


(男の子の一人暮らしの家でお泊まりって……異世界転生なかなかハードね)

とリリアは思った。


今日は初めての遺跡。

初めての報酬。

そして――初めての村……男の子のうちにお泊まり。


変なことを考えて顔が赤くなるリリアだった。


右手を持ち上げて見つめる。紋様は出ていない。でも、何かが胸の奥でわだかまりとなっている。


「……ほんとうになんなんだろう……。それに、あのハムスターみたいなのは優しい種類なら飼えるかな」

と、不安ななかで、どうでもいいことを考えているリリアだった。


浅い遺跡はいつもと違うと言っていた。

ここから先に、もっと大きな何かがあるのか。


風が小さく窓を鳴らし、明日の冒険を予告するみたいだった。



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