第15話 浅い遺跡、でも油断大敵!
第15話 浅い遺跡、でも油断大敵!
石段を下りきった先にたどり着くと、ひんやりとした空気が肌を撫でた。ひとつ深呼吸すると、胸の奥がドクンドクンと暴れて落ち着かない。
「ねぇユリオ、この遺跡ってどれくらいの広さなの?」
「え! もう序盤のあたりで俺の知っている遺跡ではなくなっているよ。いつもは浅い遺跡で危険もほぼ無いし」
おそろしいことをサラッと言い出されて驚愕した。早く言ってよ。この状況かなりマズいんじゃない!?私は目を大きく開いてユリオを見ることしかできなかった。
「リリア、大丈夫か?」
ユリオが心配そうにのぞき込んでくる。魔力反応でほのかに光る壁が揺れ、幼い顔をやさしく照らす。ちょっと天然だが憎めない感じがズルい。
「だ、だいじょうぶ! ちょっと緊張してるだけだから!」
「……顔、ひきつってるぞ」
「ひきつってません!! ちょっと筋肉が勝手に笑ってるだけ!」
ピキッ、と変な音がした。多分わたしの顔のどこかが限界を超えつつあるみたい。
◆ ◆ ◆
通路の壁には古い模様がぐるりと刻まれている。
歴史を感じる……けど、その歴史が今にも動き出して襲ってきそうな雰囲気もある。
浅い遺跡って言った人、出てきて?
「でも、この遺跡、まだ入り口付近だし、そんなに深くないって聞いたぞ。村の人も軽い探索用だよ〜って言ってたし」
ユリオはのんびり笑っているけど、絶対ちがうと思う。
「ふ、不安ワード詰め合わせしないでよね!? “軽い”とか“入り口付近”とか、そういう油断系の言葉が一番危ないんだってばぁ!」
通路は広めで天井も高い。閉塞感はない。
――そう思った矢先。
「リリア、気をつけろ」
ユリオがふっと腕を伸ばして立ち止まった。
「え、何か――うわっ!!?」
踏んだ石がガコンと沈み、床の模様が一気に光りだす。
あ、これ完全にヤバいスイッチ。
次の瞬間、前方の壁の隙間から小さな光弾がビュンビュン飛び出してきた!
「ちょっ、なんで罠あるの!? 浅い遺跡って聞いたのに!? 浅いの基準どこよ!!」
「リリア、右!」
「分かってるんだけど全然避けられない!!」
ビュンッ。
スカートの裾が焦げた。
「ぎゃーーーっ! これ気に入ってるのに~!!」
ほぼパニックで右手に力を込める。
手の甲に、一瞬だけ光の紋様がふっと浮かび、光球が出現した。
「えいっ!!」
勢いだけで放った光球は、なぜか完璧な軌道で装置の突起に命中。
バシュンッ!
発射が停止した。
「す、すごいぞリリア! 一発で……」
「いや今の偶然だから!? ほぼ泣き撃ちだよ!? 狙ってないよ!?」
「でも、紋様が光ったよな。前にもあったやつ」
ユリオがわたしの右手を見る。
紋様――たまに気まぐれに光る、正体不明のマイ魔法。
「これもう、わたしより紋様のほうが優秀なんじゃ……?」
罠が静まり、ようやく落ち着きを取り戻す。
進むと、部屋のように広い空間へ出た。
中央の台座のまわりを、丸っこい小型の魔獣がうろうろしている。
「……浅い遺跡なのに魔獣いるんだけど……」
「小さいし、危険度は低いはずだよ」
見た目はコロコロしてハムスターっぽい。かわいい。
……が。
「キシャアアアアッ!!」
鳴き声がホラー。
「嘘でしょ!? 見た目とのギャップどーなってるの!!」
「くるぞ!」
小魔獣たちがいっせいに飛びかかってくる。
ユリオは短剣で次々弾き返す。
「リリア、後ろ!」
「う、うん!!」
わたしも後ろから来る一匹に手を向ける――が、その瞬間。
「キシャアッ!」
「きゃっ!? 速い近い近い近い!! 待ってまだ心の準備が!!」
飛びついてくる小型の魔獣。
わたしは半泣きになりながら、心の中で叫ぶ。
光れ!! 右手、お願いだから今仕事して!!
――ぽん、と右手が光った。
「ナイス!!」
放たれた小さな光が魔獣の額に命中。
小型の魔獣がコテンと倒れる。
「ふぅ……危なかった……。ねぇユリオ、わたし戦闘向いてない気がする……」
「そんなことはない。今の反応、すごく良かったぞ」
「いやいやいや、偶然だから!! たまたまで生き延びた感じだから!!」
なんだかんだで戦闘は終わり、台座の方に向かってみる。
中央には、青い結晶がちょこんと置かれていた。
「これだ。浅い遺跡の“記念石”だな」
「これ持って帰ればクリアってこと?」
「ああ。探索証明になるんだってさ」
思ったより順調に進んで、ほっと胸をなでおろす。
結晶をそっと手に取ると、ふわっと光の粒子が広がった。
「わ、きれい……」
「これで村に報告できるな。今日はよく頑張った」
ユリオがやさしく笑う。
その笑顔がやけに眩しい。
「……うん、ありがと。ユリオがいてよかったよ」
胸の奥がぽかっと温かくなる。
初めての遺跡、怖かったけど、一緒なら何とかなる気がした。
帰り道、そっと右手を見ると、紋様はもう消えていた。
「ねぇユリオ。わたしの右手って、やっぱり変?」
「変じゃない。リリアの大事な力だ」
その言葉が、どうしようもなく心強かった。
浅い遺跡をクリアした。
でも胸の中では、これからの冒険がもっと楽しみになっていた。




