第14話 封印の間と、ちょっと暴走する右手
第14話 封印の間と、ちょっと暴走する右手
神殿の奥へ進むと、空気が変わった。
ひんやりしてるのに、胸の奥だけがずっとぽかぽか熱い。
右手の紋様が、じわ、じわ、と脈打っている気がする。
(ねえ……落ち着いて? 今暴れだされると困るんだけど?)
「リリア、また顔が変だぞ。緊張しすぎだ」
後ろからユリオが小声で言ってくる。
「いや、変になってるのは私じゃなくて右手……いや私も変かもしれない……でも違うの!」
自分で何を言ってるのかよくわからない。
ユリオは「……そうか」とだけ答えた。雑な返事だけど優しさを不思議と感じる。
やがて、巨大な扉の前にたどり着いた。
真ん中には――あからさまに“右手の形”の紋様が刻まれている。
「これ、絶対私の手じゃん……サイズ感も雰囲気も一致してる……やだ……」
「当てはまるのは事実だろう。やってみてよ」
ユリオもノリノリで勧めてきた。
この状況に慣れてきたのかな。やるの!?やるんだ!?私が!?
「……やるけど……文句は言うからね?」
ビビりながら右手を近づける。
ぴかっ――!
「わぁっ!? 反応した!?」
紋様が一瞬光り、扉も同時に光を帯びた。
しかし――
カンッ。
「痛ッ!? 跳ね返された!? なんで!?」
「……魔力が足りないのかもしれん」
ユリオが真剣に扉を観察する。
その横で、私は右手に抗議する。
「ちょっと! がんばって! 光るだけじゃ足りないんだよ!」
右手:ピッ。(かすかに光る)
「いやその“ちょっと反応してますよ”みたいな態度やめて!」
「……お前、手に喧嘩売るのやめろよ。変だぞ。」
ユリオが苦笑いした。でも絶妙に笑ってないのが悔しい。
と、突然――
部屋の光がふっと変わった。
「え、何? 今の嫌な予感しかしない!」
足元の紋様が淡く光り、空中に丸い球体のようなものがふよふよ出現した。
目がないのに、こっち見てる感じがする。
「ちょっと待って、かわいい感じじゃないタイプの浮遊物だこれ!」
「守護兵器か……気をつけろ!」
ユリオが剣を構えると、球体がぶんっと飛んできた。
「きゃーーーっ!? 近っ!?」
私たちは慌てて左右に散る。
次から次へと、さらに球体が出てくる。
「え? 増えるの!? ねえ、私は聞いてない!」
「俺も聞いてない!」
三つ、四つ、五つ……と増えていく。
「ユリオ、どうするのこれ!?」
「どうするって……どうにも……!」
「どうにもって言った!? 戦って!?」
「数が多すぎるよ!」
「ひえぇぇぇ!」
私は逃げ回りながら右手をぶんぶん振る。
(右手! 今だよ! 何とかして~~!)
――ピカッー!
「えっ、うそ、ほんとに!?」
右手の紋様が突然大きく光り、
衝撃波のような光がドーン!と走った。
球体が勢いよく吹っ飛び、壁にぶつかっていく。
「す、すご……! 今の私!? いや右手!? え、なに!? バグ!?」
「なんでもいい。助かった」
ユリオが安堵の表情を見せるが、すぐに次の球体が迫ってくる。
「きゃー! 来た来た来た! 右手、次は!?」
右手:ピッ(微光)
「弱ッ!? なんで急にやる気なくすの!?」
「……気まぐれか?」
「手が気まぐれって何!?」
しかし、逃げながらユリオの腕をつかんだ瞬間――
右手の紋様が、前とは比べものにならないほど強く光った。
「うわっ!? なにこれ、あっつ!」
扉の紋様が呼応し、青白い光が広間いっぱいに広がる。
「リリア……今の、“感情”に反応したのか?」
「えっ……えっ!? やめて恥ずかしいんだけど!?」
そんなこと言われたら意識してしまうじゃないか。
いや、ちょっと照れた。認めないけど照れた。
耳まで熱くなる私をよそに、扉は重く動き出した。
ゴゴゴゴゴ……
「開いた……!?」
「……やったな」
中は真っ暗。
でも、不思議と恐怖よりワクワクが勝つ。
その瞬間――
頭の中に声が響いた。
――継承者……試練……目覚メ……。
「ひぃっ!? なに今の!?」
「リリア!? どうした!」
「声がした! 脳に直接! 絶対ホラーじゃない!?」
ユリオには聞こえていないらしい。
真剣な表情で私を支える。
「落ち着け。……でも危険な類じゃなさそうだな」
「いや! こっちは怖いのよぉ!」
すると、暗闇の奥から祭壇が淡く光り出した。
床に浮かび上がる巨大な魔方陣。
右手の紋様がびしっと光る。
「ねえ! わたし触ってないよ!? 勝手に起動したからね!?」
「……もう進むしかなさそうだ」
ユリオの声が静かに響く。
魔方陣が輝き、次の階層へ続く階段が姿を現した。
横にも奥にも広い大きな階段に私はごくりと息を飲んだ。
(怖い……でも、もっと知りたい……!)
「……行くよ、ユリオ」
「もちろんだ」
二人は階段へ足を踏み出す。
試練という名の新しいトラブルが待つ場所へ――。




