第13話 光る右手と、未知の神殿
第13話 光る右手と、未知の神殿
ぽかぽか――じゃなくて、なんかワクワクしている。
怖いけど、それ以上に冒険の香りが甘いキャンディみたいに誘惑してくる。
(甘くはないけど、ドキドキはする)
「……緊張してるのか。怖いなら戻るか?」
ユリオの真面目ボイスが、背後から落ち着いて響いた。
「いや……怖いんだけど、なんか行けって言われてる気がするんだよね」
自分でもよくわからない。でも、前に進みたい気持ちが強く湧いてくる。
通路を抜けた先は、半円形の広間だった。
壁一面に古代文字が浮かび、淡く光りながらウィンクしてくるみたいに明滅している。
中央には、何かを置くためだけに存在しているような、ぽつんとした台座。
……なんだろう、この謎のワクワク感。
「見て、あそこ!」
台座に引き寄せられるみたいに私は歩き出す。
ユリオは剣を握ったまま、眉間に深いしわを作って周囲を警戒している。
「おいっ不用意に触らないようにな!」
「えっ!」
台座に右手を近づけた、その瞬間――
ぱちっ、と紋様が小さく光った。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと私の手!? 今光った!?」
自分の悲鳴に自分でびっくりした。
すると、さっき拾った球体の魔道具がふわりと浮き、
台座へスルンと吸い込まれていく。
「なんでスルンって勝手に!?」
「いや、スルンって可愛い擬音にするな」
ユリオは冷静にツッコミを入れながらも、鋭い目で周囲の警戒を続けている。
この人、緊張しながらでもツッコめるんだ……器用だな。
球体が台座の上部に収まると、控えめに『ぽんっ』と音を立てた。
「かわいい音……?」
口に出した瞬間、ユリオがじっと私を見る。
(やめて、笑わないで。今、かわいさと危険が同居してるんだから!)
球体がくるくる回転し始める。
壁の古代文字に光が走り、天井にも模様が広がっていく。
やがて巨大な地図のような映像が広間全体に浮かび上がった。
……知らない場所の地図だった。
その時、右手の紋様がチカッと一瞬光る。
「い、今の見た!?」
「リリア、おまえ……今……?」
ユリオが目を見開く。
私は慌てて手を隠しつつ、
「わ、わたしじゃない……かも……?」
と誤魔化した。けど、胸は高鳴ってる。
(怖いより……ワクワクの方が強いかもしれない)
その瞬間――
光の地図が急に明滅を始めた。
壁の文字がチカチカ点滅する。
「ちょっ、ちょっと待って! これ絶対良くないやつだよね!?」
私が叫ぶと同時に、ユリオが腕をつかむ。
「動くな、落ち着け!」
「落ち着いてたらもう逃げてるってば!」
叫んでる間に、台座の下の床一面がごごごっと動き始めた。
ゆっくり浮き上がっていく。
「えっ!?こっ!こいつ動くぞ!」
ユリオもびっくりしたようだ。なんか変な言い回しになっている。
「浮いてる!? 私まだ何もしてないよね!?」
センサーか何かなのかな?
「……自動で移動する仕組みなのかもな」
「ありがとう! でも今はそれどころじゃないよ!」
ガコンッ!!
床が急に下へ落ちた。
反射的にユリオに抱きつく形になる。
「きゃああああああムリー!死ぬ~!?」
「死なない!……多分!」
多分!?。
多分とか言われると怖さ倍増なんですけど!?
下降の途中、右手の紋様がぼんやりと光り、
ふわっと体が軽くなるような感覚が走る。
(え……これ、助けてる? 私の手……え、便利機能ついてる?)
ユリオは気づいてるようだが、あえて何も言わない。
(優しさ? それとも判断保留? どっち!?)
やがて床が静かに止まり、二人は足を着いた。
そこは青白い光に照らされた、静謐な神殿だった。
空気が変わっている。
静かなのに、胸の奥が勝手に高鳴る。
奥には巨大な扉。
その中央には――右手型の紋様。
私の右手の、それと似ている。
「……呼ばれてる気がする」
自然と声が出た。
ユリオが真っ直ぐに私を見る。
「……行くのか」
私は大きく息を吸い込む。
「うん。だって、面白そうだもん」
怖い。でも、ワクワクがそれを押し倒してくる。
ユリオはほんの少し微笑んで頷いた。
「……なら、俺もついていく」
光に満ちた神殿の奥へ、二人は足を踏み出した。
未知の力と古代の秘密が眠る場所へ――。




