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達人傭兵『マーセナリィ』たちの夜  作者: 塩野さち


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第3話 マーセナリィの他メンバー

 『マーセナリィ』は、ただの寄せ集めではない。夜を狩るために集められた、精鋭の傭兵部隊だ。


 俺と加藤のようなスピードに特化した速攻型だけでなく、戦況を覆すほどの力を持つ重装のパワータイプや、戦闘そのものを有利に進めるための補助支援を担う職種もそろっている。


 その夜、俺たちが拠点に戻ると、すでに仲間たちは次の任務に向けた準備を始めていた。


「よォ、戻ったか、スピードバカども」


 重々しい声が拠点に響く。声の主はオーグ・ヴァイゼル。身の丈を超えるほどの大斧を片手で軽々と振り回し、『悪魔』の群れごと吹き飛ばす、歩く狂戦車だ。その全身を分厚い金属板で覆った姿は、重量型というより、もはや『動く拷問器具』と呼ぶ方がしっくりくる。


「おいおい、こっちは繊細な仕事してんだ。まとめて潰すだけのお前と一緒にすんなよ」


 加藤がニヤつきながら応じると、今度は長髪を三つ編みにした女が、呆れたように口を挟んだ。


「その『繊細さ』で周囲に飛沫飛ばしてんじゃねーよ。洗濯の手間考えろ、ほんと」


 レティア・グレイフォード。彼女は補助型と呼ばれる、俺たちの生命線だ。結界の展開、遠隔視による索敵、そして致命傷すら塞ぐ回復の才能。まさに『マーセナリィ』の『目』と『盾』の役割を担う女傭兵である。冷静沈着で頼りになるが、この通り、口が悪いのが玉にキズだ。


「はいはい、マーセナリィは今日も仲良しでなによりね」


 最後に現れたのは、不死身型の異名を持つ傭兵、エノーラ・アルベールだった。その名の通り、何をされても死なない女だ。体を『悪魔』の爪に貫かれようが、腹に風穴が開こうが、不気味なくらい明るく笑っている。


「お前、ほんとに死なねぇよな……」


 俺が思わず呟くと、エノーラは屈託なく笑って見せた。


「たぶんそのうち死ぬよ〜? でも今日じゃないと思う!」


 全員が全員、どこか壊れていて、常識外れで、そして圧倒的に強い。それが、俺たちの『マーセナリィ』だ。


 その時だった。何の気配も感じさせず、俺たちの間に一人の人物が立っていた。黒い外套に深く身を包み、その声は感情の欠片も感じさせないほど無機質だ。


 管理官、真壁静流(まかべしずる)


「新規訓練対象、二名を配属。両名とも、スピード適性あり。渋田・加藤、指導を担当してもらう」


「は?」


「はァ?」


 俺と加藤の声が、きれいにそろった。


 真壁の言葉が終わるか終わらないかのうちに、二人の少女が部屋の扉の影から、そろりと姿を現す。


 一人は茶色の髪を短くまとめ、緊張からか、俺たちと目を合わせられずにうつむいていた。篠原というらしい。だが、その伏せられた静かな目元は、どこか周囲を冷静に観察しているような印象を与える。


 もう一人は、腰まで届きそうな金髪を三つ編みにしていた。怯えた顔のまま、それでもギリギリの勇気を振り絞って声を発する。朝比奈と名乗った彼女は、体こそ震えているが、その両足はしっかりと地を踏みしめていた。


「し、渋田さん……! よろしく、おねがいします……!」


「……か、加藤さんっ。あの、わ、わたし……ちゃんと、動けるように、なりたくて……!」


 二人とも怯えきってはいる。だが、その瞳の奥には微かな覚悟の光が宿っていた。


(なるほど。素質はありそうだ)


 動きの質感、身体の重心移動、そしてこの夜の空気に馴染む速さ。なにより、歴戦の傭兵たちが放つこの殺気立った空間に、意識を保って立っていること自体が何よりの証明だ。


 だが、素質だけでは生き残れないのが、この夜の戦場だ。『速さ』だけでは、どうにもならない局面が必ずやってくる。


 それでも――。


「……加藤、死ねない理由が増えちまったな」


 俺がそう呟くと、隣で聞いていた加藤は、くくくっと喉を鳴らして笑った。


「渋田、お前もな」


 俺たちはまた、走ることになる。これまで二人分だった『生存』への理由が、一気に四つに増えたのだ。


 夜を生きる狩人たちの部隊に、新たな『命』が加わろうとしていた。


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