表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
達人傭兵『マーセナリィ』たちの夜  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

第2話 加藤、止まる気配がない

 俺の名前は渋田(しぶた)。夜にしか存在を許されない傭兵集団――『マーセナリィ』の一員だ。


 そして、隣を疾走するこの男が、俺の相棒。名前は加藤(かとう)


(狂ってる。心の底から戦闘を楽しんでやがる)


 けど、誰より速く、誰より確実に『悪魔』を仕留める。この夜において、こいつほど信頼できる奴はいない。


 今、俺たちの目の前にいるのは、人間のような姿をした悪魔だった。腐った肉が剥き出しになった腕、口元には犠牲者のものだろうか、人間の皮膚が張りついたままだ。その目は濁りきって、光を失っている。まるでゾンビのような、死者が動いていると錯覚させる異様な雰囲気を放っていた。


 だがこいつらは、ただの死体ではない。再生するのだ。首を斬っても、心臓を貫いても、黒い靄が傷口を瞬く間に包み込み、あっという間に元通りになってしまう。死を恐れず、痛覚もない。ただ本能のままに、生者を喰らうため襲いかかってくる。


 そんな化け物の群れを前に、加藤が歓喜の雄叫びを上げた。


「ッッッヒャハァァアッ!! 渋田ァ、こいつら最高だな! ゾンビっていうよりさ……何度でも壊せる『おもちゃ』って感じ!」


 両手に構えた鉈で、腐りかけた顔面を躊躇なく笑いながら叩き割る。血と膿の混じった黒い液体が周囲に飛び散るが、加藤はまるで気にも留めない。


 俺はその隣を並走しながら、肩越しに訊いた。


「加藤、お前……休む気あるのか?」


「へ? 何それ、『狩り』中だぞ? 夜が明けるまで、俺らは命燃やすって決まってんだろ?」


「そっか、じゃあ俺も燃やすわ」


「そうこなくっちゃぁあああああッ!!」


 俺たちは、スピード型の傭兵コンビだ。力で真正面から押すタイプじゃない。研ぎ澄まされた神経と反射、そして殺意のすべてを連動させ、悪魔の急所を正確に、連続で破壊し、再生する暇すら与えずに仕留める。


「渋田ぁ! こっちは先に頭潰しとくわ!」


 加藤が言うが早いか、悪魔の一体の頭上へと高く跳躍し、両手の鉈でその正中線を挟み撃ちにする。爆ぜるように頭蓋が砕け、ねじれた骨が四方へはじけ飛んだ。


 すかさず俺がその背後から滑り込む。膝蹴りで股間を砕き、体勢を崩した膝裏へナイフを深々とねじ込んだ。動きが鈍ったその一瞬を見逃さず、喉元へ蒼い残光を纏わせた刃を叩き込む。


 ――テンポがいい。まるで呼吸をするように、俺たちは殺しを重ねていく。俺と加藤の、完全なコンビネーションだ。


 腐肉を踏み越えながら、加藤がふと、ぼそりと呟いた。


「なあ、渋田……」


「なんだ」


「この夜、ずっと続けばいいのになぁ……」


「それは困る。昼にならなきゃ、俺たちの体がもたねえ」


 俺の返答に、加藤は心底楽しそうに喉を鳴らした。


「ふっふーん、体が壊れるまで狩り続けんのが本望なんだけど?」


「やっぱお前、ちょっと壊れてんな」


「ちょっとじゃねえよォ……完全にだよォおおお!!」


 俺たちは夜の狩人。この狂気と殺意とスピードが絶え間なく交差する戦場こそが、俺たちの生きる意味だ。


(そして加藤。こいつがいる限り、俺はまだ死ねない)


 だってこの男――あまりにも楽しそうに殺しすぎるんだ。その隣は、存外に悪くない。


 今日の狩りは、残り一時間ほど。日が昇る、その瞬間まで。俺たちはただ、走り続ける。


 夜が明けるその時まで、加藤が止まる気配は、まるでない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ